匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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ああ、助かる。よろしく頼──……、
(高学歴冒険者であるこのヴィヴィアン・パチオなら、きっと何かしらの人脈を持っているに違いない。たしかにそう期待していたが、まさか国外にいる有力者まで動かしてくれるとは、と無知ゆえ無垢な感想を抱き。この光明を逃すまいと、頭を下げて頼み込んだ……はたして、その代償だろうか。
その後カレトヴルッフでは、珍妙な光景が爆誕することになった。最近噂のふたり組、ベテラン戦士のギデオン・ノースと若手ヒーラーのヴィヴィアン・パチオが、何やら本気の追いかけっこに興じている姿である。男の沽券にかかわるだとか何とかで、ボロボロの姿の戦士は何やら必死に言い返しながらあちこちに逃げ回り、それを健気なヒーラー娘が果敢に追い詰めていくという、なかなかの喜劇だったそうだが。詳しくは別の機会に──もしくはいずれ、また後日。)
(さてはて。そんな一幕を経たから、なんてだけではなかろうが。数日後のギデオンは、清潔な装いを一度しっかり取り戻し、何やら覚悟を決めたような精悍な目つきをしていた。何せ、後輩のヴィヴィアンが類稀なる伝手から引き出してくれた情報と、マルセルとフェルディナンドの報告を統合すると、あるとんでもない仮説が導き出されてしまったせいだ。
……エジパンス族、というサテュロスの末裔がいる。かれらは下半身が山羊のようになっている半獣の亜人族で、カダヴェル山脈の南北にいくつも氏族を築いている。祖先と違い、かれらは異性にそこまで強くは固執しない。だがその代わりに欲情するのが、他人の所有する“価値ある財産”。──そんなかれらがどこかしらで、「同じ霊峰に棲んでいる先住民の秘宝を聞き知った」と仮定しよう。欲深い彼らは、まず間違いなく例の碑文を盗み出す。だが彼らはまた、同族同士ですら“価値ある財産”を奪い合う救えない性質を持つので、碑文があちこちに渡っていく。そうこうするうちにどんどん山を南下して、トランフォード側に出たとしたら。それが巡り巡って、あの邪であろう学者の手中に収まってしまったのだとしたら。そしてその学者がまた、トランフォード側に棲んでいる南のエジパンス族によって碑文を奪われたというのが、全ての真相だとしたら……?
──マルセルとフェルディナンドは、馬車で北上して数日目の夜に、山賊に襲われて積み荷を奪われたと言っていた。そのときのあいつらは確か、いやに多くの蹄の音を聞きつけていたはずだ。そして襲撃されたのもあの、この国のエジパンス族がたびたび出没する一帯。この情報から逆算すれば、上記の一説が浮上する。──盗み癖のある亜人族、その同族同士の盗難と例の学者が絡んで、名宝タブラ・スマグディナがトランフォードのあちこちを冒険しているなどという、とんでもない物語が。
しかしそれより注視すべきは、例の碑文が今失われているせいで、地味に国際問題が起こりはじめていることだ。何せ今、エジパンス族の被害に遭ったのだろう秘境の部族の手によって、何の謂れもないガリニアの無辜の民がたびたび脅かされている。ガリニアの巨大な政府は、カダヴェル山脈沿いの村に無関心なきらいがあるが、それでもトランフォード側に碑文が流れてしまったことで自国民が害されていると知ったら、きっとただではおかないだろう。……とはいえかの大国も、決して一枚岩ではない。こちらに根回しすることで和平を望む者もいる、魔導学院がその最たる例だ。国内ギルドに蔑ろにされ業を煮やしたあちら側は、どうせならトランフォード側の冒険者たちの働きを信じると決めてくれているのだろう。例の碑文周りの騒ぎを公には伏せているのは、そういうことであるはずだ。
──ならばそれに応えるのが、己が果たすべき使命。トランフォード国内で消えた碑文を捜し出し、解析に出すという体でガリニア側に返還する。そのためにまず、こちらが突き止められる限りのエジパンス族の住処を洗えるだけ洗うのだ。幸いかれらは、盗みに特化しているだけで戦闘力は高くない。カレトヴルッフほど大きなギルドも人員には限りがあるから、最悪の場合、自分ひとりで行動しても充分問題ないだろう。──そう、思っていたのだが。)
……なんで、おまえがここにいる……?
(──事件発生から五日目の昼。「もう肩の傷は問題ない」と受付に無理を通して自分の出動許可をもぎ取り、戦士装束の格好で東広場に来たギデオンは、王都の遥か北へ向かう街道馬車を待っていた。自分がこれから赴く先には、既にデレクとカトリーヌのパーティーが先行している。彼らや近隣ギルドのパーティーと合流しながら亜人族の巣を叩いていけば、きっとすぐにでも例の碑文を見つけだせると踏んだのだ。
だがふと呼ばれて振り返れば、そこには同じく遠征用の荷物を背負った、馴染みのヒーラー娘相手の姿。どう見ても同じ行き先に向かうらしいその様子をまじまじ見ると、信じ難いというように唖然とした声で呟いて。)
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