着ぐるみパンダさん 2020-08-02 17:23:34 |
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「まったくです。人が死に街並みが壊れる様には、華も何もありません」
今確信できた。ステラの頬に青く浮かび上がる痣は、彼女自身の人間性――恐らく本人も気付いていないであろう教養や思慮深さによる悲劇の産物なのだと。
ゼクシアは16歳の若輩に過ぎないが、凄惨な経験の数々で培った洞察力は本物だ。砕けた表現をするなら"人を見る目"とでも言おうか。
戦争に積極的な者、生命が失われることに何の抵抗も感じない心の持ち主なら、同胞の前でこんな物言いはしないはずだ。
「……ステラ様こそあまり御自分を卑下なさらないでください。誰しも跳ね除けられない不条理の一つや二つを抱えているものですから」
戦争で偉大にはなれない。人を殺す能力で優劣を付けていいはずがない。無表情の仮面と静かな物言いの裏で、ゼクシア本来の激情が鎌首をもたげる。
そんな少女に冷静さを取り戻させたのは、視界に飛び込むステラの自室であった。一息ついて失礼しますと呟きながら足を踏み入れる。
机のみならず床や寝具にまで積み重なった書類の数々が、ステラの気の休まらない日々を体現しているかのようだ。
「ええ、存じ上げております。大河を背に堅牢な防壁で守られた、難攻不落の要塞であると」
古い書物で目にした、積み上げられた石垣と深い堀に囲まれた城。ダウファール要塞はその威容を髣髴とさせるが如き王国の盾だ。
軽い気持ちで挑みかかれば、何の成果も挙げられず迎撃網の前に散ることとなるだろう。万全の状態で構えられた強大な盾は、敵襲を受けるや否や最強の矛に転じる。幾ら刃を交えても決して欠けることのない矛に。
唐突に挙げられたダウファール要塞の名。先の発言と照らし合わせれば何を言いたいかは察しがつく。
「まさか……上はダウファールを堕とせと言うのですか」
生唾を飲み込んで聞き返す。参謀格しか知り得ないであろう軍事機密を口にしているという自覚が、自然とゼクシアの声を小さくさせた。
中:(ダウファール要塞へのリンク感謝です!)
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