匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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ギデオンさん──
( 作戦開始を待つ宵闇の中。優しく、というよりは縋るようにと表現する方が近い様子で握られた掌に、自嘲のような笑みが頑なに漏れる。この村に来てからというもの、それなりに強く、頼れるヒーラーのつもりでいた、そんな不遜な自己評価は、あまりにも呆気なく打ち砕かれた。杖を振り上げる訳にいかない相手を前に、じわりじわりと追い詰められていった己の一方で、今はこうしてビビに縋ってくる相手や、ほかの経験豊富な仲間達のなんと頼もしかったことか。──私はまだまだ残念なくらいに未熟だ。それでも、こうして杖をしっかりと握り、すべきことを見据えた時くらいはどうか、 )
──信じてください。
( こちらもまた祈るように漏らした掠れ声をかき消すように、作戦開始の鏑矢が響いたその瞬間。ヒーラーとして、相棒として、自らが役に立つことを証明しなければ。そんなどうでも良いことを一心に、この時、誰より大事なギデオンの表情を顧みなかったことを、酷く後悔することになるとは夢にも思っていなかった。
捜索隊が残りの仲間を見つけた合図を皮切りに、陽動隊の爆破が村を──厳密には、儀式がとり行われる舞台から見て、村の方向にある森を揺らす。幾ら悪習の隠れ里といえど、何も知らない子供達にとっては大切な故郷だ。村自体の存続を脅かす権利は冒険者達にはない。あくまで一瞬、儀式に関わる連中の視線を逸らせれば良い。続いて養蜂場の方角、花畑の方角と作戦通りに衝撃音が響いて、焦った村民たちが慌てて儀式を進めんと、"英雄"になる少年を建物から引っ張りだしかけたところを、ひらりと屋根から舞い降りて警備ごと眠らせ、少年、レクターの助手、そしてレクター本人を発見出来たところまでは良かったのだが。まずビビが少年、ギデオンがレクターの縄を解いてやらんと近づくと、最初に硬い縄から開放されたレクターが叫んだのだ。「──ウェンディゴが来ます!!」陽動が陽動でおさまらず、本当に結界が破られてしまった──そうレクターが二の句を次ぐ前に、五人の上に長い角をもった影がさす。ゆうに3mを越す毛むくじゃらの躯体が、助手の縄に手をかけていたギデオンを狙うのを咄嗟に杖で庇おうとして、その杖ごと木製の壁に激しく叩きつけられる。咄嗟に魔法で受身をとった故に大きな損傷は免れたビビの視界に、大きく丸い満月が毒々しいほど輝いて、ウェンディゴ──もとい、フィオラのエディを照らしていた。 )
ギデオンさん危ないッ…………!!
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