匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(ギデオンの期待に反して、先往く歩みをぴたりと止めたヴィヴィアンは、すぐには答えを返さなかった。こちらも自ずと立ち止まり、夜燈に浮かびあがる相手の顔を、白い息を零しながらごく静かに見つめてみる。聖夜に贈った赤いマフラーの上──先ほどまで無垢に笑んでいた相棒の表情は、不服の色に曇っている。けれどそこに、迷いながらも考えを深める気配までもが立ち昇り。やがて絞り出された声、こちらをまっすぐに見上げてきたエメラルドの強い輝きに、なるほど、と心情を察した。──やはり、この人選に間違いはない。後輩の能力をまっすぐ信じてやれる一方、上の真意を汲み取ろうと分析できる聡明さ。己の相棒ヴィヴィアンは、本人自身の能力も勿論見事だが。後続の若手にとって、この上なく善い指導者となるだろう。)
……ああ、アリアは優秀だ。優秀だからこそ、本来の力を遺憾なく発揮できるよう、背中を押してやってほしい。
おまえは大抵、どこの現場でも気後れなく動けるだろう? それは本来、誰でもできることじゃない。……逆に言えば、そう難しくない、簡単にできることだって、やり方を見せてやればいい。
場所なり人数なり、クエストの重要度なりが変わろうと、ヒーラーの果たす仕事は、ある意味どこでも同じだろう。その心構えを……要は、一見どんなイレギュラーな状況だろうと、いつもと変わらない仕事をすればいいだけだってことを、あいつに示してやってくれ。
(──無論これは、少し乱暴な言い方をしている。仲間や市民の命が懸るからこそ、ヒーラーは全職務の中で、最も繊細な立ち回りを求められる立場といっても過言ではない。だが、己の言わんとすることは、きっと相棒にも伝わるだろうか。アリアの細やかさは、経験の浅いうちこそ仇にもなるが、ひとたび自信さえつけば、いつどこでも、あの丁寧な仕事ぶりを発揮できるという強みにもなる。そのきっかけを、彼女が尊敬している先輩の頼もしい背中をもって、示してほしいだけなのだと。
話しながら歩くうちに、大通りに着いたようだ。今までの道より更に明るい街灯に煌々と照らされるなか、右に左に、大型の馬車たちが忙しなく行き交っている光景が飛び込んできた。それが途切れるタイミングで、重々安全を確認しながら──夜の街道は、人が撥ねられる事故も珍しくはない──相手と共に渡りきると。もうすぐそこは、相棒の下宿。たしか、お隣には役者の女性が住んでいるんだったかと、少しばかり雑談も交えて。)
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