◆ 2018-04-03 00:00:02 |
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>Noah
ふうん。じゃあたくさん恩を売って見返りをもらうために、困ったことがないか見張っておかないとね。
( 恩。彼が紡ぐその大げさな言葉を頭の中で反芻して、考える。果たして自分の行動は正しかったのだろうか、ということについて。彼は繊細でコミュニケーションに苦手意識を持っているので、あの状況で車に乗れと叫ばれたことに対し断るという選択肢は恐らく存在しなかっただろう。いや、その気になれば首を横に振ることくらいできたのかもしれないが、何にせよ彼はそれをしなかった。私の強引な善意をしきりにありがたがって、迷惑だったかもという懸念を抱く隙を与えないのだ。
こちらが横を向いていた時は俯きっぱなしだった癖に、視線を外した途端様子を窺うような挙動を見せた男に、顔の向きはそのまま視線だけ寄越して茶化すような台詞を返す。それにしても“雑事でも何でも好きに使え”なんて、他人に気を使ってばかりいて自分が気を使われる側に回った途端慌てふためきだしたことが可笑しくてつい吐息で笑った。今日はビルの一角で打ち合わせをしてきただけなので、体力的に疲れているということはないが早起きが億劫だったのは確かである。それでも「洗濯はついでだから全然いいのに」と素直に肩をすくめて、車体がゆっくりと動きを止めたことにぱっと顔を上げた。タクシーの料金は事前に支払ってあるので、運転手にお礼を述べてさっさと降車する。目の前に広がるのは白塗りの外壁に抜けるような青い屋根。雨はすっかり上がっていたが、じっとり濡れた地面がこの辺りも悪天候だったことをありありと示している。フードを目深にかぶった男が自分に続いて降車するのを確認すると、眉を下げて口を開いた。 )
狭い空間だったでしょう、本当に気を張って疲れていない?
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