手紙の奥の非日常【 指名制 / 文通 / pf不要 】

夕紅に、咲く影ひとつ。
ひたむきな君の花ひとつ。

迫る闇に覆い隠されてしまった。
踏みつけられて死んでしまった。

桜が散った。
枯れ葉が割れた。

過ぎゆく季節に、
君を零してしまった。

（　その他、十数枚の紙に詩が綴られている　）

こんなはずじゃなかった。
こんなことのために、
僕は魔術を学んだわけじゃない。

今や魔法使いは戦争の道具だ。
意味もなく争う時代だ。

僕は守りたかった。
降り掛かる脅威のすべてから、
守り切れるものすべてを。

そのために数々の魔法を編み出した。
それをたくさんの人に伝えた。

人々は笑った。
だから、これでいいと思ってしまった。

気付いた時には僕の魔法は凶器になっていた。

周りは味方を守るために戦えと言うが、
こんなものは略奪と同じじゃないか。

絶対的な悪が、そこにあればまだ良かった。

けれど、これは、僕の守りたかったものたちが、
歪み、うねり、暴走して至った結末。

僕が生み出したものは、
魔法なんかじゃない。呪いだ。

負の感情は僕の魔力を増幅して、
多くのものを破壊した。

相次ぐ賞賛。英雄と呼ばれる日々。

今、僕の目には僕が、
まるで悪魔のように見えるんだ。

今日も塔の窓から差す陽を眺めて一日が終わった。

わたしを殺さずここに幽閉したのは、
敵国の王の慈悲でしょうか、それとも拷問でしょうか。

ここは冷たくてかたい。
暖かくて柔らかいものなど何もない。

唯一それを持つ陽の光さえ、
遥か上部。手の届かない場所。

心細いのです。寂しいのです。

誰か、わたしの声を聞いてはくれませんか。
誰か、この声に、答えてはくれませんか。

誰にも届かず反響するだけの自分の声が、
ただ、どうしようもなく、虚しいのです。

桜が散るのを見て綺麗だねって言うの、
もう五回目。

さすがに五回目にもなったら綺麗だなんて思わなかったけど、
私に出来ることなんてこれくらい。

毎日、毎日、ベッドの上で寝転んでるだけ。
真っ白な天井を見てるだけ。
清潔な空気に触れてるだけ。

何も生み出せないまま横たわって、
ただ生きて、息をしているだけで。

好きなことも出来ずに、
周りに頑張らせてるだけ。
誰かの人生の時間を食い潰しているだけ。

生きてる意味って、何なの？
もう、終わらせてしまいたいよ。

私のために頑張ってくれている先生や両親には、
とてもそんなこと言えなかったから。
代わりに桜が綺麗だねって言ったの。
笑ってくれたら、許される気がして。

最新技術ってすごくてね、
機械に繋がれてる間は痛くも苦しくもないの。

でも、治らないの。じきに死ぬの。

痛くも苦しくもないのに、
痛いよ。苦しいよ。

誰か、助けて。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

ターゲットの心臓を狙った。
手が震えてお腹に当たった。
赤黒い血がたくさん見えて、
全身から力が抜けた。

ターゲットが声を上げるより早く、
おとうさんが頭を撃ち抜いた。

「次しくじったらお前もああだ」
冷たい目がわたしを見下ろしていた。

本当は誰も殺したくなかった。
本当は誰も傷つけたくなかった。

ねこのシャルロを殺した時も、
インコのるり子を殺した時も、

わたしはずっと泣きたかった。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

いくら謝ったって許されないけど、
わたしの生きる道はこれしかない。

宵闇に、せめて月の光が差すように。
あなたの孤独な夜に、光あれ。

（　／　海辺のポストに手紙が届きました。　）

>>3　どこかの国の王子様へ

とても苦しい思いをしてこられたのでしょう。
気持ちがよくわかるだなんて言えるはずもないですし、言ったところで貴方の傷が癒されるわけでもない。

なので、私は貴方の苦しみを少しわけてもらいたくてペンを取りました。
このやりとりが、貴方様の少しでも癒しになりますように、と。

弱音をきかせてください。どこぞの誰かわからない相手にだからこそ吐き出せる弱音を。

完璧じゃない貴方様を求める人間が此処にいると伝えます。

投げ出してしまえと言えたら、楽なのでしょうが、そんなことはできるはずないんですよね。なので、少しでも楽しみが増えればいいなと思います。例えば、窓から見える鳥の数を数えてみるとか。

