相乗りで何処までも 【 〆 】

くそっ、そう上手くはいかねぇか……奴をいい気にさせてこっちの狙いを読ませねぇようにしねぇと
(犯人の男の腕を掴んで動きを制限しようとするがそれだけでは足りない、もう片方の手でメモリが取り出され相手がそれを押さえにかかるがこちらの体が振り払われて二人同時に体が動いてしまった。再び目の前でド.ー.パ.ン.トになることを許しヒヤリとするが相手が手を引いてくれたおかげで敵と距離をとる事ができる。こうなれば第二の作戦を実行するしかない、しかしあからさまに行動してはこちらの思惑は直ぐに知られてしまう。となれば、そんな知恵が回らないほどあの怪物を興奮状態にする必要がある。今やるべきことはこちらが不利であるのを演出し奴の気持ちを煽る事だ。怪物に聞こえないよう小さな声で作戦を囁く、実際不利であるのは事実なのだが圧倒的な力の差を目の当たりにすれば犯人は調子づくはずだ、その隙をつくしかない。再び現れた探偵二人に怪物はいらついた様子で襲ってきて工具のを持った腕を振り下ろしてくる、左腕が向かってきたところで横から蹴りを入れて攻撃を受け流すが直後蹴りを入れた足首に金属がまとわりついた。ずしりと重いそれに冷や汗が頬を伝う。余計な荷物だがこれでよりこちらが不利な状況になっただろう、ならば次にやることは『シッポを巻いて逃げようとすること』だ。蹴りを入れられ益々怒り心頭の怪物を前に「逃げるぞ！」と叫ぶと相手と共に外へ向かって走り出して)

っ、翔太郎！ ああ、顔写真は撮れたから後は警察に突き出せば…！
(男がメモリを使ってしまえば最善の道は絶たれる。やはりリスクを犯してでも奴自身にこの手錠を解いて貰う必要がありそうだ。小声で囁かれる作戦に目だけで了承の返事をすると怪物の動きを伺う。苛立った様子で振り下ろされた腕を避け、相手は蹴りも加えているがその足首に重りのように同じ金属がまとわりつくと焦ったように名前を叫ぶ。作戦としては悪くない状況だが身軽に動けなくなる分失敗するリスクが上がったことになる。演技では無い焦りが滲む中、相手が逃げろと指示を出せばタイミングを合わせて走り出す。更に男を煽り逃がさない為にも証拠となる顔写真を撮った事を告げ警察への通報を仄めかしながら逃げる。流石に直接的な手掛かりを探偵風情に握らせて帰らせる訳にはいかないのかますます苛立った様子でこちらへ向かってくるのが見えた。重りのハンデのある相手を気遣いつつ逃げているとマンション共通のゴミ捨て場に辿り着く。その先の道はフェンスで塞がれていて行き止まりだ。怒りとついに追い詰めた高揚と興奮に高笑いする怪物に後退りしつつ『恐らく切断の能力は一直線にしか使えないはずだ。だから予備動作が見えたら構えて手錠に攻撃を当てさせる』と小声で最後の確認を取って )

いい挑発だ、……あぁ、奴の動きに集中しろよ
(この場を逃げ出そうとする弱者を演じながら怪物に背を向け走り始める、その道中で相手が犯人の顔を撮影したことを叫べばさらに怪物は怒りの声をあげていた。これでもうあの犯人は二人の探偵を生きて返す事は出来ない、必ずこちらを追いかけ仕留めようとするはずだ。犯人の注意を確実に引かせる言葉を放った相手にニヤリと笑いながらマンション内を駆け抜けていく。これまでこちらが相手のスピードに合わせて走っていたが、重りを纏った体は逆に相手にスピードを合わせてもらう形になって、作戦通りにいっているとはいえいつも通りに動かない体に焦りも募る。大丈夫だと自分自身にも言い聞かせるために逃げる道中相手の手を強く握って廊下や階段を駆け抜けていった。やがてゴミ捨て場にたどり着く、まさに追い詰められたといった状況だ。怪物も興奮した様子で高笑いしながらこちらへと近づいてくる。相手から小声で能力の特徴を聞けば小さく頷く、あとは奴に金属を溶接する左腕ではなく金属を切断する右腕を振らせれば勝機が見える。周囲に目をやれば雑多に捨てられたゴミのなかにそこそこ大きいフライパンを見つける、これなら怪物が切断できる『金属』だろう。追い詰められた人間がガムシャラに守りを固めるように、乱暴にフライパンを手に取ると二人の体を守るようにして構える。弱者の悪足掻きをみた怪物は高笑いしたあとに『そんなもの、俺の前ではムダなんだよ！！』と叫んで狙い通り右腕が振られた。金属を切断する攻撃が飛来するのが見えればフライパンを引っ込め「今だ！！」と叫んで二人を繋ぐ手錠をその攻撃へと当てて)

