匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( 終戦六十周年の節目の年を祝う特別な建国祭。恒例の警察や冒険者に次ぎ、今年は国軍の兵士たちまで。キングストン、及びトランフォードの名だたる治安維持組織が総力をあげた警備体制下。それでも起こってしまった騒動の瞬間、ヴィヴィアンとカーティスの二人組は、北通りから一本曲がった通りでパレードの進行ルート封鎖に当たっていた。最初は何か巨大なものが倒れる衝撃音、次いで上がった群衆の悲鳴に騒動の現場へと駆けつければ。もくもくと上がる土煙の奥に、寸前まで屋台だった残骸の上に立つ一体のマラクドラゴンを見咎めて。
「ッ、カーティス!!」「わぁってる!! 仕方ねぇだろ!!」と、この時。珍しく口調を荒らげたのは、単体でマラクドラゴンへ斬りかかった美貌の剣士。ビビの援護すら待たずに広場に入るなり、その巨体へと踊りかかったその無謀はしかし、逃げ遅れた市民を守る為のものだったことに気づかなかった訳では無いが。見渡す限り、戦力になりそうな味方がカーティスとビビしかいない状態で、前線での殺戮に特化したドラゴンの逆鱗に触れることが如何に危険なことか。不幸中の幸いは、カーティスが守った一人を最後にして、守るべき市民達の避難は完了していること。いち早く到着した対魔獣の専門家である冒険者達の存在に、市民の避難と広場の封鎖に専念した警察達の動きは、表彰されこそすれ、決して責められるべきことでは無い。とはいえ、フッフッと荒い息を吐くドラゴン相手に二人では──と、改めてそのドラゴンに視線を向けかけた瞬間。ドォン!! バキッ、メリメリメリメリ!!! と、耳の横すれすれを掠めた瓦礫が、背後の屋台を一撃で破壊する衝撃音に、取り急ぎ完全無策で駆け出すと。相手は対人特価の殺戮兵器。竜騎兵の操るマラクドラゴンの相手は、こちらも同種のドラゴンか、もしくは熟練の連隊が作戦をもって対峙するもの。まかり間違っても、カーティスとビビの二人で相手取れるパワーバランスなどではなく、かといってそんな暴れ竜を広場から逃がすなどもっと有り得ない。この万全の警備体制下、この騒動はすぐさま他の冒険者たちの耳にも入り、すぐさま応援に駆けつけてくれるだろうが、果たしてそれまでどうもたせるか──と、その時。必死に見開いたエメラルドに、その文字列が映ったのは完全なる偶然だった。
類稀なる高い知能を持ち、前線では鋭い爪を振るう一方で、平時では市民とも触れ合う温厚なマラクドラゴン。その理知的な視線は、見る者の浅ましい欲を宥めさえする美しい竜だが、そんな彼らには一つ共有する欠点がある。それは──酷く、それはもう救いようがないレベルで食い意地が張っているのである。どんなに十分に餌を用意しようと、彼らのバディである竜騎兵の注意も虚しく、道端の花壇や店の商品を貪り食む姿は最早日常。最近は彼らが通ったあとは雑草一本残らぬことから、農村での導入も研究されているらしい。とはいえ、建国祭の花形である竜騎兵のパレード。誘惑の多い祭日の中を練り歩く事情上、屋台の食事に手を出さずに我慢出来る優秀な(?)個体が選別されていたはずだが──ビビの視界に映ったのは、バターと……マラクドラゴンの好物である蜂蜜がたっぷりとかかったイラストが描かれた屋台の看板。そして、その蜂蜜の種類が、"ハオマハニー"と。最近、市井で健康に良いと流行っている健康食品である高級蜂蜜なのだが。人間には様々な良い効能をもたらすガオケレナの近縁種の花から作られる蜂蜜も、確か一部の魔獣や動物には良くなかったはずと、太い尾の鋭い一撃を交わしながらその様子を観察すれば。ダラダラと溢れるヨダレに、虚ろな視線、時折腹を庇うように屈んではギュウゥ……とうなる姿は、腹痛に苦しんでいるようにしか見えず。
そうと分かれば話は早い。「顔の前まで飛ぶわ、援護して!」と共有したカーティスからの、「正気か!?」という快い承諾を背に、遥か高い位置にもたげられた首の先へと飛びついて、解毒の呪文と共に大きな動きで杖を振れば十数分後、結果から述べるにビビの推測はたしかに当たっていたようで。酷い腹痛から解放され、キュゥ……と自分の起こした惨状に申し訳なさそうに縮こまるドラゴンの隣。数刻ぶりに顔を合わせた恋人の呼ぶ声を、カーティスの腕の中で聞くことになったのは、着地に失敗して足を挫いたからで。 )
──ギデオンさん!
ね、もう下ろしてちょうだい、大袈裟なんだから……
( 普段膝上までしっかりと防備しているブーツを脱いで片手に持ち、もう片方の足で駆け寄ってくるギデオンとカーティスの間に立てば。「暴れていたドラゴンはあちらです。もう危険性はないと思うんですけど……」と、ことの顛末の説明を。「つまみ食いしたか、見物人に与えられたか……ハオマハニーによる錯乱かと思われます」と口にしたところで、よく気づいたなと驚いたのは男性陣のどちらだったか。しかし、カーティスの方はといえばすぐに「……『アナバシス』だな?」と得心の言った表情で頷いたかと思うと、「蜜をとる植物によっては、蜂蜜が毒になるなんて本当だったんだな……」と、今回の閃きがビビの実力ではなく、古代の歴史書からの引用だと、ギデオンへとバラしてくれようとするのを黙らせようとしてバランスを崩すと。──ギデオンさんに褒められたいのに!! と、その浅黒い腕に掴まってぽこぽこと頬を膨らませ。 )
──まって! しーっ、シーッ!!
なんで、バラしちゃうのよう……!
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