眠るのが怖い王子様。
明日を生きようとしなくていいんです。
とりあえず今日一日生きてみてください。
くたくたになって休んで、目が覚めたら、
また一日だけでいいです。生きてください。

なんて。どこかのドラマから抜粋したような言葉ですが……少しでも貴方様の助けになれるなら、またお手紙書かせていただきますね。

別国の娘より

>>4　生きる屍のような方へ

命より重く大事なものはなんですか？
国を変えることですか？
自爆であれば、
国が変わったかも分からないのに？

貴方が勝って終わったとき
貴方に何が残りますか？
振り返った時、仲間の屍があって
屍が笑っていたとき、
貴方は笑えますか？

こんなことを始めたきっかけは
なんでしたか。思い出せますか？
国を変える、たった一言で始めたことですか？

生きていてほしい人がいました。
でも、死んでしまった。
テロのおかげで。

私は貴方が答えを見付けるまで手紙を送り続けます。


巻き込まれ死亡した人の妹より。

＞１　追記

海辺のポストは現代日本に存在し、〝あなた〟はこの世界に生きる住人です。ただし、他の誰かを騙って投函することも可。現代日本人でないと思われる手紙は、そのように判断します。もし手紙の取り消しをする場合は、取り消したい手紙へとアンカーをつけて、『返送』の指示を。

>8　よわそーなボッチのアンタへ

なんか事件すか？よくわかんねけど、その状況はマジですか？
もしマジならヤバイすね。ケーサツに連絡した方がいいんじゃないすかね。
外に連絡できねーなら大声出すとか？
ひげんじつてきすぎてわかんね。敵国とか、日本じゃない感じ？

とにかくあきらめるのだけはマズイから、メンタルだけはしっかり持った方がいいすね。
なんかアンタすげー弱そうだし。体もココロも。
誰かがそこに来たときにボコれるように体鍛えとけば？
誰でもボコれる体になればまだココロのよゆうってやつができるっしょ。

まあでも、一人じゃキツイ時あるってのは分かるから、俺で良けりゃメル友の相手になってやります。
メル友って古すぎか？つか手紙だから、テガトモ？わかんねーけど。

あんたにこの紙届くかわかんねーけど、もしまた一人がイヤなったら返事ヨロシクです。
俺も暇だったら返事かきます。


やさしくてかっこいい俺より。

＞９ みらいじんのおねえちゃんへ

はじめまして！
ななね、きのう５さいになったの
おにいちゃんによんでもらって、てつだってもらって おてがみかいてます
おねえちゃん、どこかいたいの？
くるしいの？
じゃあね！なながおっきくなったらおいしゃさんになって、おねえちゃんのことなおしてあげる！
だからね、しんじゃだめだよ
でね、おねえちゃんのびょうきがなおったら、ななといっぱいおはなししようね！

