Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.499 by アーロン・ガードナー/ギデオン・ノース  2023-07-16 23:12:36 




(アーロンの黒い爪が、一瞬の躊躇もなくヘレナの首を刎ね飛ばす。当然その後は、赤黒い弧を描きながら飛んでいく──と見せかけて。虎の眼をした女の生首は、物理法則を完全に無視した動きで、再びアーロンの下に舞い戻るのだ。もはやただの夢魔とは言えぬ、執念の怪物だった。だがそれは、ただの人間を逸脱したこちらも同じこと。ヘレナががぶりと食らいつけば、アーロンはその腕に力を込め。牙を動かせないように固めて、再び苦痛の魔法を繰りだす。女の苦悶の絶叫を聞いて、ざまあみろ、と冷酷にせせら笑う。だがその酷薄な表情も、死に物狂いのヘレナによって、虚を突かれることになる。
──そうして何度も、何度も何度も。愛憎に狂った女と、厭いあぐむ男の殺し合いが、いつまでも繰り広げられた。だがしかし、どれほど血みどろになろうとも、双方ともに決定打には至らない。──体力魔力ともに余力はあるが、所詮は眷属上がりの似非悪魔に過ぎないアーロン。生粋の悪魔として幾度もリミッターを解除するが、ギデオンとの戦いで一度完全に消耗しており、復活後も枷を嵌められてハンデを負った状態のヘレナ。そしてふたりは、ともに悪魔の身であるからこそ、相手を確実に死に至らしめる聖なる魔法が使えない。そんな戦いに終止符を打つのは、結局はどちらの味方でもない第三者。……つまり、過ぎ行く時間だけだ。
白み始めた空の下、いよいよ迫る朝日の気配に双方胃の腑をひりつかせながら。互いにグロテスクな異形を見せつけるアーロンとヘレナが、殺意の煮える眼を今一度交わした瞬間。──ヘレナが斬りかかったのと、アーロンがすかさず“それ”を取り出してヘレナの腹に突き刺したのは、ほとんど同時のことだった。)

……いいや。
もう目を覚ます時間だよ、ヘレナ。

(その頸椎に、愛憎の爪を深々と突き立てられながら。それでもアーロンは、血を零す口元に勝利の笑みを浮かべて、別れの言葉を穏やかに告げた。
ヘレナが自分の脇腹を見下せば、そこにはきっと、清く煌めくヴァヴェルの鱗が食い込んでいることだろう。──アーロンがずっと隠し持っていたこれは、他でもないあの親友が、別れ際にそっと託してくれたものだ。あのとき、“絶対にまた会いに行く”と約束したアーロンに、ギデオンはふと表情を変え、掌に乗るほどの小さな袋を渡してきた。あちこちがほつれ、煤や土で薄汚れている割に、可愛らしい小花なんぞがあしらわれてあるそれは……ギデオンの腕の中にいる娘がくれた、カイロというお守りだという。奴曰く、本来ならば、冬の寒さを和らげてくれるくらいの、優しい魔道具でしかないのだが。ギデオンが地下に潜り、何度も視線を潜り抜けてこちらを助けに来る間、聖なる光を幾度も発し、ヘレナの使いを焼き殺したそうだ。おそらく、娘本人も知らぬうちに、ギデオンへの加護の魔法を織り込んであったのだろう。あまりに強大な闇が迫れば、聖なる力が発動するようにと。そしてこの、今アーロンとヘレナがいる戦場は、作り手本人の聖魔法が激しく爆ぜた後だった。つまり、このお守りは。──純度の高い聖なる魔素を、再びたっぷりと吸っているのだ。
これを取り出したアーロンも、もちろん無事では済んでいない。聖なる鱗に直接触れた手は焼け爛れ、回復もままならずにぼたぼたと解け落ちている。──それでも、このくらいなら喜んでくれてやれる。似非悪魔の自分より……生粋の悪魔たるヘレナの方にこそ、“これ”がよっぽど効くはずだ。
ヘレナが最期、どんな表情を浮かべていたのか。アーロンは見ていなかったし、何を言ったかも聞こえちゃいない──否、聞こうともしなかった。とにかく、このときの彼はただ。突き刺さっているヘレナの手ごと、自分を守る魔素の障壁を展開し。彼女に刺さったヴァヴェルの鱗に……ありったけの悪魔の火を、渾身の勢いでぶちこんでやったのだ。
その途端起きた爆発の、凄まじいことといったら。この時遠くにいたカレトヴルッフの冒険者曰く、森じゅうの大地が激しく揺れて轟いたという。そして、その数時間後。戻ってきた小鳥たちの酷く呑気なさえずりが響く、魔狼の森のど真ん中……一体がまっさらに焼き払われた、やけに聖らかな爆心地にて。──頸に黒爪の刺さった悪魔が、妙に晴れ晴れとした面持ちで、横たわっていたそうだ。……)
















……ヴィヴィアン、頑張れ。
がんばれ、がんばれ……

(──その爆発の、少し前。昨日の土砂降りの名残であろう、ぬるく優しい霧雨が、まだしとしと降っていた頃。
ぼろぼろの風体で森の外れに出たギデオンは、その両腕に、ぐったりと動かないヴィヴィアンを抱きかかえていた。雨に濡れて冷えぬよう、己の上着をかけているが、それでも相棒の身体は、こちらの心の臓のほうが凍りそうなほど冷たくて。──いいや、まだ大丈夫だ、かすかだが息をしているはずだ。何度もそう言い聞かせながら、応援が来るであろう方角に歩いていくと、やがてその農道の脇の木の根元によろよろと身体を預け。ずるずるとしゃがみ込むと、もう一度ヴィヴィアンを抱きかかえ直して……力のないその掌を、己の大きな掌でしっかりと握り込み、彼女の頭に顔を擦り寄せる。そうして、愛しい栗色の頭に、時折たまりかねたように弱々しく口づけしながら。何度も何度も手を握り直し、壊れた魔力弁同士をしっかりとすり合わせ。魔素がみるみる抜け落ちていく彼女の身体に、己の魔素を懸命に吹き込んでは、何度も何度も……何度も、何度も。腕の中の娘に、優しい声で呼びかけるのだ。)

