吸血鬼 2021-03-16 10:45:12 |
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・・・そうか。
(慌てて相手が自分から退き、手を差し出されるもすぐに引っ込められた。先程までの怒りは落ちた衝撃でどこかに吹き飛んでしまっていて、あぁさっき手を振り払ったことを気にしているんだなとシンプルに思った。自分で体を起こすと周りの状況を確認し、すぐにここから出る方法はないのだと察すると相手と反対側の壁に背中を預けて足を曲げて座り。この狭い空間で足を伸ばせばより狭くなるだろうと、またなるべく相手と距離を離したいと考えて片方だけ立てた膝に腕を乗せて頬を乗せて横を向く。拠点で絶望を味わいアンドレに関わらない方がいいと言われたばかりなのに、こうして関わってしまうとは運がいいのか悪いのか・・・。相手は自分に避けられる理由は思いつかないのだと述べたため、そうか、と呟いた。では本当にハンターなのか、それともオークションについて隠しているのか、どちらなのか分からないまま、このタイミングで聞いてしまうかと考え問いかけて)
・・・・・・じゃあ、お前は数日前に行われた人間オークションについて心当たりはないんだな?
(オークション、という言葉を聞いてあの場に彼が潜入していたのかとすぐに理解した。まさかオークションの存在を知るハンターが居るなどと、考えた事も無く完全に油断していた。動揺を表情に出さないよう静かに床に視線を落としたまま、どう答えるべきだと思考を巡らせる。あの場にいた事を見られていたのだとしたら、変装していたとはいえ認めるべきか。オークションのタレコミがあり、個人の判断でハンターとして潜入したと答えれば信じてくれるかもしれない。しかし、あの日買った女性は遺体で見つかっている筈、彼女を買っている様子まで見られていたらその言い訳は通じない。それならシラを切り通すことで、オークションに居たのは自分では無くよく似た別人だったのかもしれないと思わせる方が得策だろう。奴隷を売買するオークションのことかと首を傾げつつ、心当たりはないと答えて。)
──…人間オークション?この時代に人身売買が行われているなんて、聞いた事はないな。
そりゃあ無いだろうな。取引相手は吸血鬼の、完璧裏で行われるオークションだし。人間相手じゃない。
(勘違いをされているのか、確かに昔は人相手の人身売買もあっただろうか今は法律で禁止されている。自分が言ったのは吸血鬼を相手にした人身売買であると改めて伝えると写真を持ち帰ってこなかったことを悔やむ。あの写真があればもう少し踏み込んで聞けただろうに、なければ曖昧な証拠でしか聞くことが出来ない。自分の迂闊さに歯痒い思いを抱えながらグッと拳を握りオークションで見た事を伝えて相手の出方を待ち。これで肯定されればどうすればいいのか分からないまま右手はそっとポケットに近づいていて)
・・・そのオークションが開催される日に俺と何人かで捜査に行った。そこで、お前が吸血鬼と話してるところと、赤毛の女性を買ってるところを見たんだ。
──テオ、それは僕を吸血鬼だと疑っているって事?確かに任務で共闘する事はなかったけど…それでも、僕は吸血鬼に襲われたテオを助けた。
(吸血鬼による人間オークションなど聞いた事もないと、奴隷を売買するオークションの事と勘違いしている素振りを見せたものの、相手はかなりしっかりとオークションの現場を目撃していた様子。淀みのない口調で会場で目撃した事柄を突き付けて来る相手に、そこまで見られて居たのかと若干の焦りを感じていた。こうなっては、何が何でもシラを切り通すしかない、彼が見たのは自分によく似た吸血鬼だと思わせる以外に道は無かった。今自分に向けられているのは不信感の浮かんだ鋭い瞳、もう二度と彼の優しい瞳も笑顔も見る事ができない気がして、やはり深入りしなければ良かったという後悔も浮かんだ。会場で自分を見たと言いきる相手に、自分を吸血鬼だと疑っているのかと眉間に皺を寄せつつ尋ねる。彼を混乱させる必要があった、今彼の中にある疑念をさらに掻き乱さなくては。自分をハンターかもしれないと思わせる出来事を引き合いに出しつつ、オークションの件をきっぱりと否定して。)
