土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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しかし、
(諦めてたまるものか)
カレンは、懐に手をやった。そこには、亡くなった夫の写真が入っている。
夫とは、医療生時代に知り合った。夫は、まだ若い医師で、集中治療室(ICU)に勤務していた。
集中治療室に入ってくる患者は、みな生と死の境目にたつような者ばかりだ。天秤が「生」に傾けば、一般病棟に移される。「死」に傾けば遺体安置室に移される。どちらにせよ、集中治療室から出て行くのだ。
夫は、そんな患者たちに向かって、いつも「諦めるな」と言い続けていた。
生きるのを諦めるな。
諦めなければ、かならず治る。
俺が治してみせるから。
カレンがサンダースに腹を立てたのは、諦めていたからだ。死神サンダースのジンクスを受け入れ、それを覆せないと諦めていたからだ。
(あたしは諦めないよ)
カレンはマグライトを口にくわえて、パネルの奥を照らした。そして空いた両手で、色とりどりのコードを引き出す。どうすれば直せるのか見当もつかないが、カレンは諦めるつもりはなかった。諦めることは、夫を否定するような気がするから。
(生きてやるさ)
マグライトをくわえる歯が、ギリッと音をたてた。
アニメ『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』小説 上巻 第七章 強敵 本文 カレン・ジョシュア より
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