匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( トランフォードの誇る華の王都、キングストンから南部を繋ぐ中型客船。その月明かり差し込む三等船室には、大河を遡上するペダルが水を漕ぐ低い音と、そのペダルを回す魔力が奏でる微かな煌めきが心地よく響いている。そこで書物を終えたヴィヴィアンは、ゆったりと窓辺に腰掛けて、ギデオンから貰った簪とスカーフを何度も何度も撫でては月明かりに照らし、ほう……と、うっとりした吐息を漏らしていたのだが。今晩は月が明るい、既に寝入っていたリズが眩しそうに寝返りを打ったのを見て、そっと静かにカーテンを締めると、一人静かに甲板へと上がることにしたのだった。
そうして、月明かりを反射して光る水面を何気なく眺めながら、良い場所を探して広い甲板をゆっくり一周しようとした時のこと。船尾から右舷の方へ曲がり視界が開けた途端、少し離れた柵にもたれ掛かる姿すら様になる相手を見つければ、思わずいつも通り飛びつこうとして、そよぐ髪の毛に一旦立ち止まったのは──ギデオンが似合う、と言ってくれた姿で会いたかった乙女心。新緑の風に広がっていた髪を捕まえ、赤いスカーフの髪留めの角度にこだわること30秒ほど。変な所がないか近くの窓でチェックしてから、再び跳ねるようにして駆け寄ると。今回ばかりは欄干の近く故、危なくないようしっかりと速度を殺して抱きつくと、柔らかく、しかし溢れんばかりと愛しさは伝わるように、背後からぎゅうぅ、と長く強く抱き締めて。 )
──……こんばんは、ギデオンさん。
こんな時間にどうされたんですか?
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