匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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ん……ああ、おかげでだいぶ良くなった。
世話を……かけた、な……
(──あれからどれほど長い間、彼女に甘えていたのだろう。語らいとも微睡みともつかぬ、穏やかなひとときを過ごしたのちに。ギデオンはようやく、のっそりと顔を上げた。その面差しは、未だぼんやりと夢うつつではあるものの。目の前にいる恋人が、相も変わらず慈愛に満ちたまなざしをくれていることに気がつけば、幸せそうに口元を緩め。切り替えるように頭を軽く振り、確かめるように辺りを見回す。そうして、いよいよ復帰するべく腰を上げる、その前に。相手の献身的な介抱に対して、当然の礼を伝えようとした──その時だ。
「……!?!?!?、」と。心優しいヒーラー娘を乗せたままの戦士の体が、やけにぎこちなく、あからさまにがたついた。思わず周囲を二度見三度見し、言葉を失したその顔は、間抜けなほど呆然としている。相手の読み通り、ギデオンの嗅覚は、すっかり狂いがなくなったのだが……それでようやく、我を取り戻したらしく。この状況がおかしすぎることに、今更ながら気がついたようだ。
「……ヴィヴィアン。まさか……ここは……ギルド、なのか……?」と。あまりにもな確認に、相手がそうだと答えても、未だ信じられない様子で固まっていたギデオンだが。廊下の向こうからひょいひょいやってきたベテラン仲間の数人が、こちらをちらっと見たものの、さして気にせず──もう見慣れた光景と言わんばかりに──通り過ぎていくのを見れば、嫌でも理解するほかなかった。肉球のついた片手で思わず顔をがっつり覆い、深々と項垂れて。「わ、るい……悪い。本当にすまない……。なあ、あの、俺は……どのくらい……こうして……?」と、心情がありありと滲む呻き声を絞り出す。
──自業自得の社会的恥辱に打ちのめされた衝撃は、それはもう凄まじい。しかしそれ以上に、理性が戻ってきたからこそ、きちんと気がつくものもある。今のこの位置取り、相手の受け答えの様子、朧気ながら残っている記憶の数々。そして何より、さっきのあいつらの様子からして。己の恋人──否、この場合は“相棒”が、きっとこれ以上ない配慮を施してくれたのだ。故に、今一度心の底から、「ありがとう……」と、先ほどより一層しみじみした謝意を述べ。ようやく少し態勢を直し、どうにかいつも通りの自分に戻ろうと言を繰るものの。やはりまともに目を合わせられず、きまり悪そうなその横顔は、らしくもないほど真っ赤な色で。)
……、残りの……仕事に……行ってくる……
帰りは、そうだな……今日の具合だと、おそらく真夜中くらいだろうから。先に食べて……休んでてくれ……
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