匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
|
通報 |
(実はこれまで、相手の気持ちの深いところをきちんと尋ねたことがない。それはそうするまでもなく、ヴィヴィアンが常日頃より伝え続けてくれるからだし、今は──少なくとも昨夜からまた──互いの愛情関係を確信しているからでもある。なのにこうして問い直すのは、初めての色恋に浮かれる若者でもあるまいし、野暮で気恥ずかしく感じたが。『ちゃんと"わかってる"し、本当に! 私はギデオンさんと居られればそれでいいって、そう言いたかっただけで……』。あのいじらしい声を思い返すに、既に通じているつもりのことも、案外ちがう気もするのだ。
そんな思いから切り出した話題であったが、現に今。目の前のヴィヴィアンが迷いながら紡ぐのは、聞けば驚く言葉ばかりだ。『ワーウルフから助けていただいて嬉しかったのは本当ですよ』……それはつまり、後の出来事がより重要な本題だろうと、あの一件が彼女にとって大きかったという意味で。──ギデオンにしてみれば、あの当時の出来事は、ある意味些細なひとコマだった。二十五年も冒険者をしていれば、獰猛な魔獣から仲間を必死に救うのは、無論そうではいけないのだが、よくあるといえばよくある話。何より当時の自分にとって、直後の彼女の告白のほうが余程青天の霹靂で、まさか本気で受け取るまいと、何なら忘れ去るように努めていた気さえする。しかし思えば、うら若い女性にとっては、確かに劇的だったのだろうし。だがそれでいて、「本気で受け取られなかったことで安心した」とは、これ如何に……?
そうやって首を傾げながら、自分でも驚く娘と丸い目を見合わせながら。真夏の青い星空の下、相手の一言一言にゆっくり耳を傾けて。目に見えない小さな何か、これから必要だろう何かを、胸の内に積み上げていく。──どこかしおらしいような声音を絞り出す恋人に、ふむ、と口許に手を当てて、今度はこちらが考える番。ある意味女として見られずに安心しきっていたヴィヴィアンが、当時の己のありようを見て、放っておけなくなったのだと……それが自分に構いはじめた始まりであるのだと。しかしその言葉には、少し言わせてもらおうか。)
──……俺にしてみれば、そうだな。きちんと食べて、よく休みもして……そうやって、前よりずっと健康になった今のほうがもうよっぽど、おまえなしじゃ生きていかれない体になっているんだが。
それはともかく……目を離すと危うかったのは、お前だって同じだろう?
(いとも甘い言葉を囁き、たらし込もうとしたかに見えて。──するり、と。こちらの右肩を案じるように触れていた彼女の片手を、今度はこちらが絡め取り、その小さな指先をどこか冷静に包み込む。親指の腹で確かめるよう手の甲をに撫でる仕草は、果たしてあの当時の記憶を彼女に思い出させるだろうか。「シャバネの時だ、」とすぐに明かししてやりながら、こちらも少し中空に視線を留め、緩みの失せた表情を。──やがてまっすぐ、叱るではなく案じるように、穏やかなアイスブルーで見つめて。)
俺だけじゃない。お前だって、自分のことが二の次だった。すぐに具合が酷くなって、自分でもそれを言えるのに……誰かのことを治すためなら、自分が後でどうなるか、あの頃はまるで構わなった。……シスターレインの教え、ってわけでもないんだろう?
| トピック検索 |