ビギナーさん 2024-02-05 22:29:16 |
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…おや、それは…?
(樒の言葉など相変わらずの何処吹く風、肉片を口にする眷属を眺めた後、樒の手元へ視線を投げた。其処には今しがた自身が口を付けたものと同じ形だが、少し小さな容器と─これまた奇妙な形をした菓子らしきものが放り出されている。眷属が不思議そうに首を傾げ、じっとそれを眺めるのに釣られたかのように問い掛けつつ、首を傾げて)
あー、外国のお菓子?
(買ったのは異国ではなく駅前のコンビニで、オマケに割引シールが貼られていた物であったがずっと昔の人間である相手には舶来菓子も同然であろうと適当な返事を。興味深そうに眺める彼らを意にも介せず乱雑に開封したそれを口に放り込む、香りの薄いカスタードクリームはじりじりと脳を焦がす程甘い、眉を顰める、それが好きでも嫌いでもすぐその表情を見せてしまう無自覚の悪い癖
…へえ、南蛮菓子なのかい。
(随分と小さなそれをまじまじと眺め、ひょいと指先で摘んでは─様々な角度から見分した後、樒の食べる仕草を真似るようにして、シュークリームを口の中へと放り投げた。薄い生地に歯を突き立てれば、途端に何やら甘ったるい匂いと味が、口の中に充満する。経験したことの無い甘さに少々目を見開きつつ、眉を顰める樒に向けて、緩やかに微笑み)
…ふむ、随分と甘いね。
食べたことないだろうと思ってな。
(南蛮菓子、と相手が使用した言葉に彼が人として暮らしていた時代は大体いつ頃以降か、と思慮を巡らせるも酒に浮ついた頭がそれを許す訳もなく、そんな事はどうでもいいかと、甘い味、色の酎ハイでその思考ごと流し込んで。現代に生きていると飽和する甘味に忘れそうになるが甘さは贅沢な毒だ、榊から漂う香りはこの卵色のクリームとどこか似ている、そんな彼が随分と甘い、と微笑むのでその皮肉につられて少し笑った
…まあ、甘味は久方振りだね。
(唇の端に付いたカスタードを親指で拭い、樒の笑みに釣られて更に表情を緩める。クリームが気になるらしい眷属に親指を向けてやれば、彼はそれを舐めた後─人間が眉を顰めるような仕草で身を引き、蜷局を巻いて膝の上に乗ってしまった。気に食わなかったかい、と笑えば彼は小さく首を縦に振って)
なら良かった、
(人に飼われている猫か何かのように膝で丸くなる蛇、遠くに聞こえる鳥の声、人間には持ち得ない神秘的な空気感を持つ男、それこそ神が住む世界に取り込まれたかのようで、手元の菓子の変わらぬ味だけが反対に違和感を発する異物のようだとも。酒は元々そんなに強くない、纏まらない思考がふわふわと頭を飛び回るのもそのせいだ、と柱に頭を凭せかけて
…おや、眠いのかい?布団を持ってこさせようか。
(柱に凭れ掛かった樒の姿にちらりと目線を投げ、眠そうな様子に気付いたらしい。膝の上で蜷局を巻いていた眷属に呼び掛ければ、眷属はずるずると膝から降りて童子の姿を取る。本殿の奥へと引っ込んでいくその背中を見送り、もう一つシュークリームを手に取って)
いや、流石に…
(空には薄いベール越しに頼りなく輝く月、雲が風に揺れる度に影が2人の元にさす、眠ってしまえばいい、と誘う相手の言葉に釣られたのかふわりと欠伸を見せて。夜の山道を降りて帰らないといけないというのに、ひとたびこのまま微睡んでしまえばずるずると朝まで寝入ってしまいそう、中身が残った酒の方ではなくリュックの中のぬるい水のペットボトルにぼんやりと口をつけて
…そうかい?…戻っておいで、
(シュークリームを口に含みつつ、樒の言葉を聞いて眷属を呼び戻す。軽い足音を立てて戻ってくる幼子─眷属を再び膝の上に乗せてやり、薄雲越しに輝く月を真っ直ぐに見つめた。月など既に見飽きた筈なのに、今宵の月は妙に美しく見えて)
…なんだよ、
(榊の膝に座り、じ、と大きな眼で此方を見つめてくる子どもの視線に、決して教育に良いとは言えないような鋭い目つきを送る、悪意はないのだけれど。ポケットから出した煙草をくわえてもその瞳は変わらず自分を捉えていたのでふっと煙を顔に吹きかければ、童のきっちり切り揃えられたような前髪がふわりと揺れて
…なんだよ、
(榊の膝に座り、じ、と大きな眼で此方を見つめてくる子どもの視線に、決して教育に良いとは言えないような鋭い目つきを送る、悪意はないのだけれど。ポケットから出した煙草をくわえてもその瞳は変わらず自分を捉えていたのでふっと煙を顔に吹きかければ、童のきっちり切り揃えられたような前髪がふわりと揺れて
…おや、あまり虐めないでやっておくれ。
(樒に興味があるのか、まじまじと眺めていた童子─否、眷属は吹きかけられた煙に形の良い眉を顰め、着物の裾を掴んでくる。それを宥めるように髪を撫でてやりながら樒に柔らかく微笑み)
今どきは児童虐待だなんだと煩いからな、
(不満そうに口を尖らせてこちらに冷たい視線を向ける眷属に、意地悪そうに口元を歪めて笑う、彼らに今の常識の話をしても分からないだろうと分かっていての文句。子どもの見た目は榊を幼くしたようにそっくりであるのに、感情の色が目によく映える分穏やかな笑顔を崩さない彼よりずっと分かりやすい、
…へえ。浮世は色々と大変なのだね?
