Petunia 〆

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匿名さん  2022-05-28 14:28:01 
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  • No.486 by ヘレナ/ギデオン・ノース  2023-07-10 13:50:27 




そう……いいわ。これで契約成立ね。
──あなたの名前は?

(ヘレナが恐れた先程までの力強さは、一体どこに消え失せたのか。自ら進んで血を流すその有り様は紛れもなく、情の深すぎる女の顔だ。清く眩しく、まるで正反対だと思ったこの娘も、男のために身をやつすところは、自分とそう変わらぬらしい。それがヘレナに、初対面の時とはまるで違う心境へ至らせた。青白い手を微かに動かし、娘の頬を包むように添わせ。相手の瞳を覗き込みながら、最後にひとつ、大切な情報を引き出す。
──そうして、娘が答えるや否や。悪魔の瞳孔が不気味に光り、一閃した爪がヴィヴィアンの首を浅く切り裂くだろう。そしてその傷口に、すぐさま蛇が如く食らいつき、温かく塩気のある生き血を激しく吸い上げる。力が満ちる──強張った手の黒い爪が、ヴィヴィアンの新鮮な血の色に染まっていく。ようやく柔肌から唇を離せば、今度は彼女の左胸の上に爪で契約印を刻み。それが紫に光ったのを確認すれば、よろめくなり崩れるなりするヴィヴィアンに構うことなく、背後の大窓を振り返って。不気味に閃く稲光の中、血で汚れた唇を獰猛に釣り上げ、堂々と天を仰ぎ、いよいよ詠唱を始めるだろう。『我、月なき昏い夜のもの、夢の通い路にてまろうどをおびくもの。リリスの子孫、リリムの一族、夢魔ヘレナ・バット・アブラヘルの名に於いて。贄たる娘、ヴィヴィアン・パチオと、血盟を以て契約せり』……
──かくしてここに、悪魔ヘレナと乙女ヴィヴィアンの契約が成立してしまった。紫の紋様が全身に這いまわったヴィヴィアンの身体は、ひとりでに宙に浮かんだかと思えば、どす黒い邪悪な靄に引きずり込まれてしまうだろう。ギデオンを無力化し、アーロンを連れ出すまで、ふたりの契約は完了しない。それまでの間、ヘレナはヴィヴィアンをこの揺り籠に固く閉じ込め、常に魔力を啜るのだ。
現に、今も。ヴィヴィアンの肢体にねっとりと絡みついた黒い触手が、靄の塊から幾筋も伸び出てヘレナ自身に繋がり、ヴィヴィアンから吸い上げた魔素をドクドクと流し込んでいる。金色だったヘレナの目は、今やヴィヴィアンと同じ美しい翡翠色に塗り変わり。けれどもその白目は黒く、青白かった肌は毒々しいほど赤く染まる。頭部には二本の角がめきめきと長く芽生え、切っ先の尖った悪魔の尾もしゅるりと妖艶に伸びた姿は、まさに最高潮の能力を振るう狂暴な悪魔の姿だ。──ああ、だって、こんなにも力が漲る。これほど莫大な魔力があれば、きっと全てが思い通りだ。邪魔な男を追い払い、娘の魂を取り込んで、その器を乗っ取れば、望みはきっと果たされる。今度こそ彼と、アーロンと──ふたりで、永遠に幸せになれる。荒れ果てた館のホールで、ヘレナは我知らず、高い嬌笑を響かせた。)



……ヴィヴィアン?

(そこからはるか遠い、暗く沈んだ地下洞にて。斬れども斬れども襲い来るグールを、それでも眩い雷魔法で無理やり焼き払っていたギデオンは。ふと何か……虫の知らせのような感覚がして、元来た頭上を振り仰いだ。そこには何もない──否。ギデオンに力添えをするこの館の怨霊たちが、聞くだに恐ろしい呻き声を上げながら天井に渦巻いているだけで、それ以外は何も見当たらない。だというのに、何だろう。氷の刃を突き付けられたような、底知れぬ恐ろしさに心の臓が竦むような、そんな感覚に駆られたのだ。──ギルドに戻る道すがら、ヴィヴィアンの身に何かあったのだろうか。これ以上こんな場所に居させられなかったとはいえ、やはりあのままひとりで帰したのは危険過ぎたのかもしれないと、心配に顔が歪む。急がなければ……早くアーロンを見つけてここを脱出し、無事を確かめに行かなければ。眉間をしかめて思考を振り切り、再び先へ走り出す。──あとに残していった、その空間の岸壁が。不気味な赤い光をドクンと脈打たせたことに、ギデオンはついぞ気づかなかった。)



