着ぐるみパンダさん 2020-08-02 17:23:34 |
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(雑用してると昔のことを思い出すわね……)
売りに出されて間もない頃、裕福な家庭の召使として働いていた記憶が蘇る。
まだ無垢で純粋で――自分は奉公に出されただけ、お金を稼げば両親の下へ帰れるとなどと甘い見通しを持っていた幼子。
あの頃の自分に現状を伝えても信じないだろう。
「それは滅入りますね。私も一層奮励努力せねばという思いです」
言うまでもなく両国の主戦力は異能者だ。一般的な兵装に頼らずして、それ以上の戦闘力を叩き出す怪物。
戦線を押し上げ死傷兵の数を減らすには、一にも二にも我々異能者が力を尽くす他ない。
「人を使う立場にいる者は、古い体制体質に囚われてはいけない――その昔、東洋の名将が口にしたとされる言葉です」
ステラが"面倒な奴"と称した上官の話を聞き、書物から学び取った文言をそのままなぞる。
かの名将の目線に立てば、『帝国軍人としての誇り』や『華々しい勝利』を優先したがる上官は、まさしく古臭い拘りの持ち主で指導者として失格だろう。
王国軍は倒せて当然の烏合の衆ではない。彼ら相手に勝利という結果を残すのみならず、過程や格好まで完璧に整えろというのは酷な話だ。
「勝算の無い戦いに勝つ……確かに無理難題です。仮に実現出来たとして、帝国軍の限界を超える一時的な力で押し上げた戦線を維持し続けられるとは思えません」
戦争を長い目で見た時、兵士への負担が重い大博打のような戦いばかりをするわけにはいかない。
上からの無茶ぶりに応え続ければ下が疲弊し、下の疲弊は全体の弱体化に繋がる。
ステラの話を聞く限りだと、その上官はゼクシアが嫌悪する"自分より立場が下な者を虐げる権力者"そのものであった。心の片隅に何かが燻るのを感じつつ、ステラの後に続いて自室への道を行く。
「ああいえ、お気になさらず。それにしても見通しがつかないことばかりです。この戦いを終わらせる方法も……終わった時、私たちがどうなっているかも」
戦場に立つ者は勿論、上に立つ者達も苦心し必死に今を生きている。一進一退の戦いがどこへ向かうか見当がつかない以上、その波に揉まれる人々が暗い気分になるのも無理はない。
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