土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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屈託のない、明るい子供たちの笑い声が、どこからか聞こえてくる。それは、口々に、なにかを祝福しているようだ。今日は、年が明けて最初の登校日である。
窓からこぼれる木漏れ日は、優しく、温かく、その小さな部屋の中に差し込んでいた。その部屋の主は少年であろうか。それも、まだ腕白な盛りのようだ。ゴミバコには紙屑が溢れ、床には玩具の銃が無造作に転がっている。机の上には、ノートやテキスト、ペンの類が散らかり放題という有様だ。
その山の中に混じって、黒い、小さな機械類が覗かせている。ビデオカメラのようだ。ディスクがセットされたままである。
それは、まるでノートの山の下に、隠すように置かれてあった。
少年がそのビデオを見たのかどうか----それはわからない。しかし、もしそのカメラを操作すれば、その者は、ディスプレイの中に、こんな情景を見るはずだ。
金髪の、まだ若い青年が、森の中、カメラに向かって話しかけている。そんな映像を。
「アル----。よく聞いてくれ」
彼は、まず画面に向かって、こう話しかけてくるだろう。
「おまえがこのビデオを見る頃、オレはたぶん、この世にいないと思う。これはアル伍長への、最後の命令だ。おまえに渡した包みの中には、オレの証言を納めたテープや、証拠の品が入っている。このコロニーが、核ミサイルの目標になったわけを、オレの知る限り納めた」
青年はディスプレイ越しに、優しい瞳で、それを見る者に微笑みかけてくるだろう。
「もし、クリスマス作戦が失敗したら、これを、警察か、軍に届けてくれ。オトナが本当だと信じてくれたら、このコロニーは救われると思う。クリスマス・プレゼントというわけだ」
ひと段落を置き、彼は続ける。淡々と。
「オレが自分で届けようと思ったんだが----悲しいけど、オレはジオン軍人なんだよな。やっぱり“できそこない”を、この手で討ち取ってやりたい。そう思う。別に“できそこない”のパイロットが憎いとか、連邦を倒さなきゃいけないとか、そんなんじゃないんだ。ただ、オレを逃がしてくれた隊長たちに、軍人として、少しでも近づきたいって----。わかってもらえるかな?アル……」
青年の心は、少年に伝わっただろうか。彼は、溜息をつくと、決意を込めた顔を上げる。レンズの向うの相手に向かって。
「アル。オレはたぶん死ぬだろうが----そのことで、連邦軍の兵士や、“できそこない”のパイロットを恨んだりしないでくれ。彼らだって、オレと同じで、自分がやらなければいけないことを、やってるだけなんだ。無理かもしれないけど、他人を恨んだり、自分のことを責めたりしないでくれ。これはオレの最後の頼みだ……」
青年はうつむき、しばらく黙り込み、そして顔を上げる。ぱっと晴れたそれを。そして軽い口調で、彼は言う。
「もし、生き伸びて、戦争が終わったらさ。必ず、このコロニーに帰ってくるよ。おまえに逢いにくる。約束だ」
ウインクをひとつ。そして右の手で指鉄砲をつくり、レンズに向かって、撃って見せた。なにか、ふっきれたような表情で。
「じゃあな、アル。元気で暮らせよな。クリスによろしくな」
青年は、ニコリと笑うと、すっと右腕を上げて、カメラに向けて、敬礼をする。きりりと勇ましく、そして、何より、レンズの向うの相手に、親愛の情をこめて----。
OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』小説 エピローグ/0080----春 本文 バーナード・ワイズマン(青年) より
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