僕はオークションなんて行っていない。テオが会場で見たって言う吸血鬼も僕じゃない。
だ、が・・・。
(そうだ。相手の言う通り、目の前にいる相手は吸血鬼に襲われた自分を助けてくれた。吸血鬼なら触りたくもない命を奪う、腰に提げたサーベルで吸血鬼の胸を貫く姿を見たじゃないか。その時の記憶が頭の中に流れこんできて、何を信じればいいのか分からなくなってきたようだった。あと彼を吸血鬼とする証拠はなんだ?満月の夜会わなかったことか。だがそれはハンターなら会えなくても問題は無い。体調が悪そうになっていた時は。・・・ハンターだって人だ。体調だって崩すだろう。あの写真だって他人の空似だったのなら情報が一致しなかったのも頷ける。頭の中をぐちゃぐちゃとした思考が混ざり合い、何を信じれば良いのか分からなくなると両膝を抱えて俯いてしまい)
(今はただ、彼から向けられる嫌悪の瞳が耐えられなかった。彼の大切な人を永遠に奪い去ってしまった張本人なのだから当然の報いではあったが、今まで彼の優しい笑顔を瞳に映しすぎて居たせいで吸血鬼を憎むその瞳が自分に向く事が恐ろしかった。此処で彼の疑念を一旦晴らした所で、いずれ正体がバレればその時こそ彼は今以上に自分を憎悪し罵り、殺すだろう。それでもそれが今でさえ無ければ良いと願ってしまう、此処まで来ても、もう少し彼の側に居たかった。彼を混乱させる狙いは果たされたようで、相手は何も言わずに膝を抱えて俯いてしまった。夜の冷えた空気が身体を冷やす。彼に嘘を吐くのは、これで最後にしよう。そう思いながら彼に近づいて、顔を上げさせるように相手の頬に手を添えて軽く此方を向かせると、視線を重ね合わせて静かに言葉を紡いで。)
──…テオ、僕は吸血鬼なんかじゃない。
・・・信じて、良いんだな?
(何も言えず俯いていれば服の摺れる音が聞こえ、ひんやりとした手が頬を包み上を向かせるように動かされると優しげな光を灯した碧色がこちらを見つめていた。相手の静かな声で名前を呼ばれ自分はハンターであると宣言されるとじわりと視界が歪み始めた。相手の言葉を信じても良いのだろうか、そう問いかければ優しい碧色が弧を描き肯定したように見えた。良かった。全部自分の勘違いだと、ただタイミングが悪かっただけなのだと分かるとふにゃりと柔らかい笑みを浮かべる。閉じた瞼から涙が一筋零れ相手の手を湿らせたがそれには気付かず安心したことを告げて)
はは、良かった・・・。
…泣かないで、
(信じて良いのかと、何処か縋るように此方を見詰める相手を前に頷く事は出来ずに僅かに微笑む事で肯定の意を示して。最後と決めて吐いた嘘は、いずれ自分たちを酷く苦しめるであろうもの、長く続く幸せではなくほんの一瞬を守るためだけの嘘だったが、今再び柔らかく緩んだ相手の表情を見られただけで堪らなく幸せだった。彼の瞳から涙が溢れて頬を滑り手の甲を濡らす。何処までも醜い自分とは違って、彼は本当に優しく綺麗な心を持った人間だ。きっと心から自分を心配し、疑う事に苦しんで心をすり減らしていたのだろう。思わず相手を引き寄せるようにして抱き締めると、泣く子を宥めるようにその背中を優しくさすりながら声を掛けて。ずっと彼の側に居られたらどれだけ幸せだろう、そう思いながらもそれは不可能だと頭では分かっている。このたった一瞬を今取り戻せただけで、心から救われた気持ちになっていた。自分の心臓を貫くのが彼なら、例え最期に目に映すのが自分に向けられた憎悪だとしても構わないと思いながら相手の肩口に顔を埋めては、何も言わないままに目を伏せて。)
ん、悪い。・・・すぐ止めるから、少しだけ・・・。
(泣いている幼子を泣き止ませるように抱きしめられ、優しく背中を撫でなれる。相手が吸血鬼でないと分かり心の底から安心した。涙腺が壊れたかのようにポロポロと零れ落ちていくが涙を止める術なぞ分からず、少しだけ待っていて欲しいと伝える。また、煙草の甘く苦い匂いを纏った力強い腕に抱きしめられ自分も相手の肩に顔を埋めた。自分の涙が染み込んでいってしまうのは大目に見てもらいたい。悩み悩んで同僚にまで手伝わせてしまったのだ。涙が落ち着くまでの暫くの間はこの幸せな時間を味わっていて)
……寒くない?
