月の書室

月の書室

月  2016-09-03 18:33:52 
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元ネタ・オリのblが基本の小説集です。
著者は私、月のみですのでよろしく
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では、始めます

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  • No.21 by 月  2016-10-13 01:30:53 

凪が目覚めるとそこは意識を失う前に居たリビングだった。
左手には変わらず鎖があったが、横になっていた凪の体には柔らかなタオルケットが掛かっている。
おそらく桜夜が掛けてくれたのだろう。
いつも優しい桜夜、そこは変わっていないはずなのに、あの目は何だったのだろうか。
冷たい瞳だった。
真っ暗な闇の中のような底しれない瞳。
あの目思い出したせいか凪は体に寒さを覚え、時計に視線を移す。
照明が消えていて薄暗い室内では、目が慣れないと時刻も確認できない。

  • No.22 by 月  2016-10-13 01:44:16 

ゆっくりと目が慣れるのを待ち続けていると、時計の針が見え始めた。
時計の時刻は『八時二十三分』のようだ。
午前か、午後かは分からないが、目が慣れたおかげでこのリビングに桜夜が居ない事だけは分かった。
だからと言って状況は何も変わりはしないけれど。
桜夜を呼ぶべきだろうか。
しかし、呼んでその後はどうすればいい?
桜夜が凪をこの部屋から出す気がないのは先ほどの事で十分理解できたし、彼への恐怖心も生まれた。

  • No.23 by 月  2016-10-14 13:52:38 

数分の沈黙の後、寝室から桜夜が出てきた。
「おはよう凪、夜中寒くなかった?一応毛布は掛けたけど、風邪引いたりしてない?」
小さく欠伸をし、瞳を擦る姿はいつもの桜夜と何ら代わりはしない。
窓もなく、いまだ照明の明かりを灯していないリビングが普段より冷めて思える。
「凪?どうかした?」
桜夜の手により照明のスイッチが切り替えられ、リビングが明るくなる。
それなのに、なぜこんなにも凪の目にはこの綺麗で広いリビングが薄暗く写るのだろ。
何も言葉を発しない凪を見つめ、桜夜はそっと凪の隣に座る。
「やっぱりショックだったよね、こんな目にあったら話なんてしたくないか」
傷つけられ酷い目にあってるのは凪のほうなはずなのに、なぜか桜夜の方が辛そうに見える。

  • No.24 by 月  2016-10-15 03:13:19 

「違う、いや、違ってはないけど、でも話したくないとかじゃないから」
凪は基本桜夜に甘い。
自覚はあるし、甘やかしすぎは桜夜のためにもならないと分かってはいるのだ。
ただ、凪は桜夜の悲しげな表情に弱い。
今にも泣き出してしまいそうなこの表情を見ると、何とかしなくてはならない気がしてしまうのだ。
「そっか、良かった、凪に嫌われたら俺生きていけないよ」
この笑顔に安心はさせられるが、今の凪に桜夜の言葉は冗談に聞こえない。
「おおげさだろ」
いつものような返事に、いつものような桜夜の髪を撫でる仕草。
昨日までは違和感のなかった行為は、凪の心に緊張を走らす。

  • No.25 by 月  2016-10-15 03:30:42 

ここで言葉や態度を間違えたら、今の桜夜は何をするか分からない。
そんな恐怖心と戦いながら凪は桜夜に話しかける。
「ところでさ、この鎖なんとかならねえかな?結構邪魔なんだよな、重いしうるさいし」
左手の鎖を桜夜に見せながら、漏らす凪の言葉に桜夜は申し訳なさそうに言う。
「ごめん、重たいよね、でも長さとかがちょうど良いのはこれくらいしか無くて…我慢してね?」
確かにこの鎖の長さならトイレくらいまでは行けそうだ。
トイレはリビングに入るすぐ横の所にあるし、助かる。
しかし凪の言いたい事はそうではないのだ。

  • No.26 by 月  2016-10-16 02:38:03 

「や、そうじゃなくてさ、こんな鎖付けなくてもさ、俺、逃げたりしないから、だから」
「駄目だ!絶対駄目!なあ、俺、不安なんだよ!だから凪をこうやって隠しているんだよ」
どうやら凪は桜夜の琴線を踏んだらしい。
桜夜の瞳はあの時と同じ瞳だ。
「でも、そんなに不安に思わなくても俺はっ…」
凪の言葉を止めたのは凪自身の意志ではない。
桜夜が隠し持っていた口枷のような物によって、強制的に言葉が止められたのだ。
「ようやく静かにしてくれたね、本当はこんな物使いたくなかったんだけど、凪が悪いんだよ?」

  • No.27 by 月  2016-10-16 13:54:57 

「…っ…んー、…ぅぅ…」
声を出そうとしても、漏れたのはわずかな呻き声のみだった。
「ねぇ、凪はまだ俺がどれだけ凪を思っているか、分かってないみたいだね」
桜夜の言葉を聞いてる最中も凪は必死に口枷を外そうとするが、全く外れそうもない。
まさか鍵が付いているのだろうか。
鎖が付いているとはいえ、凪の両手はそれなりに自由がきく。
ならばあらかじめその事を考えて、鍵を付けておくのは今の桜夜ならあり得ない事ではない。

