Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.766 by ヴィヴィアン・パチオ  2024-05-18 19:07:58 




……ギデオンさん、まずはウェンディゴを、……!?

 ( 二つの資料を照らし合わせて。声も無く項垂れてしまった相棒に寄り添うと、その目を真っ直ぐに覗き込む。"ネズベタ市"に"フンツェルマン"工具店、それらの単語には、ギデオンから少々の注釈をいただいたものの、ビビとて今のこの状況が最悪なものであるということは正しく理解している。しかし……いや、だからこそだろうか。ギデオンの苦悩とは裏腹に、改めて──やはり数日後の儀式は絶対に止めなければ、とビビの心は決まっていた。みすみすあの優しい少年を魔獣になどしない。将来、可愛い姉妹達に酷い罪を背負わせない。彼、彼女らには自由な世界を生きる権利があって、未だに信じ難いフィオラの罪は、今の大人世代で精算されねばならない。そう大きなエメラルドを真っ直ぐに煌めかせて──まずはウェンディゴを、『倒しに行きましょう!』と、ぎゅっと拳を握りかけた瞬間だった。外から聞こえてきた物音に、相棒によって考えるより早く用具入れに押し込まれると。外から聞こえてきた会話の内容に目を見開くこととなるのだった。
「首尾はどうだ、冒険者たちの誘導は上手くいったか」まずそう口を開いた男は、この数日間レクターの調査に振り回され……もとい、付き添っていた村の青年だ。「大方な。今頃、地下洞窟で"冒険"中じゃないか──……ただ、あの若い女ともう一人……ギデオン・ノース、といったか。ああ、昨晩イシュマを殴ったやつだ。あの二人の姿が見当たらない」そう答えた男の方も何度か姿を見た覚えがあるが、どうやら男達は用具入れの侵入者に気づいたわけではないらしい。さっさと必要な物を手に入れて、不用心に離れて行こうとする背中に──しかし、ビビら二人の表情は晴れない。今、誘導って……地下洞窟……? そう小さく頭を動かして、ギデオンと目を合わせると、相棒の顔色を見るにビビの聞き間違いでは無さそうだ。続いて「レクターもいい加減うるさいが……アイツは何時でも構わない。まずは冒険者の方を仕留めるんだ」そう耳にしたその瞬間。「極力女の方には見られるなよ、泣かれると萎える」「そういえばあの年増の方は随分うまく──」と。扉の閉まる音と共に続いたそれは、全くもって耳に入らずに。未だ用具入れの中、真っ青な顔色で掻き消えてしまいそうな呟きをポツリと。 )

…………私、地下洞窟の入口を探してきます。
ギデオンさんは、どこか、安全なところに……


  • No.767 by ギデオン・ノース  2024-05-19 22:16:53 




──馬鹿を言うな。
おまえを一人にするわけがないだろう。

(相棒の無謀な提案を、鋭い小声でぴしゃりと遮り。腕のなかで震える娘、その大きなエメラルドを、今ばかりはきつく睨みつける。そんな薄情なことは言ってくれるな、悪手中の悪手でしかないだろう。そう言い含めようとしたところで、しかしふと……何か思い至ったように、その険しい表情をほどいて。
暗く狭い、箱の中。一瞬、考え込むような沈黙を差し挟んだギデオンは、しかしその口から不意に、温かい息を零した。次いで何をするのかと思えば、元々腕のなかにいるヴィヴィアンを、そっと間近に抱き寄せる始末だ。そうしてまずは、“大丈夫だ”、と体温で伝え。相手の恐れを宥めるように、後頭部を撫で下ろしてから。小さな旋毛にキスを落としたその唇を、相手の耳元に寄せていき……「約束しただろう、」と、低く弱々しい声で囁く。──それは半ば、自分自身にも言い聞かせるための台詞。あの夜明けの病室で味わった、恐怖、祈り、安堵、敗北。もう決して、同じ過ちを繰り返すわけにいかない。故に、こいねがうようにして、今度は優しく相手の瞳を覗き込み。)

お互い、二度と会えなくなりかねない真似はしない。……あのとき、そう決めたよな。
だから、絶対に──ふたりとも、必ず無事で、この村を脱出しよう。
……そのための作戦を立てないと。



