土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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「これで完成ですな----」ミーシャはクリップデータにつけたファイルをチェックし、シュタイナーに渡しながら伝えた。「テストの状態も良好、あとは武器の封印(シーリング)を外すだけですよ」
二人は今、ジオン軍モビルスーツ、“ケンプファー”の巨体の脇にいるところだ。太陽はあれから、再び空に昇り、その光は工場内に斜めに差し込んでいるところである。
アルを作戦に加えるという独断を下したシュタイナーであったが、そこは長年連れ添った特務の二人、ミーシャとガルシアは、彼の腹の底になにかあることを読みとって、こうして黙って、ケンプファーの組み立て工程にかかっていたのである。それももう、終わりに近づいていた。作戦が開始されるのは、今夜半なのである。
シュタイナーは、火のついてないタバコをぶらさげたままファイルを確認して、深くうなずくと、懐に手を滑り込ませてなにやら取り出した。ライターである。
「おや、禁煙はやめですか?」
「死刑囚でも、刑の執行前にはタバコくらい吸わせてもらえるだろう」タバコに吸いつけ、一息紫煙をくゆらすと、シュタイナーはニッと笑った。「だったら、オレが吸えない道理はない」
「淋しいですな----」
「……この戦争、ジオンは負けるな。ミーシャ----」シュタイナーは顎を上げ、天井を見上げた。「でなければ、オレたちの作戦が失敗したときに備えて、あんな条約違反の“保険”など、かけるわけない」
しばし、二人の間に沈黙が流れた。ミーシャも顔を上げる。工場の天窓に、だれかの腕が見えた。バーニィとアルが、屋根にいるのだ。「----隊長、あの子供のことですが」
「心配するな。手は考えてある」
「だろうと思いましたがね。しかし、威勢のいいガキですなあ」
「はっはは。子供ってのは、いつの時代も変わらんらしいな」シュタイナーはタバコを投げ捨て、どこか遠くに視線を投げて、言った。「オレにもそんな頃があったよ。まるでそれが夢だと気づきもしないで、戦争ゴッコにあけくれた日々がな----」
「オレも同じですよ、大尉」 ケンプファーの装甲の上から会話を聞いてたらしいガルシアが、工具を振って答えた。「まさか、それを商売にしちまうとは、思っても見ませんでしたがね。さて、武器の封印を外すのを、手伝ってくれませんか」
OVA「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」 小説 2 河を渡って木立を抜けて シュタイナー ミーシャ ガルシア より
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