匿名さん 2018-06-10 12:20:27 |
通報 |
「……君、喋れたんだな」
(相手の怪しむような視線も、自身の抗議じみた問いかけも意に介さない様子で、男はその少し冷たい印象を受ける切れ長な瞳でこちらを見下ろしたまま、悪びれる風でもなくぼそりと。言われてみれば、外を出歩いてもあまり他人と話さず、トークは相手任せにしてきた気がするが、ここでもその調子で無言を貫いていたところ、唖者と勘違いされたのだろうか。しかし、仮にそうだとしても先程の男の行動はよく分からない。不審に思いつつ、また黙って男を見返すと、男は自身の左手辺りを指差し『それ』と一言。
そこには、契約の腕輪の他にもう一つ、控えめで繊細なデザインながら、綿密に荘厳な模様が刻まれたブロンズの腕輪がはめられていて。……ああ。……これは、昨日客室で一人留守番をしていた際に "明日からは仕事だから" と別れを告げに来た同胞から貰ったものだ。そう言えば、相手にも何も言っていなかった(←) 男はその腕輪を見やりつつ『ピジョンバングルだろ? コントラクトリングの方もかなり上物だったが、それも随分上等なのを付けているんだな』と述べると、これまでずっと無表情だったのに、そこで初めて……顔をくしゃりとさせ、可愛いぐらいの相貌でゆっくりと微笑んでは『良い品だ。大事にしなよ』と締め。
相手と共に店を出れば、左手の二つの腕輪を眺めつつ、右手では自身の横首を撫で、少し黙って考えた後「アルが言っていた、魔道具師には変わってる奴が多いってのはああいうことか…?」と呟く。
なお、ピジョンバングルというのは……通信に使える魔道具の一種であり、固有に設定されたシグナルを、ピンポン玉サイズで"伝令玉"と呼ばれる別の魔道具に覚えさせ、その玉を放り投げると蛾の触角のような形状の羽を生やして、バングルのところまで飛んでいくというもの。玉はカプセル状になっており、中に手紙を仕込んで、魔法で封じるのが一般的。一見便利だが、伝令玉自体が少々高価な上、耐久力や信頼性はピンきりで、雨に濡れたり飛行中に物にぶつかったりしただけで動かなくなることも度々。それを避けるには最初から上物を使うか、魔法で強化するのが普通。定住する地を持たない者が、いざという時だけの連絡手段として身に付けることが多いが、貴族が下級の者への連絡手段として使うこともある。
……そういう代物なのだが、当人はほぼ知らない(←) なんか貰っただけだ(←) そう言えば、相手にも同じものを渡すようにと頼まれていたんだった。昨夜は早寝し、今朝はバタバタしていたためにうっかり忘れていたその用件を思い出すと「アル、ちょっと、待ってくれよ」と言って、その場に立ち止まり、ショルダーバッグをごそごそしだして。やがて、一介の傭兵が持っているか、あるいは、無償で投げて寄越してくるには不自然なほど、上等なバングルと高価そうで信頼できる外見の伝令玉が数個入った小箱を取り出せば、価値を分かっていないがゆえに物言いも端的に、雑な感じで相手に差し出しつつ)
忘れていた。さっきのやつは昨日受け取ったんだが、同じのをアルにも渡すようにって言われてたんだ。フェリコートからだぜ。
(/安定熱量(←)で、頻繁には使えないけど、いざという時には役立つ程度の通信機器の設定を生やしたので、この後、爺様とも連絡先を交換できるといいなと思いつつ。にしても、危険を前にさりげなく他人を盾にするグラナーティアと、さりげなく他人の前に立つアルドニックの人格の差よ…← /蹴りはご自由に)
トピック検索 |