っ…やはり生身で相手をするには危険な切れ味のようだ。
(逃げている間相手に手を強く握られる。確実にいつもより鈍い動きと追い詰められていることに焦りが募るが二人なら何とかなるはずだとこちらからも手を握り返した。やがて行き止まりのゴミ捨て場で怪物の方を向けば相手が捨てられているゴミの中から大きなフライパンを手に取る。フライパンという金属の盾を目の前に構えて防御体勢を取れば怪物はそれを破ろうと高笑いしながら腕を振りかぶる。狙い通りの攻撃が見えればにやりと口角をあげ相手がフライパンを引っ込める動作と共に手錠の中央に当てさせた。びくともしなかった金属は怪物の工具によって簡単に切断され二つに分かれた瞬間に左に転がって攻撃を避けた。その場で立ち上がり得意げな顔で切断された手錠を見せつけると怪物は『お前らまさかそれを狙ってっ！』と苛立ったように喚いている。悔しさの余り左腕を掲げ再び妨害をしようとするが咆哮と共に白い影が過ぎって怪物に襲い掛かって能力の使用を阻止する。足元に降り立ち威嚇するように一吠えするファングを見れば頼りになる護衛役に笑みを浮かべつつ相手の横に並ぶ。やはり定位置である相手の右側に立つ方がしっくり来て左側の相棒に目を向ける。手錠が切断され自由に動けるようにはなったが金属は纏わりついたままで機動性はいつもより悪い。足首にも金属のついた相手なら尚更だ。ならばとファングを手元に招くと「今日はこっちで行こうか、翔太郎」とメモリに変形させながら声を掛けて）

あぁ、なかなかいい切れ味だったぜ？……やっぱお前とはこの並びじゃねぇとな
(金属を切断する攻撃が飛んできてそこに二人を繋げる手錠を当てると見事に手錠は切断された。作戦が上手くいきニヤリと笑みを浮かべる、相手も大概同じ顔をして犯人を挑発していた。こちらもすました顔でハードボイルド探偵らしくクールな一言を添えてやれば怪物の怒りのボルテージは一気にあがって再び攻撃をしかけてこようとする。だがその前に聞き慣れた咆哮と共にファングが割って入れば再び不敵な笑みを浮かべた。相手が自分の右隣へとやってくる、ようやくいつもの位置へと収まれば、たかだか立ち位置だけだがやはりこちらの方がしっくりときた。そのまま相手がファングを呼び寄せる、今回は二つの重しを付けた体より相手の体をメインにした方が良さそうだ。相変わらずハードボイルド探偵を気取ってニヤリと余裕のある笑みを浮かべ「同感だ」と短く返事をすればドライバーを腰へとあてる。切札のメモリを起動させガ.イ.ア.ウ.ィ.ス.パ.ーを響かせるとメモリをドライバーへと挿入し意識ごとメモリを相手の体へと転送させて)

