土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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『阻止限界点か……』
それはコロニーの地球落着を阻止出来る、最後の境界線である。その一線を越えてさえしまえば、コロニーほどの大質量落下物を食い止める術はない。断崖に置かれた樽と思えばいい。僅かにに押せばまっ逆さまに谷底に。引き寄せれば手元に戻せる。
ジークフリート線、マジノ線など、戦史に残る様々な防衛線の中でも、これはまぎれもなく最大規模のものだろう。地球をとりまく、まさしく最後の一線なのだ。
阻止限界点通過は、地球落着時刻を遡ること5時間。あと9時間30分を残すのみだ。
「それを越せさえすれば、ついにコロニーが地球を撃つ。今しばらくだ。今しばらくの間、これを守り通さねばならん!」
『……済まない。中立を標榜する我が艦隊は、後方で高みの見物しか出来ん。許してくれ』
モニターの中で、ハスラーが僅かにうなだれる。
「何の。あえて火中の栗を拾う必要はない。ここで連邦と砲火を交えては、貴公らの大事に差し障る。事後の回収を成してくれるだけで、我らは心おきなく戦えるのだ。詫びる必要など、どこにあろうか」
『アクシズの名に誓って、それは必ず。……そう、時にガトー少佐の具合はどうか。何ぶんにも、試作機の範疇(はんちゅう)にも入る機体だ。機構上のトラブルでも出ないかと、技術者が肝をひやしているのでな』
デラーズは、後方監視モニターに目を向けた。宇宙の暗闇を背景に、小さな無数の光点が瞬いている。
「白い、悪魔か……」
『何のことだ』
「連邦の追撃艦隊は、ガトーをそう呼んでおるよ。あのモビルアーマーに、何よりふさわしい名前だと思わんか」
愉悦の笑みをハスラーに向け、視線をモニターに戻した。光点が、煌めきながら徐々に消えていく。連邦の追撃艦隊。それが蹴散らされようとしているのだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 エギーユ・デラーズ ユーリー・ハスラー より
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