  • No.768 by ヴィヴィアン・パチオ  2024-05-21 13:04:54 




っでも……!!
う、…………そう、ですよね。ごめんなさい。

 ( ギデオンの鋭い睨んだ視線に、勢い余って言い募るも、そっと優しく抱き寄せられて、穏やかな口調で語りかけられれば。はっと目を見開いたのは、自分がいつかのギデオンと同じことをしようとしていたことに気づいたためで。もはやもうフィオラははっきりと、こちらに害を加え始めた。幸いと言うべきかどうか、ビビは彼らに脅威としても認識されていない故に、ならば自分が──と思う気持ちは、決して動揺から来るそれだけではなかったのだが。何より大切なギデオンを守りたい、その気持ちがためだけに、仲間の救出の可能性を下げる発言をしてしまった。そしてそれはギデオンの冒険者としての矜恃を傷つけるものだったと、分厚く硬い胸板にしょんぼりと小さく額を預ければ。覚悟を決めるかのように、ぎゅううっと一度強く抱き締めてから、すっかりいつもの様子で勢いよく顔を上げ。 )

はいっ! 絶対全員で……ふたりで、おうちに帰りましょうね。

 ( そう言い募る途中でぴょこりと小さく背伸びして、その唇へ短く甘く吸いつくと。えへへ、と小さくはにかんで、最後にもう一度軽いハグを。そうして、外の安全を確認しながら、ゆっくりと一歩踏み出すと──目的はこれ以上の被害者を出さずに、フィオラの蛮行を止めること。ならば最前の行動は──そう真剣に悩む振りをして、さり気なく口元を隠すのは、治療室の約束をギデオンが覚えていてくれたことが嬉しくて、場違いに緩んでしまう表情を隠しているつもりで。 )

──まずはやっぱり地下洞窟を見つけたいところですけど、私達が勘づいたって知られるのは良くない、ですよね?
夕方の……ラポトには参加した方が良いでしょうか。


  • No.769 by ギデオン・ノース  2024-05-25 15:51:21 




(吹雪のベールが覆い隠す陸の孤島に閉じ込められ、仲間たちは皆敵の術中。そんな状況に、先ほどまでは重苦しい絶望感さえ漂っていたはずだ。しかし今はどうだろう。ヴィヴィアンと今一度抱き合い、元気になったその表情を眺めるだけで、己の胸の内にみるみる希望が湧き上がってくるのを感じる。それは不思議なようでいて、しかし思えば納得するものでもあった。戦闘職である自分に対し、相棒の役職はヒーラーだ。彼女の無邪気な明るさは、いつだって味方を癒し、悪しきものを力強く薙ぎ払ってくれる。
現に今、「そうだな……」と。箱の中から外に出て、周囲の製薬設備を眺め渡したギデオンは、その横顔を随分と前向きなそれに変えていた。相棒の問いに立ち止まり、顎に手を添えながら、真剣に思案する。窓から差し込む日の光は、先ほどよりいくらか弱い──夕刻が近づいている。儀式までそう時間がない、夜を迎えれば洞窟組の救援も困難になる、しかし慎重さは必要だ。)

全面的に欠席するのは、間違いなく悪手だろう。だが、ラポトはおそらく、この村独自のやりかたの儀式だ。そうなると、宗教的な理由にかこつけて何を強いられるかもしれない。諸々の用意だって、いつも村がしている以上、何かを盛られても気づけない可能性がある。
だから……タイミングを読んで遮ってくれる“協力者”が、必要になるだろうな。

