土佐人 2014-11-24 06:43:24 |
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田口が渡海医師を見上げる。そしてうなずく。渡海医師は続けた。
「獅胆鷹目(したんようもく)、というこの言葉の意味がわかるか?」
渡海医師を、田口はうつろな目で見る。
「これは外科医の心構えを言葉にしたものだ。患者を治療するには、獅子の心と鷹の目を持て、ということだ。お前がなりたい医者とは無縁の世界だ」
田口は渡海医師をにらみつける。渡海医師はへらりと笑う。
「いい面構えだな。この言葉には続きがあるんだが、聞きたいか?」
田口は首を振る。渡海医師は一瞬淋しげな表情になるが、すぐに傲然と顔を上げる。
「この続きにはお前への救いがあったんだが、まあ、いい。お前は正しい。だが正しさも実践できなければ、ただのクズだ。悔しかったら一人前の医者になり、お前の医者を俺に見せてみろ。その時にはこの言葉の続きがわかるはずだ」
田口に向けられたその言葉は、速水の心に突き刺さる。速水たちはゆらゆらと姿を消した渡海医師の後ろ姿をぼんやりと見送った。
海堂尊『ひかりの剣』第七章「獅胆鷹目」本文 より
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