匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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…………、
(最初に吸い付かれたその時は、相手の可愛らしい甘えにたっぷり応える気でいたというのに。柔い熱を何度も押し当てられるうちに、相手の背を擦っていたギデオンの手つきは、次第に眠気を帯びるかの如く、緩慢なそれへ成り果てていく。……そして実際、今やどうだ。相手に微笑まれたその時にはもう、目元がぼんやりと寛いで、反応も随分鈍い。最初の愛しい語弊を揶揄う気すら起こせずにいる。ただただ、心地が良いせいだ──相手の温もりに巻かれることが。
故に、相手の指の腹が目元を優しく撫で下ろす仕草に、無言で身を委ねながら。たべたいもの……たべたいもの……と、奇しくも同じ思考回路をとろとろと巡らせて。やがて今度は相手の手をやんわりと取り、その小さな掌の内側に、薄い唇を含ませる。そうして、特に何とはなしに親指の根元のふわふわした丘を食みながら。やがて甘えた小声を吹き込む──「ウルスストロガノフがいい、」と。)
前に……ほら。
ふたりで、グランポートのあの通りを……ぶらついたろ……
(「あの時に看板で見かけて、ずっと気になっていたんだ……ウルス料理が……」と。そうは言ってくれるものの、しかしなかなかの要求である。ウルスという魔牛の一種は、カトブレパスほど強い臭みはないものの。海水で締めると美味くなる、というかなり風変わりな品種で、それ故扱いが難しいのだ。締める際の技術はもちろん、それ以上に、牛と海の二つの風味をバランスよく纏め上げるのが、大層至難の業という。おまけに、当時ふたりで眺めたのは、夏向けのさっぱりしたメニューだったはず。それを、今は冬場だから、体が温まるシチューがいい、なんて、言外に強請ってのけている。──しかしそれでも、ヴィヴィアンならできるだろう、と。或いは自分のためにしてくれるだろう、と。そんな贅沢な信頼と甘えを、ひと息に寄せたものらしい。その後もしばらく、「本場だと、アーケロンの甲羅を器にして食うらしい……」だの、「ショールムの卵で綴じる地方もあるとか……ないとか……」だの。こちらは流石にオプションではなく、以前何気に調べ尽くしていた飽くなき探究心の成果、それをただただ吐き出しているだけなのだが。何にせよ、そういった話を相手がこうして聞いてくれる、それに心底満たされるらしく……ぐるぐると喉を鳴らし続ける有り様で。)
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