匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( まさか二人揃って相手に黙り、愛用の食器を持ち込んでいるだなんて。計らずも揃ったテーブルウェアに、無邪気に顔を綻ばせるギデオンの傍ら。ビビはといえば──プロポーズを控えている相手と違い、当然と言えば当然なのだが──案外冷静に、その幸せそうな横顔を微笑ましく見つめていた。
信じられない……か、と。確かに、相手からの好意を憎からず思いながら、それを固辞していた相手とはまた違った形だろうが。ビビもまた、こんなに愛せる人が。愛しても“許される”、“受け止めてくれる”人が出来るだなんて。そして、自分もまたその人から愛されている奇跡なんて、一年前のあの時は思ってもみなかった。──こんな日々が、ずっと一生続いてほしい。それだけが娘の幸せで、それ以上のものなどいらないのだから。なんて、ピンクペッパーの散った白い切り身を口へ運びながら、スープを味わうギデオンに目を細めれば。思い出すのは、『私とじゃなくてもいいから』なんて言っていた一年前のやり取り。当時は心の底から口にしたつもりの本音だったが。どうか、目の前の愛おしい恋人が、当時のビビの殊勝ぶった世迷いごとを、すっかり忘れてくれていますように。 )
──……いえ、いいえ。
まだどこか……幸せな、夢を見ているんじゃないかって思うくらいです。
( そうして、愛用の食器類で食事を堪能し、上機嫌にビビのことを思い浮かべてくれているらしい横顔に、うっとりと蕩けていたエメラルドを「ありがとうございま……はい?」と、心底驚いたように揺らしたのは、ギデオンの問うた意味が一瞬、よく理解できなかったからだ。聞いたことがなかったも何も、シルクタウンでロマンチックに助けられて、好きになっちゃったと、責任を取って欲しいと迫って始まった関係だろうに。まさか忘れてしまったのか。それとも、もっと深いことを聞かれているのだろうか? そう改めて、ビビよりもずっと年上で、聡明な恋人からの問いに、真剣な顔で口の中身を胃の奥に飲み下し、思考を無意識の果てに巡らせれば。「……ワーウルフから助けていただいて嬉しかったのは本当ですよ」と。それでも、決して否定されたくはない思い出については、しっかりと念を押しておこう。 )
でも、きっかけは、そうですね、……。
私が初めて告白した時、ギデオンさん、本気にしていらっしゃらなかったでしょう?
( それから、改めてギデオンの質問に向き合い直せば。思わず問い詰めるようになってしまった物言いに、「いいんです、当時は確かに本気じゃ……ううん、正気じゃなかったもの」と、恥ずかしそうに視線を逸らし。気付薬でもそうするように、ルビリアグラスを大きく煽ると。覚悟を決めたように、酒のせいだけでもなく、潤んだ瞳と上気した頬をまっすぐにギデオンの方へと向け。
──最初はね、それにとっても安心したの。私が“女だから”じゃない、“本物の冒険者“として仲間に入れてくださったんだって……。
そこまで口にして初めて、自身でも気づいていなかった内心に驚いたように目を丸くし。しかし、すぐさま表情を曇らせると、「……多分、きっかけは、きっとグランポートの時です」と、未だ完治しきってはいない相手の右肩──の先の右手にそっと触れ。当時、小娘であるヴィヴィアンのことが、趣味ではなかったというよりも。まるで、自分が本気で誰かから愛されるわけがないと思い込んでいたような。そしてその本人が一番自身のことを憎んで、喜んで危ない場所へと行きたがっていたような。どうしようもない危うさを思い出せば。
その一方で今、目の前で嬉しそうに食事を頬張り、昨日はボロボロになってまでビビを探しに来てくれた可愛い恋人に、自然と小さな笑みが漏れる。そうして、続けた言葉は九割本音で一割が嘘。本当は別に隣にいるのは、“ビビでなくても”きっとよかった。しかし、それに気付いて欲しくない、ずっとこの人の隣にいることを許されたい。そんな願いからくる小さな嘘くらいは、きっと許してもらえる筈だ。 )
……だってあの時のギデオンさんったら、ご自身のこと全然大切にしてくださらなくって。
”私がいなかったら”、生きていけなさそうだったんですもの……。
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