匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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簡単なものですけど、桃の方はおかわりありますからね。
( 相手の苦悩など露知らず。盛り付け終わった皿と共にソファの方を振り返れば、向こうもほこほこと衛生的になった姿に、雪色の眦をほっと緩ませ、微笑む相手の隣へ腰掛ける。そうして見上げた恋人の顔が、いつにも増して頼もしくうつって、その分厚い肩に甘えるように頭を預ければ。ビビの空いたグラスに気がついて、新たにステアしてくれる手元の色っぽいこと。もじ……と、やけに座り辛い位置に装飾の来るランジェリーに、さりげなく姿勢を直してグラスを受け取れば、食前の乾杯を楽しんで。
流石、一応高級住宅地であるサリーチェでやっていけていけているだけあると言うべきか。内心の懸念を逸らすつもりでかぶりついたスナックは、その手軽さとは裏腹に、ピリッとしたソースが香る素晴らしい出来だった。思わず隣の恋人と顔を合わせ、目を輝かせれば。ローストビーフの焼き加減や、ソースの隠し味について真面目に議論すること暫く。──毎晩ビビの手料理を楽しみにしてくれているギデオンが、態々こうして時間を作ってくれたのだ。そうでなくとも、本来ギデオンは関わらなくていいはずのパチオ家の問題に、此方が手動で動かなければ不誠実というものだろう。
しかし、信頼する相棒に対してこうも口にするのを躊躇うのは、ビビ自身がこの事態の解決方法を思いついてないからだ。……分かっている、分かっているのだ。なんにせよ、とち狂って駆け落ちでもしない限りは、あの頑固な父親と再び向き合わなければならないことを。しかし、優しいギデオンはああいってくれたが、再び二人を引き合わせて、ギデオンが悪く言われるのはビビが辛抱たまらない。それに、烈火のごとく怒り狂っている父を相手に──否。自分のためにあんなになってまで、とんで帰って来てくれた人を相手に、あんなに酷いことを言ってのけて、今更どんな顔をして会えばいいと言うのだ。なにか……特別に連絡が無いことから察するに、ギルバートの容態に悪化の兆しはないのだろうが、あの父親が大人しく休めているのだろうか。あまり好きじゃないキングストンでひとり、きっと寂しい夜を過ごしているだろうに。こうして最愛の恋人の隣、大好きな我が家で過ごしている己はなんて非道なことか。──そう、何度も何度も口を開きかけては口を噤むか、違う話題を引っ張り出すか。いい加減、不自然なことは己も分かっていて、未だ覚悟が決まらずに。このまま心中を口に出せば、まとまっていない思考でギデオンに迷惑をかけることを分かっていて、一歩踏み出せないままでいる。そうして、買ってきた軽食も一段落ついて、ギデオンの作ってくれた香りの良い酒を舐めては、空いた手で相手の大きな手を弄べば臆病にも、持て余した口から滑り出るのは、余程言い慣れたらしい愛の言葉で、 )
…………あのね、……。その…………、
ギデオンさん……好き。じゃなくって……いえ、好きですけど、世界一愛してますけど、その、んー……
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