◆ 2018-04-03 00:00:02 |
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>Leone
っ……あっ、ご、ごめん。あの、何て言うか……さっきのは本当に真面目な提案というか、君を困らせるつもりじゃなかったんだけど、……──ふふ。形勢逆転、だね?
(みるみる内に朱に染まった彼の頬とその狼狽ぶりは、否が応でも先刻の自分を彷彿とさせ頭を殴られたかのような衝撃を受けて。いや、確かに“同じ”だとは言ったし、少し口説き文句のような提案にはなってしまったが、そういった事に慣れている彼がよもや自分の言葉一つにこれ程の動揺を示そうとは。昨日までの自分ならば彼のこの様を見て嫌われたかもしれないと盛大に謝罪し、口から零れた友人という単語にも過剰な反応を示すのだろう。しかし、彼への畏怖や崇拝という名の色眼鏡は先刻その弱さを見た瞬間驚く程脆く崩れ落ちている。現実の彼をしっかりと見据えた上で、尊敬すべき所こそ多々あれどあくまでも対等な人間として捉えている今の自分の胸に“友人”というその一単語は非常にしっくりと収まって。加えて、思わずと言った様子でチラリと姿を見せた彼の欲に、決して不快に思われた訳では無いと判じれば、こんな自分の他愛ない言葉一つに容易く心を動かしてくれる相手に対し謝意や罪悪感ではなくむしろ途方も無い歓びと愛しさが込み上げてきて。──ああ、きっと、彼はそう簡単に俺を嫌ったりしないんだろうな。そんな驚天動地の自信をほんのり抱いて少しだけ調子に乗り、先程笑ったお返しだと言わんばかりに悪戯っぽい微笑と共に顔を上げ上記を。「えっ──あ、う、うん。わ、分かった」しかし、こちらの返答もそこそこ、あっという間に自分のキャンバスと楽器ケースを持ち逃げていくまでは予想外で、彼が出て行った後も開け放たれたままの扉をしばしぽかんと見続ける羽目になり。……今日、彼と話すまで、“Leone Celadon”という人間はひたすら格好良くスマートで、バイオリンの腕もさることながら何でも卒なくこなす完璧超人という我ながらとんでもない認識を抱いていたのだが。「……レオーネって、凄く可愛い人なんだなぁ」繋いでいた手を惜しむように見れば、まるで一新された彼の印象をポツリと誰もいない部屋に響かせて)
レオーネの、部屋に? ……うん、勿論いいよ……!
(わざわざ彼の部屋に場所を移す理由は掴めなかったが、ユーモアに溢れ人を楽しませる才のある彼のこと、恐らく何かしらの意図があるのだろう。それに自室へ招待してくれるなんて、本当に親しい友人同士という趣きで心惹かれるものがあり。特段反対する理由もなく快諾すれば、続いて彼の言通り廊下を駆けるロッキーの物らしき鳴き声と足音が鼓膜を揺らして顔を青ざめ。「うわっ、ほ、本当だ……! そっ、そうだ確か鞄に明日提出の課題とかまだ色々……っ! あああ後でねレオーネ!」そう切羽詰まった様子で退室する彼の後ろ姿へ一声かけるやいなや、自らも大急ぎで廊下へバタバタと慌ただしく駆けて行き、)
*
……え、えっと……レオーネ、俺だよ。入っても良いかな……?
(友人の自室への来訪。他者にとっては何て事ないのだろうが、何分昔から常に友人が絶滅危惧種指定を受けているような自分にとっては一大事件であり。恐らく、彼が自分を部屋に誘ったのは、ここで友情の記念や礼として甘味を共に食そうというだけでなく、彼の詳しい事情などを膝を交え話してくれるという事なのだろうが……。ど、どどどうかせめて、ちゃんと彼の助けにだけはなれますように。出来れば何かしくじったり嫌われたり引かれたりもしませんようにと、緊張の余りその場に崩れ落ちそうになりながらも心中で神に祈りを捧げ。そうして扉の前で数度息を吐き動悸を落ち着かせた後、意を決して扉をコンコン、と数度叩けば遠慮がちに入室の是非を問うて。)
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