さ.あ.、お.前.の.罪.を.数.え.ろ！
（いつもの立ち位置となれば相手からも同じ想いの感想が聞こえてきて口元に笑みが浮かぶ。ファングを呼び寄せ今回は自分の体を使うことを提案すればハードボイルドらしい表情で返事がされる。腰に現れたドライバーを見やると転送されてきた切札のメモリを差し込み変形させた牙のメモリを挿入した。左側に相手の意識が流れ込んで来る感覚を覚えながら二人で一人の姿となればこれまで調子づいて犯行を重ねてきた怪物に声を揃えていつもの言葉を投げかけた。散々邪魔をされ挑発され怒りが最高潮に達した怪物は一直線に向かってきて右腕の工具を振りかざす。勢い任せの攻撃を避けると今度は左腕で足元と地面を金属で接着しようとしてくるが飛んできた塊を足首のセイバーで刻んでしまえば左右に分かれ地面へと落ちた。自分の攻撃や能力が通用しないことに?然とする怪物に今度はこちらから鋭い攻撃を連続で加えると呻き声をあげながら地面に転がった。その隙を見れば「このまま一気に決めようか」と相棒に声を掛けて）

金属が切れるのはお前だけじゃねぇんだぜ？……あぁ。とっておきの切れ味、見せてやろうぜ！
(相手の体へと意識が流れ込み二人で一人の姿になる、二人で息を合わせるならやはりこの立ち位置でこの方法でなければ。罪を重ねる人間に投げかける言葉を放ってやれば怪物は随分お怒りのようで力任せにこちらへと攻撃を加えようとする。だがこの状態の自分達に正気でない奴が勝てるはずがない、軽々と攻撃を交わし飛ばされた金属を切り裂いてやればハードボイルドに気取ったセリフを投げてやりこちらから反撃を開始した。鋭い牙が怪物の硬い金属を切り裂いて派手に火花があがると、そのまま怪物の体は地面へと転がる。相手の合図を受けると意識の中で頷く、そしてホーンを操作してマ.キ.シ.マ.ム.ド.ラ.イ.ブ.を発動させると体を宙へと巻いあげ「フ.ァ.ン.,グ.ス.ト.ラ.イ,ザ,ー！」とセイバーを伴った回し蹴りをお見舞いした。怪物の体は残光と共に再び派手な火花をあげてから元の人間へと戻る。体からメモリが飛び出し砕け散るのを確認すれば手首にまとわりついていたままの金属は消え去った。上手く作戦がハマったことに気をよくすると「俺達のコンビネーションの勝利だな」と半身へと声をかけ)

ああ。強力なメモリだったけど相手が悪かったね。
(マ.キ.シ.マ.ム.ド.ラ.イ.ブ.を発動させれば息を合わせてセイバーと共に回し蹴りを叩き込む。確かな手応えを感じると怪物の体は派手な火花を散らして元の体へと戻る。排出されたメモリが砕けると共にまとわりついていた金属は消えていった。意識を失った相手の体にも目をやればそちらもちゃんと消えていて問題無さそうだ。左半身から調子の良い声が聞こえてくればこちらも機嫌良く言葉を返す。手錠に攻撃を当てさせるという難しい策が成功したのも息を合わせて居ることになれている自分達ならではだろう。伊達に長い間二人で一人で動いてないとばかりに得意げに言葉を続ければ変身を解いた。右手が軽くなったのを感じつつ意識を失っていた相手の元に向かうと「何はともあれこれで事件解決だ」と誇らしげに手を差し伸べて)

(/いつもお世話になっております！そろそろ区切りも近いかなと思いお声がけさせて頂きました。手錠で手が繋がれ不自由な状態での事件でしたがアタフタしながら依頼をこなす事が出来てとても楽しかったです。お互いの機転を効かせたコンビネーションも出来て二人ならではの解決が出来たと思います、今回もありがとうございました。
さて次の話ですがいかがしましょうか。お話していた鏡の異世界の話でも他の日常的な話でも楽しそうだと思うのですが探偵様のご希望お聞かせください。)

___あぁ、早いとこジンさんに知らせてやんねぇとな
(こちらが調子づいた事を言えば相手からも同じような言葉が返ってくる。立ち位置を逆にされたくらいでは二人の足並みが不揃いになることはない、最初の頃を除いてはだが。だがド.ー.パ.ン.トと生身で対峙しなければならないあの場面で一発逆転をもぎ取れたのは二人だからこそだろう。変身が解かれて意識が体へと戻る、体にまとわりついていた重りはすっかりなくなって軽くなった上半身を起こした。そのタイミングで相手がこちらへと手を差し出すのが見えれば勝利を称えるように笑みを浮かべてその手を取って)

