匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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……はい、行きましょう。
( ──なんて、惨いことを。ギデオンの肩越しにジェロームの手記を覗き込み、今にも泣き出しそうな表情を堪えて力強く頷けば。目的の見えない醜悪に、強大なドラゴンを相手取るような意気込みで潜った平屋の中は、しかしビビにとっては拍子抜けするほど馴染み深い空間だった。厚い扉をくぐった途端、暑すぎず寒すぎず、適湿で無機質な空気が周囲を取り巻く心地よい感覚。ここの構成員が皆、祭の準備に取り掛かっているからだろう。部屋は暗いのに、微かに響く風の音は空調魔法のそれだ。ポツン、ポツン……と、一定のリズムを打って落ちる薬品が、落ちた先の溶媒とその都度反応して淡く輝き。隣の棚に並ぶのは、乳棒とセットになった白い乳鉢に、清潔に保たれたビーカー、大小の薬匙はピカピカに磨かれて錆ひとつない──"秘薬"の話を聞いた時からあるだろうとは思っていたが、まさかこんなに現代的とは思わない……ここが、紛れもないフィオラの"製薬工場"だった。 )
お祭りは、年に一度、ですよね。
…………。私は薬の方を探ってみるので、ギデオンさんは帳簿を。
( 思わず苦しげに漏らした呟きには、未だまだ心のどこかでフィオラの村民達に悪気はなかったのだと。外界との関わり方を忘れてしまった、ただそれだけで、未だ正しい道に戻れる可能性を信じたかった青い苦悩に満ち溢れて。一年に一度、ただひとりの英雄を生み出すのには過度な規模の工場に、顔を顰めるのを堪えられず。どうやら研究結果を記しているらしいホルダーの棚の方へと、幼い表情をギデオンに見咎められぬよう顔を逸らしたのが数分前の事だった。
そうして手に取った書類の中身は、例の秘薬の投薬実験の結果のようだ。被験者の年齢と性別、それからおおよその身長と体重に──しかし、無機質な文字の羅列の様子がおかしくなるのはそれ以降だった。
40代男/170cm65kg/250cm300kg
50代女/150cm40kg/300cm500kg
10代男/190cm85kg/210cm350kg
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前半の数字は被験者の身長体重だとして、2番目の数字はなんだろう。特別扱い被験者の体格と比例するわけでも無さそうだが──その答えは、何気なく捲った次のページが語ってくれた。フィオラの秘薬を投薬された人間が満月を浴びると起こる現象の全て。鋭く伸びる爪と牙に、次第に分厚い毛皮が背中を破る。本来、将来の形から大きく変わるはずのない人間の骨格、それがバキバキと嫌な音を響かせ、ゆっくりと変貌していく間の断末魔の詳細。その末路の姿は被験者ごとに異なるも──これは紛れもない、『人が魔獣へと変貌する』瞬間の世にも悍ましく信じ難い光景の記録だった。 )
──…なによ、これ
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