匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
|
通報 |
──! ……はいっ!!
( 守護魔法の光を煌々と放ち、その鎧を金色に輝かせる相棒に思わず瞳を見開いて。その深い声が雷鳴のように鼓膜を震わせ、信頼に満ちた瞳が此方を射抜くだけで、それまでの絶望が嘘のように晴れていくのだから不思議でならない。何のことはない、この状況を“止める”には少し筋力不足だったかもしれないが、“治す”のは己の得意分野だ。ましてや他でもない相棒に任されたとあっては、それだけでエデルミラに引きずられていた背筋が伸び、熱気に侵されていた呼吸が楽になるようで。
アドレナリン放出で気が大きくなり、暴れる戦士を取り押さえるにはコツがある。それが魔法を使う手合いの場合、まずはその詠唱をとめてやることだ。難しいことはしない、できない。これがお優しい後輩ならばいざ知らず、ビビの場合は物理的にその口へと拳を突っ込んでやるのがやり口だ。相手の唇の動きに耳を傾け、その口が一際大きく開かれる瞬間、振りかぶった拳を相手の下顎目掛けて突き上げる。この時のポイントは、多少の抵抗が入ろうと絶対に拳を開かないこと、でないと指を噛み千切られるからだ。そうして目下の脅威を退ければ、物理アタッカーの場合、次は飛んでくる膝や肘をその辺の硬質な物体──今回は転がっていた補助腕の金具でいなして、相手が自分で繰り出した攻撃の威力で怯んだところを、「えいっ!」と全体重で組み伏せる。そうして繰り出す関節技は少々反則気味な気もするが、力も速度も格上相手に、しかもこれを喰らって尚カレトヴルッフの戦士たちは痛みに失神するまで暴れるのだから此方も手加減していられない。とはいえ、目の前の女剣士の場合はもう少し利口だったらしく。意識を落とす寸前で正気を取り戻したらしい彼女に、「一緒に帰りましょう、エデルミラさん!」と言い募れば。花畑に来てから初めて、話の通じそうな眼の色を浮かべた女剣士に、ついつい気ばかり逸って腕を外すより前にそうしてしまったからだろう。本来曲がる方向とは逆向きにキメられた己の利き腕を見たエデルミラが、「……それは脅迫かしら」と嘯くのを──それもありだな、と少し力を強めてみるも、その女の表情を見て一目で痛みでは支配できぬとわかれば、あっさり開放することにして。
とはいえ、エデルミラの調子が万全だったならば、ビビなど束になったところで適わなかったに違いない。組み伏せられる以前から満身創痍だった女剣士と二人、花の影で肩で息をすること数十秒。当初はビビの剣幕に「それは……」「私だって、」と気圧されていたエデルミラだったが、自分が発動した魔法陣を省みると「いいから逃げて」「あなた達を巻き込みたくはないの」と、再び頑なに首を振り出して。それでも諦めの悪いヴィヴィアンに周囲をぐるりと見渡せば、「貴女が此処に居たらノースさんだって巻き込まれるのよ」と、その言葉で一瞬ビビが怯んだのを見逃さず、隠し持っていた短剣でビビのローブを一際太い花の根に縫い付けてくる早業。そうして、娘が短剣を引き抜こうとする隙に華奢な腕を振り払えば、村民の成れ果てと対峙するギデオンの方へと駆け寄り、「……手伝うわ。だから、早くあの子を連れて逃げて」と。この場で一番強情であるビビの弱点と、そのビビ当人より余程ギデオンの感情を見抜く強かさこそ、彼女がデュランダルの代表としてこの村に来られた証左。しかし、次々と迫りくるかつて村民だった者たちに対し迷いのない剣さばきに、しなやかな身のこなしを一瞬鈍らせたのもまた、力任せに短剣を引き抜き、遥か後方でひっくり返っている、前線の二人より余程非力な娘の叫びで。 )
~~~ッ!! もうやめて!!!
そんな怪我で……ッ、こんな村のためにエデルミラさんが酷い目に合う必要なんかない!!
| トピック検索 |