(──最下層。とうとう辿り着いたそこで、鎖に繋がれたアーロンの下に駆け付け。変わり果てた友人を幾歳月ぶりに抱きしめて、ずっと伝えたかった言葉を……「助けに来た」という台詞を告げる。弱りきった悪友は、馬鹿野郎、と力なく罵ってきたが、お互い血まみれの顔を見合せ、くしゃりと笑みかわせば、もうそれだけで、それぞれの想いを伝えるには充分だった。「さっきの子は?」「応援を頼んで先に逃がした。俺たちもここを出るぞ」「こういう頑固なところ、おっさんになっても変わってないのな」「おまえの向こう見ずさも相当だ」「出るにしたって、ここはあいつの体内だ。どうやって」「ここまでだってその筈だ。でも俺が、現におまえを見つけられた。勝算はそれで充分だろ」「…………」。そんな会話を交わしながら鎖を断ち切り、よろめく友に肩を貸して歩き出す。怨霊たちが先導する地上への階段を上る道すがら、これまでの身の上をぽつぽつと語り合い。今も眠っている子どもたちの話に差し掛かった……そのときだ。
不気味な地響きが轟いたと思うと、すぐ先の天井が突然激しく崩れ落ちた。そうして、もうもうと立ち込める白い土煙の中から、彼女が……ヘレナが、満を持して姿を現す。どういうわけか、女悪魔は異様に妖しい赤膚の姿に変わっており。横にいるアーロンが愕然としたその隙を狙って、長い爪をビッと差し向け──魔法の杭に磔にした。途端に、しかしギデオンを絶望させたのは、彼女の形態の変化や、アーロンを一瞬で拘束されたことだけではない。ヘレナの後ろに、黒い靄が。靄に抱かれた人間の娘が、ぐったりした様子で浮かび上がっていたのだ。──見違えようもなく、ヴィヴィアンだった。

その時ギデオンが突き落とされた恐怖は、どんな言葉を使っても言い表すことができないだろう。確かに無事逃がしたはずのヴィヴィアンが、悍ましい女悪魔の手中にがっちりと囚われて……しかも今も、刻一刻と、生命力のような何かを吸いだされて苦しんでいる。ヘレナが何事かを、おまえの命だけはどうだとか言っていたのを、ギデオンはほとんど聞かなかった。表情など消し飛んだ顔で瞬時にヘレナに肉薄し、その首を刎ね飛ばすべく、渾身の魔剣を大振りで薙ぐ。殺す──絶対に、今ここで倒す。──だが、覚醒形態のヘレナは、強いどころの話ではなかった。艶やかな笑い声を上げながら、次元の違う威力を真正面から叩きつけ、蹂躙し、ギデオンの体をすぐさま赤く染めていく。しかしどういうわけか、瞬時に殺せそうなものを、致命傷までは与えてこない。
やがて彼女が組み始めた紫色の魔法陣を見て、ギデオンははっとした。──あれは、アーロンが自分たちを転移させたものと同じだ。ギデオンを殺すつもりはないなどと言っていたが、その言葉のとおり、ここから強引に追い出すつもりらしい。──ふざけるのも大概にしろ。アーロンとヴィヴィアンをおめおめ置いていくわけがあるものか! だが、ギデオンの必死の回避と反撃にも、余裕のヘレナは艶然と微笑むだけだ。──この子の望みよ。この子が私にお願いしてきたの。あなたを無事に逃がしてって。そうしたら──私に身体をくれるって。

恐怖と怒りが極まると、何も見えなくなることを、ギデオンはこの時初めて知った。──だがそれでいて、身体は冷静に、的確に動く。自分のせいで、大事な人が、何の罪もない健やかな人が……犠牲になる。13年前のあの悲劇を、よりによってヴィヴィアンで繰り返す。そんなことを、死んでも許すはずがない。最早最後の理性を捨て、館の怨霊を己に直接取り憑かせる。ギデオン自身にも凄まじい苦痛が伴うが、この女悪魔を倒せるならなんだっていい。手段は択ばない、躊躇う暇はない。
ヘレナの表情もさすがに変わった。「あたしに魔力を使わせれば使わせるほど、この子が弱るのよ──わかってるの!?」と、余裕を失して叫び、悍ましいモンスターを幾十幾百と召喚するが、ギデオンはもはや会話に乗りもしなかった。洞窟中を照らし出す雷魔法を撃ち出し、それでも飛び掛かってくる怪物どもに埋め尽くされても、血みどろになって全てを肉塊へ変えていく。──ヴィヴィアンの身体が、魂が、笑顔が、未来が、こんな風に奪われていいはずがない、その一心で剣を振るう。ヴィヴィアンが死ぬ前に、ヘレナを倒す……それだけが、唯一の最適解だ。