  • No.28 by 月  2016-10-16 17:02:33 

そんな思考を巡らせる凪の側を離れ、桜夜は寝室に消える。
寝室に何があるのだろうか。
凪が首を傾げていると、数分後桜夜が戻ってきた。
「おまたせ、まだあるんだけど、とりあえず最近のだけ持ってきたよ」
桜夜が寝室から持ってきたのは、数冊の分厚いファイルだった。
「これを読んでもらえば、俺の凪への思いが分かってもらえると思うよ」
そういって桜夜が差し出した一冊のファイルを凪が開くと、思わず言葉を失ってしまいそうになる。
何なんだろうこれは。
細かい文章と沢山の写真。
その写真のすべてに凪が写っている。
しかもその写真は、撮られた記憶のない物ばかりである。

  • No.29 by 月  2016-10-23 03:38:23 

『○月○日、凪が、迎えに来てくれた。嬉しい、このままずっと二人でいれたら良いのに』
『○月×日、今日は凪が迎えに来てくれない。俺の方の講義が昼からだから遠慮したらしい。そんなことより、側にいたいのに。』
『×月○日、午後から講義が別になった。凪と同じ講義の彼奴、凪に触れるな。嫌になる』
始めのページはまだ明るい感じなのに、後半に行くほど、狂気じみてくる。
もちろんこれだけ凪の事を調べたり、記録するのも確かに異常だが、それでも憎悪に似た言葉がないだけ凪にはましだと思えた。
桜夜はなぜこんなにも凪に執着するのだろう。

  • No.30 by 月  2016-10-27 03:04:33 

しかしそれでも、ページをめくる凪の指先は震える。
めくる先に増える桜夜の狂気とも言える愛情が、凪に恐怖に似た感情を与えるのだろう。
数ページめくると凪の指先が止まった。
凪の心がもう見たくない、こんな事は受け入れたくないと心が悲鳴を上げたからだ。
「凪、どうしたの?疲れたのかな?でもさ、これで俺が凪をどれだけ大切に思っているか分かったよね?」
言葉を発する事の出来ない凪に、桜夜はどんな答えを望んでいるのだろう。
しかし今の凪に出来るのは、桜夜の望む答えを告げるしかないのだ。
どうあがいても、この場から逃げ出す事も、ましてや桜夜が望むなら声すら発する事も叶わない。
凪の内側が壊れていく音がする。
その音は小さすぎて、凪自身まだ気づいてはいなかったが、その音が凪の心を壊すきっかけになったのは確かだった。

  • No.31 by 月  2016-10-30 01:52:16 

「ああ、ごめん、そのままじゃ返事も出来ないよね。外して欲しい?」
桜夜は自身が凪につけた口枷によって、凪が声を出せない事にようやく気づいたようだ。
凪もこの気を逃すまいと何度も頷く。
その様子に桜夜は仕方がないなと微笑み、凪を拘束する口枷に触れる。
早く外して欲しい、先ほどからこの枷は息苦しさを与えてきて辛かったのだ。
期待が溢れる凪の瞳を見つめ、桜夜は手を止めた。
なぜ桜夜は手を止めるのだろう。
それとも、何かしてはならない事をしてしまったのだろうか。
しかし桜夜が手を止めた理由は、そんな事ではなかった。
「ねえ凪、俺がこの枷を外してあげたらさ、二度と逆らわないって約束してくれる?」
桜夜の言葉に凪は微かに震える。

  • No.32 by 月  2016-10-30 02:15:29 

桜夜の言葉を受け入れると言う事は、過去の桜夜も、今の桜夜も両方受け入れるという事になるだろう。
過去の桜夜は受け入れられる。
愛らしく、優しい彼を受け入れる事は、なんら苦ではない。
しかし今の桜夜は違う。
彼の凪への思いは、深く濃い。
愛情と言えば聞こえは良いが、その執着は異常である。
しかしここでそんな事を言えば、それこそ桜夜は凪と供に命を絶ちかねないだろう。
凪自身の命も大事だが、桜夜にだってそんな事はしてほしくない。
ならば凪に出来る事はただ一つ。
桜夜の言葉から数秒後、凪は小さく頷く。
この場で逆らっても良い事など何もない。
何より凪が桜夜の思いに答えていれば、いつか再びあの優しい桜夜に会える日が来るかもしれない。

  • No.33 by 月  2016-11-13 02:11:41 

凪の答えを確認すると、桜夜は再び枷に触れ、凪の耳元で囁いた。
「ありがとう頷いてくれて、断られたら俺、このまま凪の首に手をかけていたかもしれないな」
桜夜の声は優しく、微笑を含んだ声なのに、なぜ凪の元に響く頃にはこんなにも冷たくなるのだろう。
金属音と供に外された口枷は、凪の拘束を解いたというのに、先ほどよりも凪自身を縛るこの感覚は何なのだろう。
「ありがとう桜夜、楽になったよ」
「そっかよかった。あ、そうだ、凪、お腹空いてない?昨日から何も食べてないよね」
桜夜に礼を言うと、唐突な言葉をかけられ、凪は自身の空腹感を思い出した。
「あ、俺も忘れてた。でもさ、その前に喉乾いたな」
空腹感と同時に凪を襲ってきた喉の乾きを、桜夜に苦笑いを浮かべ伝える。

