土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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「ケリィさん……」
「何だ?また何かあるのか?」
「戦いのさなか、理念のない軍人は軍人でない、と言われました。ある男に」
ソロモンの悪夢。あの男は言った。戦いの意味すら解せぬ輩に。
「理念?理想?そんなもん、いずれ見つかる」
「けど、僕にはそれが……」
「言っただろう。まずは目の前の、やるべき事を片づけるのが先だ。明日も腹一杯メシを喰いたいから戦う。好きな女を抱きたいから戦う。それも立派な理念だ。結局はそれでいいのさ。崇高な理念なんてのは、そんな小さなもんが膨れ上がって、大きくなっただけだ。それよりもまず、自分がきちっとやらなきゃならない事を片づけてからだ。それができない男に、明日の理想を語る資格はない」
コウは言葉を失った。それだけの事。たったそれだけの事だろうか。
いや。だが自分は、それだけの事すら出来ていなかったのではないか。目の前の、やらねばならない事もせず、ただ逃げていただけではなかったか。
自問する。それは過去の自分に対してだ。ケリィの言うことが全てではないだろう。しかし今の自分には充分すぎる解答だ。
----そうだ。こいつを修理して、明日はフルバーニアンのテストを行う。それだけだ。それだけを考えよう。後のことは、戻ってから考えればいい。
そう思うと、自然、ドライバーを回す手にも力が入った。
どこからか、ケリィが手配してきた推進剤を積み込みエンジンに力を入れる。スラスター推進異常なし。制御機構にも問題はないと見られない。アイドリング状態でかすかな炎をちらつかせる。ケリィは陽炎にも揺らぐその黒鉄色のノズルを見上げながら、深い感慨に浸った。
「ついに息を吹き返したか……ヴァル・ヴァロ」
モビルアーマーの名らしい。コウは満足げなケリィの表情を見ながら、かすかに微笑んだ。
そして夜が明けた。人工の太陽光が、街に降り注ぐ。フォン・ブラウンを乳白色の明りで包む。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 中巻 第6章 もがれた翼 本文 コウ・ウラキ ケリィ・レズナー より
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