(──ギデオンとヴィヴィアンが、最終的に目指すもの。それはこのフィオラ村、ひいてはヴァランガ峡谷を、無事に脱出することだ。
これが自分たちふたりだけなら、きっとそう難しくはなかった。しかし今回は状況が違う。共にクエストに臨む仲間たちと、守るべき一般人の同行者が味方にいる。そうして頭数が多ければ多いほど、意思の統一が難しくなり、動きも目立ち易くなる……何においても危険度が跳ね上がる。それでも見捨てるわけにはいかない、必ず一緒に助かってみせる、それが冒険者として当然の考えというものだ。
それに、かれら身内だけではない。村の子どもらもまた、救いたい対象だった。大人たちがどんな悪事に手を出しているにせよ、まだ無邪気なあの子たちに、親世代の罪を背負わせる道理などあるだろうか。それにヴィヴィアンの推察どおり、数日後に控える別の“儀式”で、“ウェンディゴ・エディ”を退ける目的で、あの少年が魔獣化の薬を飲まされてしまうのだとしたら。何も知らぬ子どもたちが、ある日突然、忌まわしい因習の犠牲になっているのだとしたら……。それはやはり、知ってしまった責任のある立場として、絶対に食い止めてやるべきことだ。
村を出た後の危険のことを考えても、ウェンディゴを先に倒しておく選択肢は有効だ。少なくとも、子どもたちを儀式から遠ざけられる確率が上がるだろう。彼らをすぐに連れ出すのは正直なところ厳しいが、だが敵はあの魔物だけでない……いつ刺されるかわからない恐ろしさだけで言えば、今いるフィオラ村の人々のほうが、ギデオンには遥かに恐ろしい。故に手を入れるなら、まずは村のほうからだ。
──そこでギデオンが提案したのは、真っ先にこのフィオラ村の弱点を突くような作戦だった。フィオラ村はおそらく、顧客である貴族に命じられるからというだけではなく、自分たち自身の意志で、この峡谷にとどまっている。それはおそらく、例の“花”が、そしてその蜜を採る蜂が、この土地に根付いているからだ。だとすれば、“花”と“蜂”に何かトラブルが起きたとき、村はよそ者どころじゃなくなる。それに、あの“骨の結界”。あれが崩れればウェンディゴが入り込みやすくなるという話であるから、もしそれが乱されたと聞き知ったなら、その修繕に奔走することになるだろう。故に、上手く虚実を織り交ぜれば、自分たちの動きやすいように村を操ることができる。
しかしこの多面的な情報戦は、ギデオンとヴィヴィアンだけでは到底手が足りない、という問題がある。離れ離れになればなんとかなるかもしれないが、それでは互いを守れない。村に残っている冒険者としてはエデルミラがいるだろうが、ギデオンは今の時点で、彼女を戦力から除外していた。一応、身内ではある……が、正直なところ、信頼はできない。この村に来てからというもの、彼女は様子がおかしかった。それに昨夜のクルトとの会話や、先ほどの村人たちが口走っていた件もある。もしかしたら、冒険者たちがあっという間にバラバラに分かれてしまったことさえ、報告を受ける彼女の側に作為があった可能性は否めない。
だから自分たちには、どうしても別の協力者が必要だ。特に、村からの信頼を既に勝ち取っているような。──例えばその賑やかさで、村人たちすら呆然とさせ、全く警戒されないような。)

……まずは、レクターを探しに行こう。あいつも薄々、この村の発展の仕方がおかしいことは察しているはずだ。



  • No.770 by ギデオン・ノース  2024-05-25 16:13:59 




(吹雪のベールが覆い隠す陸の孤島に閉じ込められ、仲間たちは皆敵の術中。そんな状況に、先ほどまでは重苦しい絶望感さえ漂っていたはずだ。しかし今はどうだろう。ヴィヴィアンと今一度抱き合い、元気になったその表情を眺めるだけで、己の胸の内にみるみる希望が湧き上がってくるのを感じる。それは不思議なようでいて、しかし思えば納得するものでもあった。戦闘職である自分に対し、相棒の役職はヒーラーだ。彼女の無邪気な明るさは、いつだって味方を癒し、悪しきものを力強く薙ぎ払ってくれる。
現に今、「そうだな……」と。箱の中から外に出て、周囲の製薬設備を眺め渡したギデオンは、その横顔を随分と前向きなそれに変えていた。相棒の問いに立ち止まり、顎に手を添えながら、真剣に思案する。窓から差し込む日の光は、先ほどよりいくらか弱い──夕刻が近づいている。儀式までそう時間がない、夜を迎えれば洞窟組の救援も困難になる、しかし慎重さは必要だ。)

全面的に欠席するのは、間違いなく悪手だろう。だが、ラポトはおそらく、この村独自のやりかたの儀式だ。そうなると、宗教的な理由にかこつけて何を強いられるかもしれない。諸々の用意だって、いつも村がしている以上、何かを盛られても気づけない可能性がある。
だから……タイミングを読んで遮ってくれる“協力者”が、必要になるだろうな。

