桃亜 2015-04-30 21:55:36 |
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※唐突に始まる殺伐※
「カルマ君」
「なぁに、殺せんせー」
「なにを、考えているのですか」
「せんせーを殺すための……策、かな」
私の上に馬乗りになり、私の首らしきところに対先生ナイフをあてがいながら笑う彼に、私は不覚にも見惚れてしまった。くすくすと紅玉のような髪を揺らしてつつましく笑う彼は、私を絞め殺そうか頸を斬り落とそうか決めあぐねている様子で、どうにも、不安定だ。
彼一人なら彼をのけて起き上がることも、私の非力さから見たとしても全く持って問題はない―――が、かわいらしく鈴を転がしたように笑う彼には、命の危機すら感じる。無論彼自身の命の危機が。なにか命令されている?しかもそこらの人間ではない、そんなもの彼の敵ではないからだ。そうなると、二代目死神のような実力者だろうか。カルマ君は聡明だ。逆らわないことが賢明と考えたか、もしかしたら監視しているのかもしれない。しかし私の感覚ではそのような異質なものは感じ取れない。生徒たちはあらかた帰っているし、気配に紛れることはできなんだろう。この違和感はなんだ。
「なァに、ぐるぐる考えてるの、そんなに考えること?俺が策を弄して、殺せんせーはそれをすべて回避する、はたから見たら無理ゲーなワンサイドゲーム…もちろん俺が敗北する方ね」
つらつらと私の歯に彼の唇が当たってしまうだろうところまで近づきながら、カルマ君は恍惚の表情を浮かべてぐっとナイフに力を籠める。私の皮膚が少し溶けた。つつ、とまるで本当の血液のように黄色い粘液が私の表面を伝っていく。私の咽喉を掻っ捌くことに決めたのだろうか。
「ヌルフフフフフ、カルマ君、私の首を切り裂いても私が死ぬ、という確証はないのですよ?」
「そうだね」
案外あっさりと肯定された。彼は確実性のある殺しを目的としていない………?思わず目が点になる。―――ああいや点は点なんですけど比喩的なですね―――。私の疑問を読み取りでもしたのか、彼は案外簡単に答えを示してくれた。
「もちろん、頭でさえも殺せんせーは再生しうるという仮説はある」
「俺ね、殺せんせー。先生の頭《くび》が欲しいの?」
「……………殺した証という意味ではなく?」
「うん。生死なんてこの際どうでもいい。ただせんせーの頭が欲しいんだ」
細められた目の隙間から見える、かつて美しかった琥珀色の瞳は濁り、彼の唇はまるでピエロのように歪だ。
「せんせーがもし再生できたら、これからも楽しーく暗殺ライフを楽しむよ。もし殺せたなら万々歳ってワケ。どっちにしろ俺にはメリットしかないね」
あまりの歪みようにさしもの私でも血の気が引く。ああ…これは…おおよそ生徒に抱いてはいけない類の感情だ…。
早急にこの子を更生しなくては。
「もしかして更生とか考えてる?」
まただ、この子は私の感情を読み取りでもしているのか。
「……………あーあ、殺せんせー張り合いがないね、もっと、こう…俺に危害を加えない範囲で抵抗してくれると思ったのに」
そうため息を吐くと彼は、至極素直に私から降りてかばんを手に取った。
教室の引き戸をくぐる前に、ひょっこりとこちらを見る。
「またねせんせ♪次はその首、もらっちゃうよ」
ひたりと蛇のように微笑むその笑顔に、思わず戦慄してしまう。―――いい子ではあるが、どうも狂気が、純粋無垢ゆえの残酷さでもあろうか。渚くんが真っ当な…というのはおかしいが、そんな暗殺者であるならば、カルマ君は狂気を孕んだ快楽暗殺者…しかも人物指定…みたいなものでしょうか。
・・・おや、○○くん。いたのですね。私もですが彼もまた幸い気付いていませんでした。私も少しここにいますから、頃合いを見て帰りましょう。送りますよ。――ええ、あなたも気を付けてくださいね。
end
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