(今この瞬間であれば、自分に身を預けている相手の首筋に牙を突き立てて命を奪ってしまう事も出来た。自分を吸血鬼だと怪しむ人間など、かつてのクラウス・バートンと同じように葬ってしまえば、自分の安寧はまた確保されるというのに。それでも彼を殺す気にはならない、それなら此れが最後だと分かっていても幸せな瞬間を少しでも長く味わって居たかった。夜が明ければ、通りがかった人が自分たちに気付いて助けを呼んでくれるだろう。これが、きっと相手と過ごす最後の夜。少しして彼が泣き止んだのに気付くと少し身体を離して寒くないか尋ねる。相手の隣に移動して壁に背中を預けると上の崩れた壁の向こうに綺麗な星空が広がっているのが見えて、肩を寄せ合って座る相手に声を掛けると柔らかく微笑んで。)
──テオ、見て。星が綺麗だ。…良い夜だね、
あぁ、寒くない。大丈夫だ。
(涙が止まり、年甲斐もなく泣いたことに恥ずかしさを覚えつつスンッ、と鼻をすする。相手の体が離れたことに寂しさを感じるもそれを口には出さずぐっと我慢して、指で瞼をなぞり残った涙を拭う。冷えた空気で寒くなってないかを問いかけられればまだ体は冷えておらず寒くないと告げて。自分の隣に相手が座ると肩が触れ合って、それだけでも嬉しくなってくるが、先程まで相手を疑ってしまったことに申し訳なさが募り座りが悪そうだ。うろうろと視線をさまよわせていれば相手に促され、上を見ると空いた穴から綺麗な星空が見えて暫く眺める。相手の言葉に同意するように頷くと冗談めかして言い)
そうだな・・・こんな状況じゃなかったらもっといい夜だったんだろうけど・・・。
──それもそうだね、
(こんな状況で無ければ、という相手に同意するように笑いながら頷いて。相手と肩を寄せ合い密着した腕から暖かい相手の体温を感じて少し切ない気持ちになる。相手に断りを入れてコートから煙草を取り出すと、いつもBarでするようにライターで火を点けて夜の冷えた空気に煙を吐き出した。相手に深入りしなければ良かった、とも思ったが、知り合わなければこんな幸せを感じる事もなかった。人間に恐れられ憎まれる人生の中でこれ程大切だと、愛おしく思える誰かに出会う事もなかっただろう。そのことを思うと、例え最後にいつものように憎悪を向けられて命を落とす事となっても、相手と出逢えた事を幸せだ、と思える自分がいて。煙草を片手の指に挟んだまま揺らめく紫煙と星空を見上げていたものの、暫くして携帯用の灰皿に吸い殻を入れると相手の肩に頭を凭れさせて。)
?、どうした。
(空を眺めていれば相手から一言煙草を吸う事への断りを入れられどうぞ、と返す。カチッとライターの火が灯り少ししてから嗅ぎなれた煙草の匂いと紫煙が空に漂った。星がきらめく夜空にふわりと白く煙った紫煙が漂い、じっと眺めてしまった。ここ2、3日相手が吸血鬼であると疑い心身ともに疲れ果てていたため、ハンターであると信じることのできた相手と甘く苦い煙草の匂い、静かな空間に安心感をもち、少しだけ眠気が襲ってくる。まだ相手と一緒に起きてこの時間を楽しみたいと思いつつ、パチパチと目を瞬かせ眠気に耐えていればとん、と肩に小さな揺れが起きた。少しだけ顔を動かせば相手が肩に凭れているようで、不思議に思いつつどうしたのかと問うて)
…ちょっと甘えたくなっただけ、
(相手の問い掛けには小さく首を振りつつ、深い意図はないと伝える。彼の体温を感じる最後の機会だと思うと寂しい気がして、少し甘えたくなってしまっただけだと素直に返事を返す。もっと、この幸せな時間が長く続けばどれだけ良いか。自分の過去を無視してそんなことを考えてしまうのは愚かな事だと分かっているのに、彼との時間が名残り惜しくて堪らない。覚悟は決めている筈なのに、憎悪の瞳を向けられる覚悟も、きっと出来ていない。今この時間を、永遠に胸に刻んでおこうと思いながら目を伏せて。)
・・・そうか。
