匿名さん 2022-05-28 14:28:01 |
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( アーロンの目から光が消え失せ、漲っていた魔力が徐々に抜けていく。ヘレナに愛を囁いた口から血を吐いて、優しく触れた手もがくりと落ちて動かない。もうこの人が軽薄に微笑む表情も、冷たくヘレナを追い払う表情でさえも、もう見られないと思うと強く胸が痛んで──これでもうアーロンさんは、あの男に笑いかけない。そうゾクゾクと湧き上がる歓喜にうっとりと表情を綻ばせる。そうして、伸ばしていた髪をしゅるしゅると縮ませながら、動かなくなった男に手を伸ばすと、ヘレナを拒絶しない、ヘレナ以外の誰にも微笑みかけない"理想の男"を抱き止めようとした瞬間。ぐったりと項垂れ、あとは消えゆくだけだと思っていたアーロンの生命力がぶわりと溢れて。そのおぞましく変貌した面を視界に捉えれば、さらに恍惚と目を見開いて。 )
アーロンさん……その、お顔も、とっても素敵……ぐうッ!!
( そうして愛しい男の新たな一面にうっとりと見蕩れていた隙をつかれて、拘束具に魔力を流されれば、首元を抑えてその場に崩れ落ちる。──嫌、嫌よ。何も出来ずに、一人ぽっちで見ているだけなんて。アタシの中で動けなくなるのは、アーロンさんじゃなきゃ……。そう首をはね飛ばされても、執念でその腕にかぶりつき、新たな身体を生やして切り裂きにかかったところで、チョーカーに魔力を流され思うように身動きが取れない。せめてもっと上を切ってくれれば、チョーカーごと切り離せたものを。ならばと再び髪を伸ばしても、相手もそれを警戒していて、自慢の髪が……アーロンが綺麗だと褒めてくれた髪が、そのアーロンの手に寄って切り刻まれて舞い散るだけ。──早く、早くしなくちゃ。そうヘレナが焦るのは、朝が近いからだ。夜が悪魔や魑魅魍魎の時間なら、昼間は人間の時間だ。往年の自分ならいざ知らず、今朝日に照らされればヘレナとて無事ではいられない。しかし、良くも悪くもお互いを知り尽くしている同士、お互い致命傷は避けられても、同様致命傷を与えられぬまま刻々と時間が過ぎる。そうして燃え尽き、ぽっかりと空いた天井の穴から、朝日が差し込む寸前、再度強く足場を蹴って、アーロンの首に強く爪を突き立てようとしたのは、一か八かの賭けだった。 )
──アーロンさんはアタシと此処で、ずっとずっと素敵な夢を見るのよ
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