匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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ひゃ、~ッ、
( 耳を疑うほど情熱的な台詞を吐く目の前の美人は、今日だけではなくここ最近、何故かずっと、ずっと上機嫌に見える。そのままおもむろに、己の前襟をはだける仕草も、あまりに艶然として、何かいけないものでも見てしまったようで。それこそ、今まで何度も治療で見ているだろうに、堪らず悲鳴をあげながら赤い顔をぱっと両手で覆い隠すと。「しま、しまって、ください……」と懇願する声の弱々しいこと。嫌なわけでも、相手が怖い訳でもない。ただひたすらに、己の未熟さが、向けられる視線の甘さが恥ずかしくて。ふたりと外の世界を隔てるものは、薄い紙製の扉一枚だと云うのに、空間の特殊な性質上か、もっと大きな乗り越えられない何かに分断されてしまったかのように感じられて、急に心細い想いにかられると。かといって助けを求められる相手は、今自分を追い詰めている相手しかいないのだから皮肉なものだ。そうして、それまでぴんと背筋を伸ばして、真っ直ぐに座っていた脚を崩し、左手は未だ火照った顔を半分隠したまま、右手でギデオンの襟元をそっと正すと、 )
違うんです……
( そう必死に頭を横に振りながら思い浮かぶのは幼い頃、未だ何も知らずに自由に振舞っていた時代のことで。忙しい父を引き止めては、構ってくれなきゃ嫌だと駄々をこねる度、優しい父は表立って嫌な顔をすることはなかったが、どれだけ困らせてきたことだろう。あれから、年月が幾年も流れても、自分が本当に求めるものが幼少期から大して変わっていないことは薄らと自覚している。寂しいのは嫌、毎日無事に帰ってきて欲しい、食事を一緒にとって欲しい、たまには寝るまで手を繋いで一緒にいて欲しい……お金や特別なプレゼントが欲しい訳じゃない。だからこそ、お金で解決できない。忙しい相手に、子供みたいな駄々をこねる自分を想像して、ぞっと顔に集まっていた血の気を一気に散らすと。それまで顔を抑えていた左手も下ろして、両手を胸の横でぐっと握ると、良い言葉が思いついた、と少し満足気な、得意げな表情でギデオンに説明して。 )
私、すっごくワガママだから! 甘やかしちゃダメなんです……!
きっと、もう、どんどん我慢出来なくなって、すっごいお願いしちゃうから……ね? 困るでしょう?
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