匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( ──ビビちゃん、ビビちゃん……ギデオン・ノースさんが。生憎の天気に見舞われた、グランポート三日目の夜。雨に振り込められたコテージに力強いノックが響いたその瞬間、ビビはリズと共に昨日の片付けに取り掛かっていた。こんな酷い天気の中、思わぬ訪問者に固まっていると、冷たい目をした親友に酒瓶を奪われ、そのまま玄関へと突き出されてしまう。──せめて着替えさせて欲しかったな、なんて。まだ日中の装束をかっちりと着込んでいる相手に対して、此方はと言えば、昨年の夏披露したアレ程ではないものの、胸元も脚も投げ出した、気の抜けた部屋着が居心地悪くて。そうでなくとも丸一日以上、碌に顔を合わせていなかった恋人に気まずい思いでへらりと笑いかけると。それが表向きの理由だとは分かっていても、確信に触れない事情にほっと顔を緩めながら、広い玄関に相棒を招き入れた。 )
んっ、分かりました……ちょっと着替えて来るので待ってていただけますか。
( それから四半時は経っていないだろうか。いつもの仕事着に着替えたヴィヴィアンとギデオンは、コテージ裏手の急な階段を下って、夜の砂浜を歩いていた。雨はまだしとしとと降り続いていたものの、玄関先を出る際、ビビが傘を手に取らなかったのは、自分が今からしなければならない話を、傘二つ分の距離を隔ててとても出来る気がしなかったからだ。そうして自然と一つ傘の下、誰もいない浜辺を、数cm越しに相手の体温を確かめながらゆっくり歩く。目指しているのは、砂浜の西側に浮かぶ小屋の影。小屋と呼ぶにも些か簡素なそれは、数本の柱にトタンの屋根が乗っかっただけで壁もなく、落ち着いて話をするにはやや開放的だが、夜の帳と静かな雨が目隠しとなってくれる今晩にはピッタリだろう。
ザザ、ザザン……サクサクサク……と、低い波の音を縫って、二人分の足音が耳をくすぐる。小屋につけば、優先すべきは仕事の話で──……もうこれ以上なく私的な話をするなら、今しかない。そう意を決して開いた唇は、辛うじて謝罪の気持ちは音にしてくれたものの。それ以上を口にするのがどうしても出来なくて、どうしようもない羞恥と、ギデオンに呆れられたらという恐怖に震えて白い顔で唇を噛む。それでも、ギデオンに話すための勇気を、ギデオンに貰っているようで訳ないが……今日はまだ一度も触れていなかった手をそっと握り。何度も何度も躊躇って、話の確信から逃れようとした結果、なんとか震える声を絞り出してから、逆にとんでもないことを口にしてしまったことに気がついて、堪らず潤んだ瞳を海側に逃がすと。初日以降ゆったりとおろしている豊かな髪の隙間から、真っ赤な首筋を覗かせて。 )
……ギデオンさん。お仕事って……ううん。
昨日は、変な態度を取ってごめんなさい。……突然だったから少し、驚いちゃって。
…………っ! それ、それでね……、あの、…………っと、ギデオンさんは私と──その、キス……以上のこともしたいの……?
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