(今夜の相手は甘えたらしい。自分に疑われて相手も疲れてしまったのだろう。思い切り自分のせいだと申し訳なさが込み上げてきて拒否することや、深く踏み込むことはせず軽くそうかと答えて。いつもより縮んだ距離にドキドキと心臓を動かし、自分も甘えて良いだろうかと凭れた相手の頭に自分の頬を寄せて凭れかかり。サラサラとした髪をくすぐったく感じつつ、ここまでが自分たちの線引きなのかな、と考える。普通の友人ならここまで距離を近くすることは無かっただろう。これ以上踏み込めば自分たちは友人ではなくなると思いながら、いっその事踏み越えてしまってもいいんじゃないかという囁きも僅かに頭の中に聞こえてきた。だがそうすればもうこの心地いい空間は味わえないだろう。そう察すると黄昏れるように空中を見つめて)
(相手の頬が此方に寄せられ、この瞬間を愛おしく思う。友人として以上の愛おしさが募り、胸が苦しくなるような錯覚を覚えていた。夜の冷えた空気の中、2人で身を寄せ合っているうちにいつの間にか眠ってしまっていて。目を覚ましたのは人の声と明るい光のせいで、朝を迎えた事に気づく。ちょうど日陰になった地下に居たため、痛いような朝の日差しを受けずに済んだ様子。地上から此方を見下ろしていたのは1人の中年の男性で、落ちたのかと声を掛けてくれていたようで事のあらましを簡単に説明する。彼は縄梯子を持ってくる、と言ってその場を離れて行った。こちらに寄りかかって寝息を立てていた相手を起こそうとしたものの、いよいよ本当にお別れだと思うと相手を起こす事を躊躇ってしまう。眠っている彼と自分だけ、今は周りに人も居ない。相手の頬にそっと触れるだけの口付けを落とすと、ようやく相手を揺さぶって。)
──テオ、起きて。
・・・?、あぁ、おはよう・・・朝か。
(軽い揺さぶりと優しい声に導かれて意識が浮上する。いつの間にか眠っていたようで瞼をあげれば相手の顔が見えて。最初は寝ぼけているのかなぜ相手がいるのかと不思議に思うも次第に思考もはっきりして昨夜のことを思い出すと、おはようと朝の挨拶を交わして。崩れた穴から差し込む光が2人のいる空間を照らし今の時刻が朝であることを確認すると寄りかかっていた相手の肩から頭を上げて軽く首を動かし、硬い床に座っていたため尻が痛むとため息を零して)
悪い重かっただろ。・・・はぁ、しかもケツが痛い・・・。
いや、僕は大丈夫。身体、辛くない?
(身体を起こした相手に自分は大丈夫だと首を振りつつ、ずっと座った体勢でいたため確かに腰やら尻やらが痛む事には同意して。相手は昨晩背中を打っていたようだったし、何処か痛めていないだろうかと心配そうに尋ねつつ、程なくして縄梯子を持ってきてくれた男性によって地上に引き上げられて。お礼を言って別れたものの、日差しは変わらず明るく降り注いでいたが路地裏のため幾らか楽ではあり、無事救出された事にほっと息を吐いて。)
大丈夫だ。受け身はとったし、それほど痛みはないな。
(首を回したり背筋を伸ばしたりしながら体の不調を確認するが痛みはなく、昨夜穴から落ちた時も受け身を取っていたため辛くはないことを伝え。近所の住人が持ってきてくれた縄梯子登りお礼を伝えれば、夜の生活を守ってくれているハンターを助けるのは当然だと、気前よく笑っていた。手を振って別れると、空を見上げ明るい陽射しを浴びる。これから家に帰って拠点に行くとすると昼前になるかなと考えつつ相手に告げれば、継ぎBar出会った時にはお詫びに奢ることを伝え)
じゃあ、俺は一旦帰るよ。クラウス、疑って悪かった。お詫びに今度はBarで俺が奢るな。
……いや、気にしないで。ありがとう、楽しみにしてる。
(相手と2人で居ると町の人に感謝される事が多い。夜の町を守るハンターとしてありがたがられているのを感じて、同時に吸血鬼は忌み嫌われている事を改めて実感する事にもなる。疑ったことを詫びる相手に首を振って笑うと、気にしなくて良いと伝えて。現に自分を疑った彼の読みは正しかったのだから。奢ってくれると聞けば礼を言って楽しみだと伝えつつも、もうその日は来ないことを思って寂しい気持ちにもなる。彼に手を伸ばしたくなるのを堪えて頷くと、別れの言葉をかけたがいつものようにまた明日、とは言えなかった。眩しい光を受けた彼を目に焼き付けるように視線を向けたまま微笑むと、軽く手を振って。)
──…じゃあね、テオ。
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