  • No.34 by 月  2016-11-13 03:04:14 

そんな凪の顔を見つめ桜夜は優しい笑みを浮かべ言う。
「凪の笑顔久しぶりに見た気がするな…。待ってて今飲み物用意してくるから、あとご飯は凪の好物にしてあげるね」
それだけを言うと桜夜は急いでキッチンへ向かった。
その後ろ姿を見つめ凪は思っていた。
凪自身が、桜夜にどれほど酷い事をされても、嫌いになる事などないのだろう。
見えない何かに縛られている感覚も、桜夜に与えられているものならば、昨日よりは怖くない。
「お待たせ、とりあえずコレで良い?」
「ん、ありがとな、うん、旨い」
桜夜に渡されたミネラルウォーターのキャップを開け、凪は一気にそれを半分ほど飲み干す。
喉元を伝う冷えた液体は、凪の中をゆっくりと潤していく。

  • No.35 by 月  2016-11-13 03:11:44 

その感覚は凪を癒し、空腹感を増やしてしまう。
「腹減った」
「すぐ、すぐ作るからもう少し待ってて」
凪の言葉に桜夜は焦る様子を見せ、キッチンに向かう。
鎖は邪魔だけど、こんな日々も悪くはないのかもしれない。
桜夜が嬉しそうで、その隣にいると凪も嬉しい。
そんな事を思い、凪は自身の鎖を見つめ微笑を浮かべた。

  • No.36 by 月  2016-11-27 03:05:31 




   - 三滴目 白と黒の世界 -

  • No.37 by 月  2016-11-27 03:28:09 

あれから数週間が過ぎた。
凪が桜夜と『約束』を交わしてから、二人の生活は穏やかな日々となり、以前とほとんど変わりなく思えるほどだ。
外出が出来ない事と、手の鎖の煩わしさは少し苦痛だが、隣で桜夜がいつものように微笑んでいるのなら、この暮らしも悪くはない。
そんな事を思っていたのだが、ある日凪は気づいてしまった。
大学の夏休みがあと一週間弱で終わってしまう事に。
大学が始まれば、今のような生活は出来ない。
アパートの家賃や光熱費等は引き落としにしてあるから問題はないが、大学に無断で休み続けるわけにはいかないだろう。
とはいえ、桜夜が簡単にここから解放してくれるとも思えない。

  • No.38 by 月  2016-12-11 02:10:37 

どうしたものかと苦悩している凪に対して、先に口を開いたのは桜夜だった。
「もう夏休みも終わるね」
何の気なしに言ったのかもしれないが、凪にとっては話を切り出すのに助かる言葉だ。
「そうだな、大学始まったらこのままってわけにはいかないし、どうしようか?」
凪に決定権のない今、すべては桜夜の言葉が道しるべと言えるだろう。
凪自身、気づいたらそれが普通に思え、今では何の違和感もない。
凪は桜夜が好きで、桜夜は凪が好き。
桜夜が喜べば凪も嬉しいし、その様子を見て桜夜も嬉しそうだ。
なら、ずっとこのまま過ごすのが互いの為なのだろうと、凪は思う。
でも大学が始まると、今のままとはいかない。
どうしたらいいか分からない凪にとって、桜夜に答えを聞くのは当然の事なのだ。

  • No.39 by 月  2016-12-18 01:06:44 

「とりあえず大学を辞めるのは…もったいないよね。凪、受験勉強凄い頑張って受かったわけだし」
桜夜の『大学を辞める』という言葉に、僅かに動揺してしまった凪は、その後の桜夜の言葉に内心安堵した。
せっかく受かった大学という経歴を失うのは、凪にとってもかなり手痛い。
大学中退でも就職が出来ないわけではないが、ちゃんと卒業した方が希望の職につける可能性はあがるだろう。
桜夜の前で情けない凪の姿を晒したくないのは、社会に出ても変わらないと思うし、むしろ今まで以上にその気持ちは増すと思う。
そのため凪は、大学を必ず卒業したいのだ。
こんな気持ちを桜夜に知られたらきっと桜夜は笑って『そんな事ないのに』と言うのが想像できるので、凪自身口に出す気は欠片ほどもありはしないが。

  • No.40 by 月  2016-12-18 01:16:25 

「あとさ、必要な参考書とか、着替えとかあるから家にも戻らないとだしさ。家賃も手渡しだから、怪しまれたら何かと困るだろ?」
凪はさりげなく自宅に戻りたい意志を告げてみると、桜夜は少し悩んだように顎に指先を添えた。
「着替えは何とでもなるけど、確かに家賃は問題だね。でもなぁ…んん…」
桜夜の反応は凪の予想とは違っていた。
凪は自身の気持ちを主張したら、桜夜があっさり許可するわけがないと思っていたからだ。

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