(/こちらこそお世話になっております！いつもとは違う勝手でワイワイ楽しくやりながらも最後は二人でビシッと決めてみせたカッコイイ終わり方をして実に二人らしいお話になったと思います。途中噂される中で手を繋いでしまう検索くんのかっこよさに背後共々グッときておりました……こちらこそ今回もありがとうございました！
それでは次のお話ですが満を持して鏡の異世界のお話ということにしましょう！鏡の異世界の記憶は地.球.の.本.棚.にもあるはずですので、その記憶を使ったメモリ犯罪、みたいな感じでしょうか？？)

…鏡の揺らめき、興味深い話だ。
(お互いの意思で繋がった手を取っていつもの立ち位置に戻れば直ぐに刃.野.刑.事に連絡を入れた。色々事情聴取はあったものの仮.面.ラ.イ,ダ.ーが助けてくれたと証言をすれば納得したようで連続空き巣事件の犯人は捕まり街には平和が戻った。空き巣はメモリ犯罪によるものだったという噂も風に乗って街に広がりあの時手錠をかけられたまま出歩いたことも特に広がることは無かった。そうしていつもの日常が戻ってきた数日後、昼過ぎの楽しみの時間がやってくれば椅子を持ってきてラジオの前で待ち構える。若.菜.姫のラジオが始まり上機嫌に聞こえてくる声に耳を傾けているとメインコーナーである風.都.ミ.ス,テ.リーツアーに移る。リスナーから寄せられた投稿が読み上げれていくがその中でも数件同一の内容の物があったとして読み上げられたのが鏡の中で何が動いた気がするという内容だ。まるで水面のように鏡との境界線が揺れ中に入ってしまえそうだったという投稿が複数件あったと若.菜.姫がテンション高く告げるとそれに吊られるように唇に触れながら好奇心に目を輝かせていて)


(/では鏡の異世界の話に致しましょう！なるほど、本来存在はしてるけど干渉出来ない世界にメモリのせいで触れたり入ることが出来るようになってそれを悪用する人が現れて…みたいな感じでしょうか。その過程で前にお話したように鏡の中の探偵君と検索を登場させたり異世界を探索出来たら楽しそうです…！ひとまずどう繋がっても良いような初回を投げておきましたのでまた好きなように話を展開出来たらと思います。)

今日のは特別オカルトな話だな
(金属を自在に操る空き巣犯を捕まえて数日、街には平和な風が吹いていた。コソ泥は捕まり閑静な住宅街しか移動しなかったせいか有難い事に鳴.海.探.偵.事.務.所の二人が手を繋いでいただとか手錠で繋がっていただとかいう噂話は流れてこなかった、あの時の相手のひと睨みがそこそこ効いていたのかもしれない。ここ最近の報告書も作成しおわり相手がいれてくれたコーヒーを飲みながらソファに座りラジオを聴く。メインコーナーの内容はいつも奇妙なものが多いが今日のお便りは心霊現象のような内容だ。鏡は往々にして怖い話につきものではあるが、数件同一の内容があったというのが妙に引っかかる。相手がいつものように好奇心に目を輝かせている横で怪訝な顔をしてラジオを聴きながらコーヒーをすすっていると事務所の扉がノックされる。コーヒーを置いて軽く服装を正すと事務所の扉をあけて一人の女性を迎えいれた。軽い挨拶のあと、女性は『私の同僚が行方不明で…彼を探して欲しいんです！』と依頼内容を切り出して)