(──ギデオンとヴィヴィアンが、最終的に目指すもの。それはこのフィオラ村、ひいてはヴァランガ峡谷を、無事に脱出することだ。
これが自分たちふたりだけなら、きっとそう難しくはなかった。しかし今回は状況が違う。共にクエストに臨む仲間たちと、守るべき一般人の同行者が味方にいる。そうして頭数が多ければ多いほど、意思の統一が難しくなり、動きも目立ち易くなる……何においても危険度が跳ね上がる。それでも見捨てるわけにはいかない、必ず一緒に助かってみせる、それが冒険者として当然の考えというものだ。
それに、かれら身内だけではない。村の子どもらもまた、救いたい対象だった。大人たちがどんな悪事に手を出しているにせよ、まだ無邪気なあの子たちに、親世代の罪を背負わせる道理などあるだろうか。それにヴィヴィアンの推察どおり、数日後に控える別の“儀式”で、“ウェンディゴ・エディ”を退ける目的で、あの少年が魔獣化の薬を飲まされてしまうのだとしたら。何も知らぬ子どもたちが、ある日突然、忌まわしい因習の犠牲になっているのだとしたら……。それはやはり、知ってしまった責任のある立場として、絶対に食い止めてやるべきことだ。
村を出た後の危険のことを考えても、ウェンディゴを先に倒しておく選択肢は有効だ。少なくとも、子どもたちを儀式から遠ざけられる確率が上がるだろう。彼らをすぐに連れ出すのは正直なところ厳しいが、村にとっての脅威を先に排除しておけば、次に村に踏み込むまでの間、子どもたちの運命はおそらく保留されるだろう。しかし、ギデオンたちにとっての敵は、何もあの魔物だけでない……いつ刺されるかわからない恐ろしさだけで言えば、今そばにいるフィオラ村の人々のほうが、己には遥かに恐ろしい。故に手を入れるなら、まずは村のほうからだ。
──そこでギデオンが提案したのは、真っ先にこのフィオラ村の弱点を突くような作戦だった。フィオラ村はおそらく、顧客である貴族に命じられるからというだけではなく、自分たち自身の意志で、この峡谷にとどまっている。それはおそらく、例の“花”が、そしてその蜜を採る蜂が、この土地に根付いているからだ。だとすれば、“花”と“蜂”に何かトラブルが起きたとき、村はよそ者どころじゃなくなる。それに、あの“骨の結界”。あれが崩れればウェンディゴが入り込みやすくなるという話であるから、もしそれが乱されたと聞き知ったなら、その修繕に奔走することになるだろう。故に、上手く虚実を織り交ぜれば、自分たちの動きやすいように村を操ることができる。
しかしこの多面的な情報戦は、ギデオンとヴィヴィアンだけでは到底手が足りない、という問題がある。離れ離れになればなんとかなるかもしれないが、それでは互いを守れない。村に残っている冒険者としてはエデルミラがいるだろうが、ギデオンは今の時点で、彼女を戦力から除外していた。一応、身内ではある……が、正直なところ、信頼はできない。この村に来てからというもの、彼女は様子がおかしかった。それに昨夜のクルトとの会話や、先ほどの村人たちが口走っていた件もある。もしかしたら、冒険者たちがあっという間にバラバラに分かれてしまったことさえ、報告を受ける彼女の側に作為があった可能性は否めない。
だから自分たちには、どうしても別の協力者が必要だ。特に、村からの信頼を既に勝ち取っているような。──例えばその賑やかさで、村人たちすら呆然とさせ、全く警戒されないような。)

……まずは、レクターを探しに行こう。あいつも内心、この村がおかしいことに気がついているはずだ。



  • No.771 by ヴィヴィアン・パチオ  2024-06-02 09:03:18 




──はいっ!

