匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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狡いって……おまえ、犬に妬くこたないだろう……
(じとっと見上げる不機嫌な目に、わかりやすい膨れっ面。呑気に笑んでいたギデオンは、それらにぶちあたるなりはたと止まり、薄青い目を瞬かせた。その酷く間抜けで鈍ちんな隙を逃がすようなヴィヴィアンではない。こちらの両手を攫ったかと思えば、先ほどの戯れの痕を徹底的に拭い去り──挙句その手を、彼女自身の頭の上に導いては、撫でろ撫でろと押し付けてくる有り様で。ようやくその心中を察したギデオンも、しかしすぐには応えずに、呆れたような、参ったような、力ない呟きを落とすのみだ。
──このうら若いヒーラーが、去年の晩春以来ずっと、やたらと己を慕ってくれているのは知っている。しかしそれにしたって……いくら歳の差があるとはいえど、お互い立派な成人同士だ。普通に人目もあるのだし、子ども扱いするような真似は如何なものか。第一、相棒関係というのは、こんな形で互いを構うようなものでもないのではないか。傍目にはかなり珍妙に映ると思われるのだが……。
しかし、そんな躊躇いの間も、不満げなヴィヴィアンに再度催促されようものなら、打ち切らないわけにはいかない。賑わう周囲をちらと憚ってから、小さな嘆息をひとつ。ようやく根負けしたらしく、ごく緩やかな手つきで、彼女の乱れた旋毛や前髪を、整えるように撫でつけはじめる。仮にそれに、違う、ちゃんと撫でて! とアピールされたならば。或いは、まだまだ不服そうな面持ちを寄越されたならば。また一瞬躊躇してから、前方から後方へ、ようやくゆったりと掌を滑らせてやるだろう。それからごく自然な流れで、籠手の内側の柔らかい革を使い、相手のすべらかな頬まで撫でて……そのかんばせを上向かせ、静かにじっと見下すこと数秒。──はた、と我に返るなり。「……これでいいか、」と、相手の薄い肩を軽く叩きながら、妙に固い表情を逸らして。)
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