(/いいですね！メモリのせいで交わらないはずの世界が交わって世界の均衡が揺らぐ感じがとても好みです…ぜひそんな感じでいきましょう。曖昧になった世界線を越えて迷い込んで帰れなくなってしまったり、鏡の中の自分に飲み込まれてしまうと体を乗っ取られたり、みたいな所もいれてより緊迫感が出せればいいなと！そしてぜひぜひ鏡の世界の検索くんと探偵と邂逅しましょう！いつものように好きな展開いれつつやれればと思います。ハードなシリアスになる予感ですが今回もよろしくお願いします/なにもなければ蹴りで大丈夫です！)

……つまり何かしら事故や事件に巻き込まれた可能性が高いと
(現実的にはありえないはずの話ではあるが複数件のお便りと鏡の先の世界という興味惹かれる内容に関心を寄せる。何より若.菜.姫が『もし鏡の中に別の世界があったら面白そうですよね』と声を弾ませていれば非現実的なことなど些細な話だ。隣で相手が怪訝な顔をしているのも気にせずラジオに集中していると事務所にノック音が響いた。仕方なくラジオの音量を落とすと椅子の位置を戻して依頼人を迎え入れる。相手が対応している内に依頼人の分のコーヒーを入れて椅子に座るのを促すと共にテーブルに置くと彼女が依頼内容を切り出した。内容は良くあるような行方不明の人を探して欲しいという物だが同僚は社内の一大プロジェクトに関わっていて途中で投げ出すような人物では無いという。連絡が取れなくなってから一週間程、マンションの管理人に頼み部屋にも入ったが電気は付けっぱなしで冷蔵品の入った買い物袋が床に投げ出されたままだったらしい。警察にも親族から捜索届けを出したようだが居ても経ってもいられずこの事務所に来たとのことだ。話を聞く限り自ら失踪したというよりも外部的要因で居なくなったという可能性の方が高いだろう。親しい同僚で気に病んでいるのか憔悴した彼女の顔を見れば答えは分かっていながらも「どうするんだい、翔太郎」と話を振って)

その状況だけでいやまさに拐われたって感じだが、家の中か……決まってんだろ？こんな綺麗なお嬢さんの依頼を断るわけにはいかねぇ。俺達がお嬢さんの同僚を華麗に探し当ててみせますよ
(ソファに向かい合って座り今度は依頼人の話に耳を傾ける、行方不明者を探して欲しいという依頼は時折あるものだが奇妙な点は行方不明者の痕跡が家の中で途絶えている事だろう。彼女曰く『馬鹿みたいに正直で真っ直ぐなのが彼の唯一の取り柄』らしく、また彼女の口ぶりからするに職場でも可愛がられていたのを思うと自ら行方を晦ますことも考えにくい。となると何かに巻き込まれた、と考えるのが筋だ。依頼内容を聞けば次にやることはその依頼を受けるかの返事だ、相手から選択を委ねられるが答えは決まっている。この街に住む彼女が泣いているのなら風.都.の探偵として助けないわけにはいかない。口にはハードボイルドらしくニヒルな笑みを称え渾身のキメ顔で依頼を受けることを相手と彼女とに伝える。存分にかっこよく決まったはずなのだが彼女は『あ、そういうの間に合ってるんで』と一蹴されてしまい返り討ちにあって言葉を詰まらせていた。その後連絡先などを交換し何か分かれば電話することを約束すると彼女は事務所を去っていく。二人きりになった事務所で未だ彼女の鋭い切り返しによって負った傷を抱えながら「とりあえず同僚の家いくか…」と若干沈んだ声で言い)

しっかりした依頼人のようだ。ああ、何か手掛かりが残っているかもしれない。
(不可解な状況での行方不明者であり警察が介入しても未だ解決に至っていない辺り一筋縄ではいかなそうな依頼内容だ。相手に選択を委ねると予想通りハードボイルドを気取った表情と口調で依頼を引き受けると依頼人に伝えている。相変わらずだと見守っていたが渾身の決まり文句を依頼人に鋭く一蹴されていると思わず笑ってしまいそうになって何とか掌で口元を隠した。その後もテキパキと連絡先の交換や依頼の進め方などの手続きを進め『彼のこと宜しくお願いします』と一礼して去っていく彼女を見送った。さっきの切り返しといい芯の通った彼女の対応に感心したように感想を呟く一方隣からはダメージを負った相手から若干沈んだ声が聞こえてきて耐えきれず小さく笑いが零れた。何とかそれを誤魔化すように方針に同意すると早速身支度を整えて事務所を後にした。教えて貰った住所にたどり着き彼の部屋だった階に向かう。依頼人の方から管理人などに連絡を入れてくれたようで自由に入っても良いらしい。早速玄関の扉を開け中に入るが部屋は家電や家具、姿見や生活用品などが揃った至って普通の部屋だ。ぐるりと室内を見渡すが「…見る限りは一般的な部屋だ。特に争った形跡なども見受けられないね」と感じたことを口にして)