 ( それはただでさえ行動の読めない村民を、さらに撹乱するという危険な作戦。しかしそんな大胆な作戦も、この人が言うならできるのだろう。そんな信頼溢れる瞳を輝かせ、ぴんとたった赤い耳を元気に震わせ頷き、村の方へと探し歩けば。儀式の直前とはいえ、先程も村の男達が訪れたばかりだ。悪いことに村からこちら側には、この隠された養蜂場以外にめぼしいものは何も無く、ここで見つかれば言い訳ができない。故に二人が村から養蜂場への最短ルートを避けるように、村への帰路を少し遠回りしても尚。その聞きなれた大音声のお陰で、話題の相手はすぐに見つかり。
そうして戻った小屋へと軽い防音魔法を施し、養蜂場で見聞きしたそれを伝えると、さしもの名物教授も流石に驚いた様子を隠せない様子で。しかし、ふと何か逡巡した様子で唇を噛むと「……なら、こちらはお役にたちそうでしょうか」と、広げてくれたのは"採掘場"の名を冠した──「地下洞窟の地図じゃないですか!?」そんなビビの声には誇らしそうに胸を張るくせして、ギデオンがそれを覗き込もうとすれば居心地悪そうにそわつくのだから難儀な御仁だ。「ひっ、いやまあお二人のお話を聞く限り、巧妙に嘘をつかれてる可能性ははぁっ、でも一応こうなる前に聞いたものですよ……」と時折。具体的にはギデオンが身動きする度、声を裏返していたものだから。ギデオンがその作戦を発した途端、とうとうフリーズしたかの如く動かなくなってしまった教授に、まさか仕事中のギデオンの生声に感極まってしまったかと心配したビビは悪くないはずだ。とはいえ、これでも一応この分野では無視できない影響力を誇るレクター教授は。(決して推しのご尊顔の良さにうち震えていただけではなく、)いくら複数の村民達が犯罪に手を染めてるとはいえ。おそらく無関係な村民達も代々大切にして来た、結界への信頼を揺るがすような大それた行為に息を飲んでいたらしい。「……でも、それしか、ないんですね」と苦しそうに頷いてくれたレクターに、ギデオンと視線を合わせて頷き合うと。夕方の儀式に向け小屋の外から声がかかったのは、大方の作戦を共有し終わったその時だった。 )


  • No.772 by ギデオン・ノース  2024-06-03 07:42:11 




(村の地下洞窟の地図。それは願ってもみなかった、他の冒険者仲間たちを捜し出すための道しるべだ。しかもレクター教授は何と、こんな状況に陥る前から、村の最長老の老婆に聞き込みをして作ったという。先方の記憶力の信憑性やら、当時の状況と変わっている可能性やら、そういった問題はあるにせよ。少なくとも、今のフィオラ村を動かしている世代の恣意に汚染されていない情報……そう捉えられることだけは、この上ない僥倖で。
小屋の外に出る直前、ぽん、とレクターの肩に手をやる。そうして、びくっと縮こまった大男の目をまっすぐに覗き込み、「よくやってくれた」と、熱を込めて囁いておく。それはギデオンなりの──“推し”やら何やらといった文化に、てんで疎い朴念仁の──真心からの労いだったが。はたしてレクター教授ときたら、先ほどまでは深刻に張りつめていたその顔を、途端にぼわっと薔薇色に染める始末だ。……出てきた三人を見た村人が、非常に露骨な困惑顔を晒していたのは、主にそのせいだろう。まあそれはそれで、彼と一緒にギデオンたちも、今までの話し合いを深く突っ込まれずに済むことに繋がってくれたのだが。このレクターという男、つくづく珍妙な幸運をもたらしてくれるものである。)

(……しかしながら。その後の三人、そして後から合流したレクターの助手たちを待ち受けていたものは、そんな愉快な時間ではなかった。寧ろ、このフィオラ村でこれまで眺めてきたなかで、最も忌まわしく悍ましい──最悪の因習だ。

フィオラ村の祝祭第三夜の儀式、“ラポト”。それはまず、村の家々を、松明を掲げた参列者が練り歩くことに始まった。何をするのかと思ったら、その家々のいずれかに住む年老いた三人の男女を、輿に乗せて運び出すのだ。苔むした岩のような老婆、枯れ木のように痩せた老爺、そして古木のような農夫。最後のひとりは、今朝方ギデオンとヴィヴィアンが世話になった、あの農夫の老人である。彼らは皆、何か薬でも飲んだかのように、痺れて動けない様子をしている。……この時点でレクターは、「まさか」と小さく口走ったが。確信が持てないために、何も言いだせなかった様子だ。
輿を担いだ村人たちは、更に山道を練り歩き、フィオラ村を見渡せる崖の麓の辺りまで来た。ここでほとんどの村人は待機し、輿を担ぐ者たちだけが、崖の上まで登っていく。傾いていく熱した鉄球のような夕陽、その嫌に真っ赤な日差しが、不気味に山肌を照りつけて。崖上の人々の様子、そしてその真下で待ち構える、斧やこん棒を構えた男たちの様子を、ぎらぎらと浮かび上がらせる。

