◆ 2018-04-03 00:00:02 |
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>Noah
(視界の端で秘めた熱が宿ったかのように紡がれた芯の通る言に、鎮めたはずの欲は茨の如く痛く心に巻き付かれ生唾を飲み込む。――なんでも。時折顔を見せる甘い誘惑に踊らされ、まるで何もかもを見透かすようなそそる誘いに、望蜀しえず開き掛けた口を噤み。玄関口に到着するや欲を誘う手を解かれ、対談の場を告げては急ぎ駆け出す背が見えなくなるまで見送ると、役目を終えた傘を下ろすと恐る恐るその後に続き。先に向かった彼の音だけが響き渡る静けさに胸を撫で下ろし、傘を立て掛けるとバスルームにてタオルだけ被ると濡れた髪もそこそこに、ふらふらと頼りない足取りのまま階段を上り。外からの干渉を一切断ち切った自室へと入り扉を閉め、外界の眼が届かない遮断された空間に身を投じた途端、ここまで繋ぎ止めていた糸が一気に解け支えを失った身体はその弾みで倒れ伏し。彼の前で醜態を繰り返さなかっただけ進展と呼べるべきか、今更ながら湧き上がる底知れぬ恐怖心に身の毛がよだち、耳障りな心音を助長する涙を呼び起こしては頬を火照らせ。息も絶え絶えに身をよじれば、視線を上げた先に呪いの面影も空しく気の利いた表情すら作れぬ臆病者の這い蹲った様が鏡に映り「……カッコ悪ッ…」寝乱れ髪と相俟ってより一層に情けなさを掻き立てる子供染みた容貌に失笑し、視界を歪ませ零れたものを袖口で乱雑に擦る。けれど、その頼りない者でなければ意味をなさない舞台へと向かうべく、重たい身体を引き摺り起こし張り付く衣服を脱ぎ捨て、白黒の部屋着に袖を通し身なりを整えて。悶えた拍子に外れたタオルを拾い上げ最低限の水気を拭うと、決意を揺らがす腰袋を黒兎に預け、目に見えた拒絶の主張が収まるまでその黒き背を抱き寄せ。変わらぬ顔色で見守られ幾らかの平静を取り戻すと鼻先に口付けを残し、臆病な身を隠すように毛布に包まり急ぎ部屋を後にして。観客の待つ会場が近づくにつれ胸を抉る痛みに締め付けられるも、戻ることなく僅かに赤らむ頬を伴わせて扉を開け、視線を泳がせては中には入らずその場に立ち尽くし。)
――……えっと、その…っ始め…ようか。まずは、あの…誤解を、解きたいのだけど………。
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