匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( 冷静を欠いた勢いのまま、サリーチェの家を飛び出て早数日。あの晩はあれが正当な怒りだと、建前ではなく、本当にもっと頼って貰えた方が嬉しいのだと示したつもりでの行動だったが。──果たして、あれは本当に正しい振る舞いだったか、頼って貰えないのはビビの実力不足で、愛しい人をさらに追い詰めただけではなかったか。度々、『忘れてくれ』と。あの冷たく鋭い声を思い出しては、嫌な動悸に酷く心臓を痛めつけられ。──もし、ギデオンさんが迎えに来てくださらなかったら。素晴らしい彼には、もっと相応しい人がいると気づかれてしまったらと。自ら帰らないと宣言しておいて、自分でも一体何をどうしたいのやら。そうして、心の内は嵐のようにぐちゃぐちゃに荒んでいようとも、忙しい仕事に友人にと、目の前のことに集中していれば、時間は無情に過ぎ行くもので。)
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( その晩も、ここ数日の恒例通り。居候させてもらっている家主と、お互いのシフトが終わるのを待ち合わせれば、祭りの出店で本日の夕飯を見繕う。そうして、長くない家路をぺちゃくちゃと、実の無い話に花を咲かせていたものだから、同時刻、大通りで起こっていた喧騒とは縁遠く。「……っ、ビビさ、」「大丈夫、気づかない振りして」と。深夜の路地裏に二人、やっと自分たち以外の不審な気配を認めたのは、目的の借家も目の前の、人通り少ない路地に入ってからで。──別に何も無ければ、ただの酔っぱらいであればそれでいい。しかし、この遅い時間に目的地へと急ぐでもなく、ふらふらとどこか頼りない足音に、普段はリズが一人で暮らす住所を知られてしまうのが一番まずいと。彼女だけを先に彼女のアパルトマンへ急がせれば、腰の獲物へと静かに利き手を滑らせる。そうして、ギデオンと高級住宅街で暮らし始めてからは無くなっていた、女にとって避けがたい久かたぶりの緊張に息を飲めば──最初は見間違いを、その次は、会いたい気持ち強さにとうとう幻覚でも見だしたかと、自身の正気を疑った。 )
──……ッ、ギデオンさん!?
( 約束通り自分のことを迎えに来てくれたのだ、とは思わなかった。着の身着のまま飛び出してきたと言わんばかりの格好に、普段の規律正しさなど見る影もないやつれた足取り。兎にも角にも、彼の全身から溢れ出す緊迫感に、市井で何か事件や事故でも起きたのやもと思えば、ここ数日の蟠りなど二の次で。一切の私情や甘えの滲まない、真剣な顔で駆け寄って。 )
何か……何があったんですか!?
被害状況は! ギデオンさんもお怪我は……
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