ななより

＞１２


君は、誰だ？
君が、私の手帳にこれを書いたのか？

錠をつけて、鍵は常に私が持っていたのに、
一体どうやって？

……いや、やめよう。
こんなに優しい言葉を掛けてくれる君を詮索するなんて、不躾だった。無礼を許してほしい。

完璧でなくても良いと、
そんなことを言ってくれたのは君が初めてだ。

私に求められるものは変わらずとも、
君の言葉だけで少し肩の荷が下りた気がするよ。
ありがとう。

しかし、こんな情けない手記を見られてしまうとは恥ずかしいな。
もし、出来るならば、なのだけれど。
このことは他言無用でお願いできないかな？

また君が、この手帳を覗いてくれることを願って。

＞１３


命知らずの何処かの馬鹿

どうやってアジトに忍び込んだのかは知らねェが、
わざわざ文句を言いに来るとは殊勝なことだな。

その度胸に免じて一度だけ返事を書いてやるが、
もう二度と来るんじゃねェぞ。
こっちだって無用な怪我人は出したくないんだ。

オレは、自分のしていることが正義だとは思っちゃいない。
こんなのはオレの我儘で、気に食わないから壊すだけだ。

たが、間違っているとも思ってない。
だから、アンタにも、アンタの姉にも、謝る気はない。

オレは変えなきゃならない。
腐った国を、この王政を。

王族、貴族が贅を貪る傍ら、
スラムで子どもたちが死んでゆくようなこの現状を。

今さら幸せなんざ望んじゃいない。
賞賛なんざ求めていない。

ただ、救われなかったあの子たちが、
少しでも浮かばれるよう祈りながら、

何かを変えられると信じて、
戦い続けるしかないだけだ。

＞１５


やさしくてかっこいい俺さんへ

水路に落とした瓶が戻ってきて、
押し戻されたのかと思っていたら、
中にはあなたの手紙がありました。

嬉しくて、何度も読み返して、
今ようやくお返事を書いています。

あなたの言葉は難しくって、
半分くらいは分からなかったけれど、

あなたが優しいことだけは、
理解ができました。

ボッチとは、何ですか？
ケーサツとは、日本とは、メル友とは何ですか。

ここには書庫も無くて、
調べることも、出来なくて。

体を鍛えるには、どうしたらいいのでしょう。

走り回るなんてはしたないことは出来ないし、
ここは剣を振り回せるだけの広さもありません。
そもそも、剣も無いですし。

ごめんなさい。
あなたに聞いたって、困らせてしまうだけでしょうけれど、
今わたしが頼れるのは、あなただけです。

また水路に瓶を落とせば、あなたの元へ届くでしょうか。
そんな奇跡が、起こるのでしょうか。

少しだけ、縋ってみてもいいですか。
どうか、あなたに届きますように。

＞１６


５さいになったななちゃん と おにいさんへ

はじめまして。
ななちゃん、おたんじょうびおめでとう。

カギのかかるいちばんうえのひきだしに、
いつのまにかななちゃんからのてがみがあって、
おねえさんびっくりしちゃったな。

わたしがみらいじんなら、
ななちゃんはまほうつかい？　なんて。

ななちゃんがおいしゃさんになって、
わたしのびょうきをなおしてくれるまで、
おねえさん、がんばっていきてみるね。

そして、たくさんおはなししようね。

てがみといっしょに、
ななちゃんへのおたんじょうびプレゼントもいれておきます。

ななちゃんのゆびにはまだおおきいかな？

これはふしぎなゆびわでね、
うれしいと『あか』になって、かなしいと『あお』になるの。

ほかにもきもちによって、いろんないろになるんだよ。
ななちゃんは、わたしのかわりにたくさんいろ、みつけてね。

ひきだしにいれておいたら、
またななちゃんにみつけてもらえるかな。

ほんとうは、かってにひとのひきだしをあけるのは、あんまりよくないけど……。

カギはいつもおなじところにかくしてあるから、
ななちゃんならもうわかってるよね。

おてがみ、ありがとう。
お兄さんも、ありがとうございます。


（　手紙には、飾り気のない指輪が同封されている　）

>6

小さな花は光を求めた
光は照らさず闇に照らされ
心は深く閉ざされた

弱く小さな花は
枯れ散り踏まれ
消えてしまった

小さな花は
小さく零す
「認められたかった」と
そんな小さな私の叫びは
季節の中に消えてしまった










小さな旅人より

＞２１


打ち捨てられた夢の残骸に、
聴き覚えのない詩を見つけた。

でも、それは、いつか聴いたような、
苦しそうな音で鳴っていた。

手を伸ばせど、
波のように揺らめいて、

足を止めれば、
呑まれ沈んでゆく。

足のつかぬ水底で息を、
まだ息を、止めることができない。

音の聴こえない水の中、
あなたの吐いた泡を見つけて、

僕はまた、ひとつ息をする。
あなたの詩を、歌っている。

>22

君の吐いた音が波打ち際から私に吹き込んだ
その小さな音は小さい私の心を照らす


息ができない私に
息を吹き返せた君を



私はそれを追う
君の跡を追う


私の詩が
海を越え君の心に響くなら

君の歌が
海を越え私の心に届くなら

また私は息を吐こう
また君の息を見つけよう



小さな旅人

私は紅い花を咲かせた
綺麗だった

綺麗だった、はずだ
なのに、なのに

目の前で涙を流している彼の涙すらも
もう拭うことはできないのか

十八歳で咲かせてしまった
つくづく運の悪い女子高生だ

視界が赤黒く滲んでいく
もうこれを書くことも難しい

大切な誰かにどこかへ
届けてもらうとしよう

願わくば
共に戦った仲間たちに
花を咲かせて散ってしまった仲間たちに

私を愛してくれた、あの人に

幸せな＿＿(赤黒く滲んでいて読めない)ように


それでは、また来世で



100人を殺めてしまった女子高生

＞6

金魚であればすくえたでしょうか
いいえ、人はまず
すくえると思う傲慢さを認めるべきでしょう

とはいえ、すくいすくわれる傲慢さをきらいにもなれない
そういう欲張りがあってもよいでしょう