匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( ──赤い、赤い大地から伸びた黒い腕が女を捉え、その地の底へと引きずり込まんとする悍ましい光景。頭上には怪しい程に明るい月を湛えたその光景は、まるでこの世の終わりの様で。どこか現実味を放棄した鼓膜を、囂々と響く地鳴りが占拠してそれ以外は何も聞こえず、命からがら女を助け出した男を地獄の番人の凶爪が襲う。発動した魔法陣を中心として、花畑の中心にぽっかりと空いた真っ黒な穴は、その奥からはこの地で散った者達の無念の声をもこだまして、もしここに正気を保った者がいたならば、最早今生に救いはないのだと誰もが覚悟したに違いないその瞬間だった。
それまで、剣士らをいいように蹂躙していた血の触手。ギデオンに切り伏せられて怯んでいたそれが、ぴこん! と、再び鎌首を擡げたかと思うと、手負いの剣士の方へとまっすぐに伸び──その隣で、今にもギデオンを嬲り殺そうとしていたウェンディゴの心臓を貫く。酷い腐敗臭の漂う巨体がどうと倒れたその背後、頭上の月まで届きそうなほど溢れ出ていた触手はその身の色をどす黒い赤から、月より眩しく暖かな聖なる魔素の色に染め、ギデオンとの間に立つその娘のシルエットを柔らかく浮かびあがらせるだろう。 )
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ギデオンさん!!ご無事ですか!!
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( ウェンディゴを真っ直ぐに貫いたのち、その金色の指でギデオンの傷口を温かく注いでいった触手がしゅるりと戻っていくのと引き換えに、愛しい相棒のもとへと飛び込んできたヒーラー娘が “それ” を見つけたのは、エデルミラに突き立てられたナイフを力任せに引き抜き、勢い余ってひっくり返っていた時だった。不自然なほど密集した花々の根元に隠されるように刻まれた古代魔法、それ自体は世界中にみられる古代人から続く祝福の息吹だが、しかしそこから溢れる魔素の色に、いち早く女剣士の仕業に気がつけば。複雑な古代魔法の解読と、無念を訴える死者の魂への祈りが間に合ったのは紙一重だった。そこに大層な信念も目的もあったわけじゃない。フィオラ、ひいてはヴァランガを雪崩から守っていた古代の魔法は、花畑に撒かれた死者の無念をも繋ぎ止める枷になっていたらしく。悪魔の子によって解放された罪なき魂たちが、彼ら自身も気づかぬまま、今度は自ら人を殺めようとしているのが心底痛ましかっただけ。しかし、彼らを縛り付ける枷から、彼らを唆す装置へと変貌した古代魔法を読み解く傍ら──彼らの魂が無事にロウェバの御許に辿り着けますように、という娘の祈りは無事願い届けられたらしい、エデルミラが捧げた“悪魔の子”としての彼女の人格と同様の供物を対価として。
そうして、花畑の激闘が収まった頃合いに、「おおーい」と響いたのは、先程救援信号を上げていた陽動隊の声だった。どうやら他の隊の救援を受けられたらしく、今度こそ二度と動かなくなったウェンディゴの死体と燃え上がる花畑、そして満身創痍の三人を見て、重戦士の一人が気絶したエデルミラを預かってくれつつも、説明を求めたそうな表情をぐっと押し込めたのは、とうとうフィオラの頭上の冠雪が激しい音を立て崩れ落ち始めたからで。そうして、「逃げろ!!」という怒号に、ビビもまた“対価”を失って少し軽くなった毛先を揺らし駆け出して。 )
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