匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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(目の前でパニックを起こす娘の、なんとわかりやすいこと。一瞬どうしようもなく情熱が込み上げて、かと思えばこちらにぽうっと見惚れて。そこから理性を取り戻そうと、必死に思考を巡らせながら、自制心を取り繕って。──ああ、これはたぶん、まだわかってないな、と淡く微笑む。或いは、こちらの急な変化が理解できずに、必死に辻褄合わせをしようとしてくれているのかもしれない。けれど、相手のそんな殊勝な心掛けは、これからは必要ない。相手の熱は……こちらも望んでいるものだ。
故に。「そうか」と言って、思わずくつくつと喉を鳴らしながら。手を僅かに下ろしたそのままに、彼女の柔らかな桃色の耳朶を、愛情を込めて軽くくすぐった。相手がどう反応するにせよ、これで目と目が合ったなら、そこに浮かぶ“相棒”らしからぬ色合いで、少しは伝わるだろうか。今度はその手を、すべらかな頬に……小さな顔を包むように添え。親指の腹で目元を撫でつつ、少し面を上げさせると、大きな瞳を覗き込んで。)
あの日の俺がそうだったなら、お前は、そうだな……一生懸命だったな。
町の人たちをあれもこれも治しまくって、あちこちにたくさん花を咲かせて。
夜更けの宴じゃ、ワイン一杯で真っ赤になって。それで、それから──……
(そうしてあの日の思い出を、ひとつひとつ。低い掠れ声で、けれども少々の笑みを滲ませて、意地悪く辿っっていった末に。ヴィヴィアンが初めて、唐突に迫ってきたあの瞬間を仄めかすころには、愉快気な気配などとうに消え失せていた。
そうだ、あの日の翌日──キングストンへ、同じ馬車に乗り込んで帰る頃。相手は前の晩の記憶を、アルコールで消し飛ばしたりはしていなかった。それどころか、諦め悪くギデオンに言い募って……そこからすべてが始まったのだ。
そう思い出した途端、ギデオンの薄青い瞳は、ただ静かな熱を帯び、相手の視線を縫い留めて。そっと顔を寄せたかと思えば、吐息交じりに一度……別の台詞を重ねながら尋ね。)
──……
責任を、取っていいか。
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