ここに来て、ようやくギデオンも、今から何が行われるのかを本能的に察してしまった。今更この場を離れられない──「ヴィヴィアン、」と、無性音で隣の相棒に呼びかける。そうして、答えを待たず、その顔を見ずに、相手を横から引き寄せて、“それ”を直接見てしまわぬよう、己の胸元に抱こうとしたのと。三人の老人が、崖上から次々に軽々と放り投げられ、あっという間に重力に吸い込まれていき──見るも無残に地面へとぶつかったのが、ほとんど同時のことだった。
それからの光景を、ギデオンは血走った目で見つめ続けた。──散らばって尚不気味に蠢く、まだ死にきれない老人たち。その周囲に、各々道具を掲げた男たちが群がり、それを一斉に振り下ろしていく。生々しい音の数々。周囲の村人たちの間で、まだ年若い者が息をのむ気配。「目を逸らすな」「いつかはおまえたちも、俺だってああなるんだぞ」と、幾つか鋭い囁きが起こる。……やがて、頭に黒布を巻いた中年の女性が近づいた。もはや残骸でしかない老人たちの頭部に、手に持った鍋の中身を塗り付けていく。何かと思えば、今朝がた煮ていた、モロコシ粥の残りのようだ。あれはたしか、日中出かけていた村人たちが、儀式の一環だと言って、魔獣用の罠の餌に供えていたのではなかったか。
──棄老文化。それは、各々詳細こそ違えど、世界各地に存在している、人類共通の恐ろしい儀式である。しかしいずれの類型でも、本来ならば、食うに困った貧しい村が、仕方なく口減らしを図るために行うだけのもののはずだ。今や富んだトランフォード、そうでなくとも年中農作物の獲れるフィオラ村で、わざわざ老人を殺す意味など、いったいどこにあるというのか。……そして、それだけではない。後から聞いた話によれば、ここまでの単なる老人殺しであれば、民俗学者のレクターも、知識としては聞き覚えがあるようなものだったらしい。しかし、フィオラ村が異常なのは、更にここから先だった。

静まり返った参列者たち、やがてそのなかから、幾人かの女性たちが進み出る。何かと思えば、その服を脱ぎ、恥らいもなく上裸を晒していく。それも、皆で美しく、声をより合わせて歌いながら。<はなをなふみそ、はなをなふみそ、あかきもちづきたくよさり>……。子どもたちが歌っていたそれよりもどこか暗い、不気味な調べのなかで。女たちはひとりずつ列になり、頭に黒布を巻いている、あの中年女の前に立つ。そうして、何が始まるのかと思えば。その中年女が、老爺ふたりの遺体に近づき、躊躇いなくその手を突っ込み。掌を血に染めたかと思えば、順番に待つ女の腹に、どんどん塗り付けはじめたのだ。──適当に、ではない。それはまるで、そっとするほど真っ赤な、見覚えのある“花”の形にそっくりだった。それを見下ろした女たちは、だれもが心底嬉しそうに微笑み、また参列者たちのなかへ戻っていく。よくよく見れば、彼女たちのほとんどが、少し、あるいは明らかに、腹が大きくなっているのが、松明の灯りでわかった。多くは妊娠しているのか。──殺された老人の血で、胎の赤子を祝福するのか。
隣にいるヴィヴィアンを、ギデオンは絶対に絶対に離そうとしなかった。周囲の村人たちから、まるで促すような嫌な視線を感じ取りはしていたものの。それでも決して譲らぬと、その全身が放つ気配で、無言の気迫で拒み続けた。──『ヤヤがなくては、意味がない』。そこで殺された老人が、今朝がたギデオンに言っていた、あの妙な台詞を思いだす。『あれはおまえの雌鶏だろう。良い卵を産みそうだ、産めるだけ産ませておきなさい』。……こういうことだったのか、と遅まきながら理解して、悍ましさに腸が煮えそうになる。
察するに。ラポトというのは、元は棄老に始まったはずが、今では老人の輪廻転生をもたらすための儀式になっていったのだろう。それも、この男尊女卑が当たり前のフィオラ村では、男だけに限る話。血を塗りたくる係の女は、ともに殺されたはずの老婆を、まるで省みる気配がない。ともかく、殺された老爺たちの血は、今生きている女たちの腹に、フィオラ村にとって神聖な“花”の形で纏わりつく。そうして、その胎内の“卵”に宿る、と信じられているようだった。老いた体を壊して捨て去り、赤子の体に乗り移ることで、再びフィオラの男になる。実際に、そんなことを祈るような歌が、あちこちから上がっている。──冗談じゃない。そんな悍ましい儀式のなかに、己のヴィヴィアンを連ねさせるものか。その輪廻転生はどうせただの信仰だろう、それでもそんな不気味なものに、彼女を巻き込ませるものか。