無敵状態だったヘレナをたじろがせたのは、さらに。磔にされていたはずのアーロンによる反撃だった。ギデオンを撃ちかけたヘレナを、横から火魔法で殴り飛ばした友は、既にボロボロだった身体で、それでも再び立ち上がり。かつて地上でドラゴンを狩り明かしていたあのときのように、ギデオンの横に並んで、その爪を構えたのだ。
「どうして──どうして!」と、突然幼さを取り戻して泣き叫ぶヘレナに、アーロンは穏やかに言った。あの時と同じだよ。君がニーナの背骨を折った、二十年前のあの時と。僕は、君を止めなくちゃいけない。……君の望みは、邪悪だ。
ヘレナの狂気が再び爆発した。13年前と同じように、アーロンをきっかけに──嵐のように荒れ狂った。ヴィヴィアンを閉じ込めている靄はいよいよ激しくのたうって、中にいるヴィヴィアンの魔力を吸いだしていく。どうやらこの悪魔は、いずれヴィヴィアンの肉体を奪うはずであるというのに、人体から魔素を流し出す時に通り抜ける、目に見は見えない部分を壊してまで、徹底的に魔素を搾り取る暴挙に及ぼうとしているらしい。──そこが傷つくと、血小板の少ない人間が流血を止められないように、魔素の流出が止まらなくなる。いよいよヴィヴィアンが、本当に死に瀕してしまう。
その最悪を想定して──靄の中のヴィヴィアンの顔が今、激しく苦しんでいるのを見て。ギデオンの魔剣は、いよいよ凄味を増しはじめた。それにアーロンも、13年前は持っていなかった、悪魔の異能で加勢する。ここでヘレナの力にも、限界が見え始める。……元より、ヴィヴィアンの魔素の大部分を占める聖属性のマナだけは、悪魔の中に取り込めない。ヴィヴィアンの魔力量は膨大だが、ヘレナが搾り取れる量には、最初から限界があったのだ。さらに、自業自得なことに。ヴィヴィアンの身体の魔法機能を壊したことで、聖属性のマナがとめどなく溢れだして辺りに充満し、ヘレナ自身がそれに激しく苦悶していた。──やがて。最愛の、13年もそばにつかせたはずのアーロンに、幾度も幾度も反逆されて、彼女なりの一途な愛を邪悪だと否定されて。ヘレナはきっと、錯乱したのだろう。「そんなに──そんなにあたしが嫌いなら──もういっそ、一緒に──!」と、アーロンにとどめを刺しかけたそのとき。同じ惨劇を二度と許さぬギデオンが、猛然と割って入り──振り返ったヘレナが、反射的にその胸を魔法の刃で貫いた──その瞬間。ヘレナ自身の、断末魔じみた絶叫とともに……凄まじい魔素の爆発が起こった。)



(──ガラン、と魔剣の落ちる音がして、ようやく。ギデオンは、自分が頽れているのを知った。横向きのまま、視線をぼんやりと投げ出せば、そこにはヘレナが倒れていて……その奥の靄から、アーロンがヴィヴィアンを引きずり出したのが見える。視界が霞んで良く見えないが、数時間前にギデオンにしたように、ヴィヴィアンを介抱してくれているらしい。ヴィヴィアンが身動きし、意識を取り戻したらしいのを見て、思わず安堵した途端。胸からせり上がった血が、がふっと口から零れ出た。──心臓は無事だが、肺をやられたらしい。呼吸がうまくできない──胸がだんだん苦しくなっていく──視界が暗い、耳も何だか遠い。だが、今度こそ……今度こそ。巻き込まれた無辜の人の危機に、ぎりぎりで間に合っただろうか。肩を並べて戦った友を、見捨てずに済んだだろうか。この身を全力で賭けたことで……13年前のような悲劇を、食い止めることができただろうか。)



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