匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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──………………、
(その文脈を咥内でじかに味わい、胸の内も頭の奥も熱く爛れていた矢先。耳に届いたのはあまりもの殺し文句で、思わずくらくらと目眩さえ覚えた。──今のが本当に、純真無垢な娘の口から捧げられた台詞だろうか? しかし理性はもちろん、ヴィヴィアンが決して魔性の女などではないことを知っている。いつのまにか彼女の華奢な背を這いまわしていた、己の両掌の下。うら若い恋人の躰は、固く小さく強張って震え、まるでエレンスゲの前に差し出された生け贄の乙女のようだ。……未だ、怖いのだろう。以前語った、昔の恋人との一件が、今なお深く刻み込まれているのだろう。しかしその一方で、“パパが絶対にしないこと”……ギルバートが認めないような深い交わりを、ギデオンとしたいのだ。そのばらばらになりそうな、いじらしい心ごと。手つきを穏やかなそれに変え、そっと彼女を抱きしめる。そうしてまずは、怖がりな娘の頭や背中を、あやすようによしよしと撫で。いつもの“安心できる恋人”の声で──情欲は一度押し込めて──、柔らかな耳朶にそっと囁き。)
……任せろ、忘れられなくしてやる。
でも、そうだな……こういう行為は、信頼や安心感があってこそ楽しいものだ。
だからまずは、おまえの緊張が少し抜けるまで、こうして触れ合うのに慣れよう。……なあ、上だけ脱いでもいいか?
(──おそらく、この情景を傍から見る者があったなら。歳の差があるとはいえ、共に成熟した男女同士。その事の始めが本当にこれなのかと、酷く呆れたことだろう。だがここは、自分たちふたりの我が家。他に人目はなく、大切なのは互いだけ、何を気にする必要もない。恋人の許可を得れば、ごくさりげなく身じろぎしながら、いつものワインレッドのシャツを寛げ。やがては肌着ごと脱ぎ捨ててしまうと、まずはただ、相手と静かに抱き合うのを堪能しはじめる。完全な素肌同士ではないとはいえ、いつもより肌の面積が広いのは確かだ。ヴィヴィアンの体温がじかに伝わるのがギデオンには心地良いが、きっと彼女には、これもまだ刺激的な部類だろう。故に焦らず、急がず。膝の上の彼女をあやすように抱きしめ、とくとくと鳴る心臓同士を近づける。互いの呼吸を同じリズムに近づければ、少しはこの多幸感を分け与えられるだろうか。ヴィヴィアンの様子を見ながら、時折耳や頬にごく軽い口づけを施し、「ここにいるのは俺だよ」「大丈夫だ」「おまえの怖いことはしない。ちゃんとゆっくり、確かめながらやるから……」等々、囁くこと十数分。ようやく強張りが弛んだのを感じて、思わず嬉しそうに微笑めば。今度はまた少しずつ、相手の知識の確認に入る。いつぞやの連れ込み宿で、アイリーンのあのマシンガントークに相槌を打てていたくらいだ……歳相応に物事を知ってはいるだろう。それでも、無駄に経験豊富な自分と、実践面はほぼまっさらだろう彼女で、おそらく常識の範囲が異なる。故にこれは揶揄いではなく、あくまで大事な話なのだと。そんな言葉が白々しく聞こえるほど、楽しそうな声であれこれと会話を繰り広げ。「……そういえば。自分で無柳を慰めたことは?」。酔っ払いにするには聊か迂遠なこの質問も、魔導学院出身で教養のある彼女ならば、と投げかけた者。──別に、本当に大事な確認であって。彼女を虐めるつもりなど、ちっとも、これっぽっちもないのだ。)
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