語り部 2019-08-19 16:44:42 |
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空に浮かぶ天空大陸が存在する世界エディタペリエ。浮遊する大陸船や、飛空挺。空にはいくつもの物がある。たが、そこへ辿り着くには相応の資格と地位が必要となる。空を往き来できる者を『サンペスト』、地上しか居られない者を『リペアラント』と区別し、更なる溝が深まっている。
『サンペスト』と『リペアラント』との抗争は自然に起きても仕方ない状態。そんな時、世界を揺るがすことが起きたのは今から数百年も前の話。
人間の負の感情が形を成した存在。それは、強大な力を持ち、人間だけでなく生きる全てのモノを消し去るほど。人は恐怖に例えて、その存在を『破滅の王』と呼んだ。
『破滅の王』に人間たちは為す術がなく、ただ世界が滅びるのを待つしかなかった。そこに『サンペスト』や『リペアラント』の垣根などない。地位があろうが、なかろうが『破滅の王』にとって虫けらの一つでしかない。
立ち向かう者もいたが、強大な力に疲弊するばかり。誰もが諦めた時、『破滅の王』の前に立ちはだかったのは二人の少女であった。彼女たちは、天空大陸にある神殿に住まう聖女と、地上大陸にある神殿に住まう聖女。二人は双子のようによく似た姉妹であった。
『魔王よ、お前の行動はあまりにも目に余る。悪いことは言わない、早急に私たちに封じられてしまえ』
地上大陸の聖女は物怖じもせずに、きっぱりと言い切った。すると『破滅の王』は、高らかに笑った。
『我を前にして恐怖を知らぬと言うか』
『どうせ滅びるのならば、恐怖する必要などあるのか?』
聖女の言葉に『破滅の王』はさらに笑った。そして、ニタリと強気な聖女を見つめてほくそえむ。
『良いだろう。存外に弱すぎて拍子抜けしていたところだ。それにそなたが我は気に入った。もし次に我が目覚めた時、そなたを我の嫁にしてやろうぞ』
『迷惑な話だな』
二人の聖なる力に、大人しく囚われた『破滅の王』は最後に、天空大陸の聖女の胸に暗黒の槍を突き刺した。
『アリーシャ!!』
鮮やかな血を流して倒れる妹の名を聖女は叫んだ。
『そなたは我のもの。忘れるな、必ず迎えに行くぞ未来の花嫁よ』
『破滅の王』は高らかに笑ってから、その姿を消した。聖女は落ちていく妹を追いかけ、森のどこかにたどり着く。
『姉様……、ごめんなさい……』
『アリーシャ!喋るな!今、助けてやる!』
『せっかく、魔王を封じれたのに……、私が死んじゃったら封印が弱くなっちゃう……』
『喋るな!』
『姉様……、私の分まで生きて……』
『やめろ……。アリーシャ、それだけはやめろ!』
『アリーシャは……姉様と共に……』
『やめてくれぇぇえ!』
天空大陸の聖女の体は、眩しく輝くと光と共に地上大陸の聖女の体の中へと吸い込まれていく。残ったのは、妹が身につけていた八つの煌珠で作られた首飾りであった。
たった一人残された聖女は、妹の力をも身に宿し首飾りを握りしめた。ポタポタと八つの煌珠に聖女の涙が落ちる。すると八つの煌珠が妹と同じ聖なる力と同じ光を放った。
『ああ……。そうか……アリーシャ。お前はそうしてでも私を守ろうとしてくれるというのか……。ならば、私は生涯をかけて封じつつけよう……』
聖女は自身の地位を最大まで使い、妹の力を宿した八つの煌珠を四方に隠すことにした。そして聖女は願う。
どうか、この私たち姉妹が命懸けで施した封印が解かれないことを。
聖女の命は妹の力と共に八つに分けられた。封印は二人の聖女の力があってこそ、成り立つものであり、それが欠けたとき、あの恐怖の『破滅の王』が復活する。
伝説になりそうなほどの長い年月が経った現在。
とある集団によって、八封煌珠の一つが壊された。そのために『破滅の王』の封印に綻びが生じ、魔王はまだ力を全て持たないままに目覚めてしまった。魔王はかつて聖女に一方的に交わした約束を果たそうと探しだし、己の住処へ連れ去った。
封印を司る要である聖女を奪われた人間たちは、どうすべきか迷った。封印が一つ壊された今、完全に封印を為すには新たに封印し直さなければならない。しかし、封印できるような存在が見つからない。そこで人間たちは、聖女の代わりになる人間を募った。
『破滅の王』を再度封印できる自信のあるものを募る。見事封印できた暁には『サンペスト』の最上位『サンダリオン』を授ける。
それ以来、『サンダリオン』欲しさにさまざまな者が我こそが封印できると名乗り始めたのだった。
もう聖女の身を案じる者は、世界にいないのかもしれない……。
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