土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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改めて状況を確認する。何かが、おぼろに輪郭を整えつつあった。危険な何かが、無意識の沈殿の底から浮かび上がろうとしている。1枚のミラーを爆破。移動する2基のコロニー。遠心力による疑似重力。回転。重心軸線のずれ。偏差。そして……。
「そ、そんな!」
ニナの突然の叫びに、コウが、シナプスが、モーリスが驚愕した。構わずニナは、シナプスの机上のコーヒーカップを手に取る。そして円筒形の筆立てを。
「どういうことです、ニナさん!?」
「もし、私の想像が正しければ……」
ニナはカップと筆立てを机上で近付け、互いに渦を巻くように回転させた。
「……このカップと筆立てをコロニーに見立てます。それぞれミラーを一つずつ失ったコロニーは、重心軸がくずれて、回転に歪(ゆがみ)が生じます」
「そうだ、そしてその歪は増幅され、回転の度ごとに大きくなっていく」
「その通りよ、コウ。そして……」
カップと筆立てが描く円の直径を、ニナは徐々に大きくしていく。やがて膨らんだ円同士が傘なり合い、カップと筆立ては音をたててぶつかり合った。
「そして、激突する!?」
コウがニナの後を継いだ。
「回転運動によって得られたエネルギーは、それぞれのコロニーが損壊するほどの大きさではない。弾けるだけだ。そして弾けたコロニーの片方は、宇宙の深淵に。残るもう一つは……」
コウはニナの手からカップを取った。そのまま机の上をすべらし床の上に落とす。転げ落ちたカップは、絨毯の上にコーヒーの染みを滲ませた。
「月へのコロニー落し!」
シナプスが呻く。
「このことを、コンペイ島司令本部へ!」
モーリスは脱兎のごとく駆け去り、コウはシナプスに向かって叫んだ。
「艦長!アルビオンも転針を!」
シナプスは腕のパテックフィリップに視線を落とした。ややあって、諦めの吐息と共に言葉を吐き出す。
「この位置からでは、とても間に合わん間に合わん。とにかく今はガンダムを、GP03を!」
「な、何てことだ!」
コウはつま先で床を蹴った。その勢いで、コーヒーカップは絨毯の上を転がり、壁に当たった所で止まった。もちろん、誰もそんなものに目をくれるはずもない。しかしカップが止まった壁の上には、確かに世界地図が貼られていたのだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第11章 星の屑 本文 コウ・ウラキ ニナ・パープルトン モーリス シナプス艦長 より
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