匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( 時を遡ること約一週間、様々な感動に満ち溢れたガダヴェルでの大冒険が始まる数日ほど前。若手ヒーラー・ヴィヴィアン・パチオは、密かに胸を高鳴らせていた。それは、帝国魔導学院から届いた協力要請の書面とは別にもう一通、とある手紙が娘の元へと届いていたからだ。今回協力を仰いだガリニアの学者──もとい、ヴィヴィアンの父親にあたるギルバート・パチオから、一人娘に当てた一通の私信。流行の薄紙を使った便箋には、お堅い時候の挨拶や今回の事件についての個人的な主観の他、"久しぶりに顔が見たい"、と。忙しいパパが、私に、会いたいと!! この話の流れだ、魔導学院からギルドへ協力しに来てくれる代表者はパパなのだと──てっきり、そう信じ込んでいた娘の下を、つまりカレトヴルッフを訪れたのは、顔も知らない歴史学者の青年だった。
とはいえ、彼個人の名誉の為にいうと、学者の仕事は非常に素晴らしかった。盗まれた碑文が、いつどこで出土した代物なのか、確かな文献とともにあっさり提示し、ついでに“薔薇十字原理教団”が多用する管理魔法の痕跡さえ、捜査の証拠として正式に使える形式で並べられては誰もが感心するしかない。あとから話を聞けば、今の帝国では右に出る者はいないと謳われるその道の第一人者ということで。ギデオンらの活躍をもって尚、彼の存在がなければこんなに早い事態収拾は望めなかったであろう大物の出国を、よくもあの帝国が認めたものだと、カレトヴルッフ側が感心していた時期を同じにして。そんな彼の出国に一番大きく貢献した大魔法使い、愛する娘が自分を頼ってくれたことに、密かに浮かれ回っていたギルバート・パチオが──例の私信を出すに至った、それを進めてくれた研究助手から、「そうじゃないでしょう!」と。何故アンタが行かなかったのか、「娘さんに"会いたい"って、今度こそ書けたんでしょう!?!?!?」と、持ち前のコミニケーション下手をボコボコに叩かれていたのは別のお話。 )
…………。
( 閑話休題。カレトヴルッフに激震を走らせたタブラ・スマラグディナに纏わる一連の事件が収束し、いつも通りの日常が帰ってきたギルドにて。此度大変お世話になった教授に感謝を伝え、辻馬車の駅までお見送りから帰還したヒーラー娘は、普段元気よく揺れている尻尾をしょんぼりとさせ、とぼとぼと長い廊下を歩いていた。──忙しいって、わかってたのに。普段滅多に個人的な連絡を寄越さない父からの手紙に、ただの社交辞令を真面目に受け取ってしまった自分が恥ずかしい。子供じゃないのに、こんなことで落ち込んで、会いたかったのは、あんなにお世話になった教授じゃ無かったなんて失礼だ。そうして、ふ、と自嘲を漏らし──いけない、と。暗い気持ちを物理的に振り切るように首を振れば、ぱたぱたと真っ直ぐ走り出した先は、ドクターのおじ様に聞いた"彼"の居場所。こんな酷い気分の時は、誰か他の人に構いつけ、忙しくなってしまえば自分の事など忘れてしまえる。そんな破滅的な思考を自覚していた訳ではないが、担当治療官として任務後の相手の体調は、他意なく確認しておきたかったところ。ワーカーホリックな相手のことだ、もたもたしているとすぐ様次の依頼に向かってしまう前に捕まえなくてはと。ノックの返事を待って勢いよく部屋に飛び込めば、いつもの通りの人懐こい笑顔で擦り寄って。 )
お疲れ様です、ギデオンさん!
今先生を送ってきたんです……あれから傷の調子は如何ですか?
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