(樒の言葉に小さく息を吐きだし、こてんと首を傾げてみせる。膝の上の童子も自身に釣られて首を傾げ、着物の裾を軽く引く。この社に囚われた身では、浮世の事情など碌に分かりもしない。薄く微笑みながらそう問い掛けてみて)
仕事とか人間関係とか…あぁ、何時でも同じか。
(乾いた目に煙がしみて痛い、空いた方の手でぎゅっと目を抑えながら半ば呟くように。自分の毎日の煩雑な憂い、恨み、焦燥、それらは何ら特別なものではない、相手が人間であった時代にも当たり前のように見られた事であった筈だ、「あんた等はいいな、」永遠のような時間に閉じ込められる代わりに手に入れる静寂、そんな色を瞳に映す榊と眷属の童に自嘲的にも見える笑みを
…然程良いものでもないよ。永久を生きると云うのは、終わらぬ苦痛と同じさ。
(自身にしてみれば、終りを迎える事のできる─人の子の方がよっぽど羨ましい。自虐的な響きを纏った声を上げ、さらさらと落ち葉を揺らすような、酷く乾いた笑い声を上げる。黙って話を聞いていた童子が膝からひょいと飛び降り、獲物を観察するように樒をまじまじと見つめ)
確かにコンビニもない山の中じゃあな
(酒、砂糖、煙、頭の中に靄を張ってネガティブな感情を一時的にでも麻痺させるそれらにすっかり依存しきっている現代人の自分は、彼の持つ幽玄なまでの静けさを手に入れる事なんて到底出来ないだろう、と。「ポイ捨てするな、って?」こちらを見つける子どもがそう言いたげだとでも判断したのか、随分短くなったタバコを指先で挟んだまま、ポケットの中を漁ってプラスチックの携帯灰皿を探り
…まあ、全てを否定するつもりは無い。…この山の景色だけは、変わらず美しいからね。
(再び乾いた笑い声を上げ、樒に対して何か言いたげな眷属─幼子へと目線を投げる。幼子は火の点いた棒を処理しようとする姿をじっと見守った後、「……近頃、お前が来ると主が喜ぶ」と容姿にそぐわぬ低い声で呟き)
…そりゃ光栄だ。
(随分と大人びた声色に驚いたのか一瞬の間を置いて、いつも通りの軽口で返す、同じくらいの背丈の吸殻がまっすぐ並んだプラスチックの小箱をぱちんと閉じて、「酒があるからかな、?」と親戚の子どもに対するような冗談混じりの口ぶりを。榊が喜んでいる、と童は言うが自分もまた、まるで暫くの友人と時間を共にしている時のような気でいるのは事実で
…ふふ、
(樒の言葉を聞いた幼子の表情が、目に見えて歪む。相変わらず感情の分かりやすい眷属に思わず小さな笑みを零し、膝の上で頬杖をつきながら─慈しむような眼差しでそのやり取りを眺めた。「…お前は、主を見捨ててくれるなよ」膝の上で手を揃え、真っ直ぐに樒を見据えて幼子は云う。彼なりの気遣いなのだろう、とすぐに理解したものの、樒にそれを押し付けるのは忍びない。窘めるように幼子を膝の上へ呼び戻してやり)
…はは、すまないね。子供の戯言だ、気にしないで良いよ。
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