傍にだれかが来た。視線を向ければ、むらおさのクルトである。傍らには蛭女、そして初日にギデオンたちを迎えた、あの十代半ばの双子たち。彼らの肩越しに、鼻が歪んだままの男、イシュマの面も目に入った。砂利を踏む足音がする。方向と距離からして、斧やこん棒を持っていた、儀式の下手人たちだろう。気がつけば日が落ちていた。薄闇が忍び寄り、松明の火がやけに鋭く爆ぜるなか、いつのまにか四方の村人たちにじっと見つめられている。その娘にも参加させろ、その腹に血を塗らせろ。そんな無言の視線の圧が、ギデオンたちにのしかかる。それでもギデオンは、明確な言葉は出さずに、クルトを激しく睨み続けた。十秒か、二十秒か。斧を持ち直すかずかな音がして、思わず魔剣の柄に手をかける。……そのときだ。
「あのお、」と。唐突に、場違いなほど雰囲気の違う、よく通る声が上がった。レクターではない、その助手だ。「あのー、皆さん。今の、聞こえませんでした? 何か、魔物の唸り声……みたいなものが、したような」。
クルトの顔色がさっと変わった。「魔物? どんなだ。どんな声だ?」。辺りに張りつめていた、じっとりと重い緊張感も、突然その湿度を失い、嘘のように引いていく。助手に詰め寄る村人たちに、ほら、と彼が促せば。確かに遠くから、夜気を切り裂くおどろおどろしい唸り声が、ほんのかすかに聞こえてきた。参列者たちが動揺し始める。どうして──まだ準備が──英雄が──まさか、あいつら。
「静かに!」と、クルトが大きな、落ちついた声で呼びかける。今夜はもう日が沈んだが、“骨の守り人”たちは、今から巡回に出掛けること。儀式を急ぐことはない、急いては事を仕損じる。しかし、皆今宵は家から出ぬように。厳重に守りを固め、女子どもは男たちに従いなさい……。

そんなこんなで有耶無耶になり、ラポトはあっさりお開きとなった。慌てた様子で村に戻る人々、その隙を縫うようにして、ちらと助手のほうを見る。一瞬だけこちらを見た助手は、軽く頷きかけてきた。あの会合の場にはいなかったはずだが、やはり狙ってギデオンたちを助けてくれた様子だ。儀式を前に未だ顔色の悪いレクターは、彼が支えてくれるようだった。
ならば、こちらはこちらで、と。ヴィヴィアンの様子を確かめようとしたギデオンに、ふとあの蛭女が近づいてくる。「あら、そう構えないで」……なんだか、嫌に優しい声音だ。「昨晩の事件があって、私たちも学んでいるのよ。よそから来た人に、うちのやり方の無理強いはしない。安心して、私が代わりに皆に言い聞かせてやるわ」。
当然、信じられるわけもないものの。村の中では権力者らしいこの女が、ギデオンとヴィヴィアンを未だじろじろ見る連中を追い払ってくれることは、正直なところにありがたい。故に、今回だけはギデオンも、彼女に合わせて歩いていくことにした。無論その手は、ヴィヴィアンの片手をしっかりと握っている。周囲に目をやる蛭女の目が、時折すうっとそちらを見るが、すぐに他所へと逸らされる。
忌まわしいラポトの跡地を後にして、谷底に戻る道すがら。柔らかなヴィヴィアンの手を、今一度強く握り込む。……震えが起こりそうなのを、奮い立つことで抑えたかったのかもしれない。斧やこん棒を振り上げる村人たち、その凄惨な顔つきが、未だ脳裏にこびりついている。フィオラ村は……この村の人間は、あんなことをしてしまえる連中であることが、ギデオンには恐ろしかった。自分がどうなるか、ではない。──あの残虐さが、ヴィヴィアンに及ぶこと。それを、何より恐れていたのだ。)