……あぁ、連れ去られたにしちゃ家が綺麗すぎる。まるでここから突然いなくなったみたいだ……
(こちらが次の方針を共有すると相手からは我慢の限界とばかりに笑いが漏れて恨めしげに相手の方をみる、きっと彼女に一蹴された時点から笑いを堪えていたのだろう。ただかっこよく決めようとしただけなのにあんな切り返しをされてしまうとは。彼女に対する印象は相手と同意見で頷き答えた後に事務所を後にして同僚の家へと向かった。依頼人の彼女がバッチリ手を回していたおかげで部屋へもすんなりと入る事が出来る、仕事が出来る人間というのは彼女のことを言うのだろう。玄関を開けて部屋のなかに入る、中は男の一人暮らしを体現したようなインテリアだ。警察の捜査が入ってもあまりものは動かされていないらしく、部屋の途中で買い物袋がポツンと放置されたままだ。だが何より奇妙なのは部屋に争った形跡がないことだろう。自宅に帰ってきたところを無理やり攫った可能性も考えていたがそれにしては部屋が綺麗すぎる。相手に返事をしながら周囲を見回しているとふと姿見が視界に入った。ぼんやりと先程の若.菜.姫のラジオを思い出しながら鏡を覗き込んでいれば、鏡の中の自分になんとも言えない違和感を感じる。怪訝な顔でじっと鏡をみればこちらを同じくみていた鏡の自分は自分でも見た事のない邪悪な笑みを浮かべて思わず「なっ、」と声をあげる。だが直後鏡像の自分はこちらの動きとまったく同じ動きをしていて再び眉間に皺を寄せる。鏡から目をそらせば「疲れてんのか…？」と一人呟いていて)

もしそうだとしたら彼は何処に…、翔太郎？…普通の鏡みたいだけどいつもの髪型チェックかい？
(何か揉め事があったような痕跡はなく相手の言う通り突然居なくなったという表現の方が似合うような状況だ。そんな異常なことがあるとするならまず疑うべきはメモリの関与だが何処に消えたのも含め分からない事ばかりだ。他に何か手掛かりが無いかと見ていると視界の端で相手が姿見の前で怪訝な顔をしているのが映る。突然驚いたような声をあげるのを聞けば気になってそちらに近付く。隣に並んで相手が凝視していた鏡を見てみるが特に変わったことはなく二人の姿が映るだけだ。相手の反応に不思議そうにしつつハードボイルド探偵としての格好の確認かと揶揄い混じりに問いかける。それと同時に若.菜.姫のラジオでも鏡についての噂話があったのを思い出した。鏡の奥に違う世界があるとすればここから見えるだろうかと何気なく相手が目を逸らした鏡の表面に触れると境界を超えて掌が奥に沈んで「え、」と困惑した声が零れた。有り得ないはずに現象にパニックになっていると鏡の中に入った手を何者かに掴まれる。そのまま勢い良く引っ張られると手首から先も鏡の中に入っていき「ッ、翔た」と相手の名前を呼ぶ声も途中で遮断され、鏡の揺らめきだけ残して姿を消して)

