土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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「させるかよ!」
巨体を返すと、左腕を振りあげる。ハンド・ミサイルユニットが装着されているのだ。アンディがコクピットの奥にあるプラグを抜くと、それは、今獲物に飛びかからんとする蛇の口のように、バクンとカバーを開いた。
それをシャトル発射台に向ける。モニタの端に映っていた、倒れたジムが動いた。まずい、とアンディが心の中でわめいたがせつな、ジムの機関砲が炸裂した。
ほとんど同時に起こった爆発音を、アンディが聞くことができたかどうか。ひしゃげたコクピットが、彼の体をちぎらんばかりに深く噛みつき、倒れたモニタの破片が、彼の顔を貫いたその瞬間に。
ジムが放ったやぶれかぶれの一発が、カバーを開け無防備になった、彼のズゴック改のハンドミサイルに命中してしまった。
あたりに白煙がぱっと充満してしまったのだ。音という音がすべて、ジェットエンジンの噴出音に飲み込まれ、基地全体が大きく震えたようだ。シャトルはゆっくりと船体を浮き上がらせると、重力の枷を一気にひきはがし、シャトルの尾を引きながら、みるみるうちに上空へ飛翔していった。
静寂だけを残して----。
「♪♪ンーフフッフ、ンーフフッフ、ンーフフッフ……」
薄らいでいく意識の中で、アンディは血の味を感じながら、この鼻唄を歌っていた。不思議と、死ぬことへの恐怖はなかった。
彼は思い出した。この歌は、自分がまだ戦争ゴッコに夢中になっていた子供の頃、オモチャの銃を構えながら歌っていたものだということを。そして、可笑(おか)しくなった。いつのまにかゴッコがゴッコでなくなり、今はこうして、ゴッコの歌を友に死のうとしている。
オレの魂は、恐らく宇宙に昇るだろう----アンディは途切れ途切れの鼓動の中で考えた----今や宇宙にも、九十億もの人々が住む時代だ。そして、そこで産まれかわり、やはり戦争ゴッコにはやるガキになるだろう。それもいい。戦争ゴッコほど、心ときめく遊びはないのだから……。
アンディのなきがらを葬ったサイクロプス隊の三人が、唯一、心を救われたのは、この、良き戦友の傷ついた顔が、それでもなぜか、童心に返ったように穏やかであったことであった。
宇宙世紀00七九。一年前に始まったジオン公国対地球連邦軍の戦争は、ジオン軍の敗色が濃厚になりつつあった。
シャトルが昇っていった先、そしてアンディの魂が戻っていったところ、そこに、一人の少年が住んでいる。名前は、アルフレッド・イズルハ。いつの時代にも、どこの国にもいそうな、ごくありふれた少年だ。
物語は、彼の夢から始まる。
アニメ『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』小説 プロローグ/0079----冬 本文 アンディ より
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