(──まだその時でない筈なのに、この谷にウェンディゴが出た、という緊急事態。しかし実のところ、その正体は、ギデオンとヴィヴィアンが仕掛けておいた罠である。
養蜂場から遠回りをして帰るとき、ギデオンが生木を削り、ヴィヴィアンが魔法をかけて、高木に掲げた“嘘笛”。それは野営時の冒険者が、他の魔獣を近寄らせぬよう夜通し吊るしておく、風を受けて鳴く道具だ。ひとつの場所に二日も滞在していれば、夕方の山にどんな風が吹き渡るか、冒険者であるギデオンたちが把握、計算するのは容易い。まさかフィオラ村も、特定の風を受け、時間差でウェンディゴそっくりに鳴く笛があるなどと、夢にも思わないだろう。
そこに後は、ほんの少し後押しをすればいいだけ。事前に打ち合わせているギデオンとレクター、そして後から事情を共有した助手と、重ねるように一芝居打ち、村の周囲の“骨の結界”が乱れているというような噂を、それとなく流しておく。その方向はあまりにも様々で、ひと晩で回りきるのは土台無理な話だ。そう判断したクルトは、翌朝の巡回も計画し始めた様子だった。
これで、今宵から明日の朝にかけて、幾らかこちらに余裕ができた。その間に、ギデオンたちは巡回の薄い方角に出て、地下洞窟の中にいる仲間たちを捜す……その予定、だったのだが。
ここに来て、こちら側の計画も変更すると言いだしたのは、他でもないギデオンだ。自分がもう一度、念には念を重ねて、村人たちの動向を確かめてくる。その間、レクターと助手は、ヴィヴィアンのそばについていてほしい。情報を掴みに行くのは自分だけで充分だ、寧ろ複数人で動いたら怪しまれてしまうだろう、と。
それは結局のところ、己の大事な相棒を、これ以上村人の目に触れさせたくないという、ギデオン自身の深い恐れのせいだった。恐怖は目を曇らせる、判断力を奪ってしまう。少し考えれば、決して彼女から離れない、という昼間の誓いを思いだせたろうに。事態を安全に動かすためには、自分が多少の危険を呑めばいい、と。──そんな無謀を推し進めた結果、ギデオンは自らの身で、その過ちを思い知ることになったのだ。)

(──鈍痛がする。吐きそうな気分で、それでもぐらぐらと不安定に、己の意識が浮上する。ギデオンは薄目を開けた。石のように起き上がれないまま、霞む目で辺りを見れば。松明に照らされたそこは、ぐるりを杭で閉ざされた、薄暗い牢のような場所だった。
……何故、自分はここにいる。自分はたしか、ヴィヴィアンたちを小屋に待機させてから、村の様子を見に行って……。ああ、そうだ。“具合が悪いというものだから、ラポトのあいだも村に残した、あのエデルミラという女がいない”。そんな話を小耳に挟み、事情を知っているはずのクルトの元に、向かおうとしていたはずだ。そこから、何が……。
ずきり、と鋭い痛みが走る。顔を顰めながら起き上がろうとして、やはり力が動かない。頭をずらせば、後ろの部分が湿っているのが、感触でかろうじてわかっら。……そうだ、あのとき。がつん、といきなり後頭部に衝撃を喰らったのだ。思わずよろめいたその隙に、さらに何かを嗅がされて、そこで意識を落とされてしまった。図られたのか、村人に。だとしたら──だとしたら、ヴィヴィアンは!
胸の奥を恐怖が刺す、今にも飛び出そうと、まずは起き上がろうとする。だがしかし、自由にならない。あのとき嗅がされた薬のせいか、吐き気と頭痛、並のように押し寄せる朦朧とする意識のために、石床に這い蹲ったまま動けない。泡を吹き零しながら、それでももがこうと試みる。時間の感覚がまるでない、ここには窓が見当たらない、あれからどれだけ経った、ヴィヴィアンは、レクターたちは! その焦燥に胃の腑を焼かれる、なのに体が言うことを聞かない。
そうして、手負いの獣じみたギデオン以外は何も動かぬ、この静まり返った空間に。──やがて、こつり、と足音が響いた。)



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