語り部 2016-11-11 07:32:53 |
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>セレネ
…いや、他に家族も一緒に。僕を入れて総勢15人の大所帯だよ。……よくこんな狭い家にって思うだろ、とにかく貧しくってね…。――……疲れただろう、そこに掛けて。
(相手に続き家の中へ入り、後ろ手に扉を閉め施錠していると不意に投げかけられた問い掛け。怖ず怖ずと此方の顔を窺う様子からは先程までとはまた違った意味での緊張と不安とが垣間見え、それを少しでも和らげようと成る丈明るく声音をつくって質問への返答を。この惨劇の中にありながら自分は運良く大した怪我も負わずにこうして自宅まで戻って来られたものの、当時会場に居合わせていた者の多くはその場で命を落としたし、また脱出したは良いがあの悍ましい怪物達から逃げきれず襲われた者も少なからずいただろう。恐らくは自分の家族が無事である確率は著しく低く望みは薄い――しかし今は彼らの身を案じている暇も無ければ、哀しみに耽っている暇も無い。曇りそうになる顔に笑顔を取り繕い、相手を応接間へ通せば二人掛け用の長ソファを指しそこへ座るよう促して。外へ室内の灯りが漏れるのを防ぐ為にカーテンは全て閉め切り、次いで暖炉に火をつけ薪を焼べて炉の上には鍋をかける。坦々と全ての作業を終えた後、両手を叩くようにして掌の煤を払い落しながら相手の向かいのソファに腰をかけ。テーブルに置かれたキャンドルにマッチで火を灯せば暗がりの中に互いの姿だけが浮かび上がるだろう。その瞳と視線が合えばゆっくりと姿勢を正して口を開き)
――…さてと、紹介が遅れたね。…僕はこの町で医者をやっている者だ…町の皆からはケルツェと呼んで貰ってる。君も好きなように呼んでくれて構わないよ。…君は、城下町の出身ではないようだけど。
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