匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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っひぅ、……!
( もしこのまま、甘やかな触れ合いを続けられていたならば、胸の奥で膨れ上がった期待を宥めるのはさぞ難しかったことだろう。そう離れていく手を名残惜しく、少し残念に思いながらも、密かにほっと安心していたのも束の間。戯れに耳を擽った指に、思わず小さく声が漏れ、顔を真っ赤にして両手で口元を抑え込めば。相棒の瞳に滲む色に、ますます体温は上がるばかりで。そうして、どうしようもない期待にドキドキと高鳴る心臓を押さえつけ、「……ギデオンさ、」と小さく言い募ろうとしたその瞬間。顔を包んだ手が大きく温かい一方で、継がれた物言いの意地悪さといったら。 )
──ちょっと、!
( ──狡い。真っ赤なビビを見下ろし、愉快そうに目を細める相棒に怒りの鉄槌を下そうと。力強く見上げた相棒の瞳は既に、これ以上なく真剣な色に染まっているのだから。言いたかった言葉は全て、行き場の失った拳と共に、ゆるゆると虚空を彷徨うしかなく。ギデオンの熱い視線に絡め取られて、潤んだ瞳をそらすこともままならない。この時には、ギデオンが紡ごうとしている言葉の意味にも、ようやっと気がついて、自分の心臓の音で鼓膜が破れそうだった。それでも、病院着の背中をしゃんと伸ばして、ギデオンの言葉を受け取れば──「イヤ、です」と、真っ直ぐな瞳をした娘は、赤い頬を小さく膨らませて見せる。勿論、"責任とってください!"そう自分から迫ったことを忘れたわけじゃない。しかし、ヴィヴィアンはこの気持ちの責任を、既に自分で取れるようになってしまった。建国祭で宣言して、聖夜の小屋で約束したように、この先一生ギデオンが応えてくれなくても、この先自分はずっと待ち続けられるだろう。何より、ギデオンへのこの大切な想いは、ギデオン本人にだって譲れない、ビビの宝物だ。それに、この一年間。此方は何度も何度もその想いを伝えてきたと言うのに、その言葉だけで察しろなんて、それは少し卑怯じゃなかろうか。するりと相手の首に手を回したビビの表情に、先程までの困惑は既になく。寄せられたギデオンの影の下、強欲な光を称えた瞳がらんらんと綺麗な弧を描いていた。 )
──……責任は、取らせてあげない。
だからちゃんと……ちゃんと、貴方の気持ちを聞かせてください。ギデオンさん。
……我儘、聞いてくれるんでしょう?
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