土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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「そうか。これはデラーズ大佐の専用機か」
ジオン軍では、指揮官が専用モビルスーツを持つ事が慣習的に定められている。もちろん式典用という意味合いが強いが、最後の最後には、指揮官自ら前線に立て。という魂の表れでもある。実際多くの指揮官が、前線において自ら出撃、勳功を立てた例も多い。例えばあの、“赤い彗星”のように。
----しかし、貴重な戦力には違いない。我が母艦、ドロワの直衛にも回らねばならんしな。
そう自分に言い聞かしながら、コクピット内に身を潜り込ませようとした瞬間。
野太い声がガトーを制止した。有無を言わさぬ、威圧感に満ちた声だった。
「待つのだガトー!」
さすがのガトーも、その重厚な声に動きを止めた。
声の主、それは今まさにガトーが乗らんとしているリックドムの持ち主だった。
エギーユ・デラーズ。このグワデンを旗艦とする機動艦隊の司令官である。
「エギーユ大佐。しかし」
「貴公の母艦ドロワは、沈んだ。連邦軍モビルスーツ隊の猛攻によってな」
「馬鹿な、あのドロワが?」
「ドロス、ドロワという両空母が失われ、我が軍の戦力はズタズタに引き裂かれた」
無念そうにその瞳を閉じるデラーズ。多くの戦士達の冥福を祈るかのように。だがガトーとして、その心がわかるからこそ、こうして出撃しようとしているのだ。こうなれば、弔い合戦である。
「しかし、このままでは散っていった兵も浮かばれません!」
「我が総帥ギレン閣下も亡くなられた。我らは、生きて総帥の志しを継がねばならぬのだ。それがジオン軍人としての使命であろう」
「ギレン総帥が……」
言葉が途切れる。しかし彼は、その驚愕の念を振り払い言葉を繋ぐ。
「ならばなおの事。ここで私に生き恥をさらせと言うのですか、大佐」
「アナベル・ガトー大尉!」
「行きます。行かせてください」
ガトーが再びコクピットに向き直った時、デラーズはキャットウォークから飛んだ。そして、ガトーの元にたどり着き、その右腕を捕らえる。ガトーほどの男が、一瞬顔をしかめるほどの豪力で。
「行ってはならん」
「大佐。お願いします」
「ならん。生きてこそ得ることのできる真の勝利の日まで」
右腕を握りしめ、デラーズは一語一語噛みしめるかのように言葉を紡いだ。ガトーへ向けてと言うより、内なる自分自身に対する決意の言葉だったのかもしれない。
だからこそ、ガトーも理解した。
大佐も同様に、いや、それ以上に辛いのに違いあるまい。生粋の武人ならば、理想半ばにして倒れた総帥の後を追い、戦場で散りたいであろうに。
生きてこそ得ることのできる真の勝利の日。
本当に、そのような日が訪れるのであろうか。
ガトーは無言でデラーズの目を見据えた。それだけで十分だった。それだけで彼は、来るべきその日を信じる事が出来た。
----この方の言う事ならば。
理屈ではない。かと言って、感情だけではなかった。右腕から伝わる、デラーズの情熱を感じとったからだ。
だからこそ彼は、
「その日まで、貴公の命、儂(わし)が預かった」
というデラーズの言葉にもうなずくことができた。
----生きてこそ得ることのできる、真の勝利の日まで。
「その日まで、私の命、大佐にお預けします」
デラーズは、ただ黙ったままうなずいた。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 上巻 本文 アナベル・ガトー エギーユ・デラーズ より
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