ヴィヴィアン、もうすぐだ。
もうすぐ助けが来る……俺たちは、絶対に助かる。
だから、頼む。頼む……頼む。あと少しだけ、頑張ってくれ。
一緒に……飯を食いに行くんだろ。
約束した我儘だって、まだ叶えてやれてないだろ……
だから、絶対……ふたりで一緒に、無事にギルドへ帰るんだ。
そうだろ、ヴィヴィアン。
……なあ、ヴィヴィアン。
ああ、頼む、お願いだ……

(夜明けの風がざわざわと起こり、大木の梢から大粒の露が滴る。そうして、すぐ下にいるギデオンの頬を、熱いものが伝い落ちていく。──視界がどんなにぼやけようと、重く沈みそうになる視線を、縋るような思いで上げ。薄ぼんやりと明るくなりはじめた空の下、道の向こうに未だ人影が見えないことを確かめれば、悲痛な表情を押し殺し、きつく目を閉じて再びヴィヴィアンに顔を寄せる。そうして、痛いほど詰まる喉で、掠れた声を震わせて……何度も何度も、呼びかける。
ギデオンは生まれてこのかた、神を信じたことがない。この世というのは、ただ淡々と事実が連続していくだけで。それを受け入れ、適応していってこそ人生なのだと、齢七つの幼い頃からそう信じて生きてきた。だが、ああ、どうか今だけは。神がいるなら祈らせてほしい、この願いを聞き届けてほしい。──彼女を助けてくれ。ヴィヴィアンの目を覚まさせてくれ。彼女の笑顔を、無事に健やかに過ごす姿を、もう一度見せてくれ。それが叶うならなんだっていい、死ぬまで鞭打たれようが、生きたまま焼かれようがいい。だからどうか、俺たちを見つけてくれ。ヴィヴィアンを助けてくれ。──ヴィヴィアンを失う道など、絶対に受け入れられない……他の何より、耐えられない。
その心からの祈りも、心の底からの恐怖も。やがてほとんど、朦朧とする泥濘のような意識の中に呑み込まれていってしまった。魔力が尽きていくヴィヴィアンの身体が、ギデオンからの供給を弱々しくも貪ったからだ。“己のありったけの魔力を他人に分け与える”……ヒーラーであるヴィヴィアンが当たり前のようにしてきた行為が、こんなにも激しい自己犠牲であったなどと、戦士のギデオンは知らなかった。頭ではわかっていても、自分が経験してみれば、それが如何ほど無償の愛かを思い知る。何かがどろりと垂れたと思えば、それは自然と流れた鼻血で。ヴィヴィアンを汚さぬよう顔の向きを変えただけで、視界が激しく明滅し、頭の奥が割れそうに痛み、吐き気や嘔吐きが込み上げる。それを必死に飲み下せば、今度は身体の芯から起こる、霧雨のせいだけではなかろう凄まじい悪寒。二度ほど目の当たりにしたことがあるこの症状、間違いない──魔力切れだ。ちくしょう、と心の中で悪態づく。沸き起こる無力感に、ヴィヴィアンの身体をますます強くかき抱く。……己の魔力の乏しさのせいで、弱り切っているヴィヴィアンへの輸素さえままならないというのか。本当に、俺はどこまで。13年も経った今すら、何ひとつ──いいや、いいや! 汗と雨滴の流れ落ちる横顔を持ち上げ、その目をかっと見開いて。折れそうになる心を必死に掻き集めると、ヴィヴィアンの額にもう一度キスを落とし、もはや己のそれすら冷たくなった指先を、今一度絡め直す。魔力切れが近いなら、もはや空になればいい。数秒の時間稼ぎでもいい、自分の全てをヴィヴィアンに捧げるのだ。そうして意識を必死に保ち、力なくずれる魔力弁を何回も探し直しては、反応してくれと願いながら押し当てて。ヴィヴィアンのそれが微かに、無意識に応えてくれることだけを頼りに、決死の想いで魔素を送り込みながら。胸の内で、また何度も何度も、誓いのように繰り返す。──助かる。俺たちは助かる。おまえは、絶対に助けてみせる。

その悲願を、天はようやく聞き届けてくれたのかもしれない。ギデオンがふと、疲弊しきった顔を上げたときには。いつの間にか来ていた二台の馬車から飛び降りた男たちが、一目散にこちらに駆け寄り、「大丈夫か!」「しっかりしろ!」と、聞き覚えのある声を投げかけてくるところだった。ギデオンの目はほとんど見えず、近くに来たはずの男たちの顔の判別さえ、ろくにつかない有り様だったが。「……ヴィヴィアンを、」「……魔力、弁が、」と、呂律の回らない舌でどうにか伝えようとすれば、男たちに交じっていた熟練のヒーラーが、全てを汲み取ってくれたらしい。「任せな!」という声が聞こえるほうへ立ち上がり、よろめきながらヴィヴィアンを託すと。すぐさま彼女が運び込まれた馬車に、自分も乗り込もうとして──そこで、ぶつんと意識が途絶えた。)






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