いや、あんな話聴いたせい…っ、フィリップ！！なん、だ今の……
(一瞬だけ見えた見たことの無い表情をする自分、鏡像がそんな動きをするはずもなく気のせいだと割り切ろうとするが何かが胸を掻き乱す。こちらの胸中も他所に相手が揶揄うような言葉を投げかけてくる、今は捜査に集中しなければならないのに妙に鏡が気になるのは若.菜.姫のラジオで聴いた話のせいだろう。なんでもないと言おうとしたところで今度は相手の方から困惑の声が聞こえた。慌てて相手の方を振り返ると、相手は今まさに鏡の中へと吸い込まれていくところで思わず名前を叫んで手を伸ばす。だが相手を捕まえることは出来ず鏡の中へとその姿は消えて、相手を飲み込んだ鏡が水面のように揺らめいていた。思わず絶句してしまうが相手をこのままにはしておけない。揺らめく鏡に手を伸ばせば手は鏡の中へと吸い込まれていき目を見開く。有り得ない現象に戸惑いつつも早く相手を助けなければとそのまま自ら鏡の中へと飛び込んだ。鏡を抜けた先の世界はまるで先程の部屋を全て左右逆転させたような、まさに鏡の中の様相をみせる。周囲に相手の姿はなくて急いで外へと飛び出した。外へ出ても周囲は不気味なほど静まり返り人気がない、異様な空気を肌で感じながら相手を探し歩いているとここへくる途中にも見えた行き先を示す標識が頭上に見えた。しかしそれらの文字は全て鏡写しになっていて無意識に吐き出す息が震える、ここは風.都.のようでいて風.都ではない世界だ。「どうなってんだよ…」と小さく呟いたあと相手を探しながら彷徨い歩き)

『翔太郎、探したよ。』
(鏡の中の世界は元の世界をまるっきり左右反転した場所だ。人気も無く静まり返る世界は時が止まったようで生気すら感じられない。相手が異様な世界を観察しながら辺りを彷徨っていると背後から相棒が名前を呼ぶ。左側に留めた象徴的なクリップと個性的な服が目立つ相棒はやけにニコニコしながら相手の元に近付いてきて目の前にやってくると漸く会えたと安堵の息をつく。相手と会うことの出来た相棒は『ここに来る途中依頼人を見つけたんだ、早く助けに行こう』と告げると相手が口を挟む間を与えないでその手首を掴む。向かう先として部屋から離れる方向の道を指さすと急かすように強引に引っ張っていこうとして)

フィリッ、……待て。お前、さっきまでクリップ右側に付けてたろ。なんで……鏡写しの格好してんだ？
(奇妙な風.都.を彷徨い歩いていると聞き慣れた声がして安堵した表情と共に振り返る。だがその姿をひと目みて違和感を抱いて言葉が途切れる。目の前の相手は所作も声色も何もかも相手のはずなのに何かが違う。こちらが違和感を解き明かそうとする前に相手は手首を掴んでどこかへ連れていこうとする、まるで急いでこの場からこちらを動かそうとするように。軽く腕を引いて動きを止めさせる、その頃にはようやく違和感の正体に気がついた。相手の髪についたクリップの位置が、左右非対称の服の丈の長さが、時計をする腕が、何もかもが自分の知る相手とは逆だ。それこそ鏡写しのように。一番目に着くクリップのことを言及しあえて『鏡』という言葉をいれて、相棒の姿をした何かに正体を探るように問いかけて)

『…、流石にこれで騙される程馬鹿では無いか。』
(相手の手首を掴むとそのまま引っ張ってその場から移動させようとする。だが腕を引かれ制止を呼びかけられると動きを止めて振り向いた。向けられる目には懐疑的な色を含みその根拠とばかりにクリップの位置を指摘される。加えて鏡写しだと言われてしまえばもう芝居を続けるのは難しそうで小さく舌打ちをして表の自分らしい笑みを崩して人を見下すような冷え切った目を向けた。気が逸れている隙に掴んでいた手首を再び引いてこちらに一歩踏み出させた所を足で掬いバランスを崩させた。そのまま床に押し倒すと相手の腹の上に遠慮なしに横向きに座って体重を乗せる。身動きを封じることが出来れば愉悦を覚えた嫌な笑みを浮かべながら『君の考えている通りだよ。僕は君の相棒のフィリップだ、但し鏡の中のだけどね』と正体を明かし)