管理人。 2021-01-29 15:12:00 |
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>楸
【 3月某日 / 路面電車 車内 / >62 】
恥ずかしながら、私は料理が出来ないので、白米と野菜だけ用意して、おかずはスーパーのお惣菜や冷凍食品で済ませてしまってばかりです。
( 出来合いの食事ではなく、材料を買って自炊するらしい彼に、娘が『最近は男も料理をする時代だ』と言っていたことを思い出す。男は外に出て働き、女は家庭を守る。そんな時代はとうに終わったのだと。目まぐるしく変化する時代に、私は置いてけぼりだ。ひとまずは北部のスーパーマーケットへ案内しようと、北部との境へ向かう路面電車に乗り込む。もう年単位で香撫町に居るが、この無人のシステムには未だに慣れない。「いやはや、こんな事なら私も少しくらい料理の勉強をしておくんだった」空いている車内の座席にゆっくりと腰を落ち着けると、眉を下げて面目無げに微笑む。「外では女房が毎日手作りしてくれていましたから、時々無性に人の作ってくれたものが食べたくなってしまって。先ほど候補に挙げた定食屋なんか、値段もそこまで高くないのに美味しくてですね、奥さんも気立ての良い方で、よく立ち寄らせていただいています」聞かれたことに対して、出来るだけ誤解のないよう正確に、素っ気なくなってしまわないよう愛想の良い返事を、と心掛けていると、どうにも一方的に喋ってしまうのが私の悪い癖だ。歳を取ってくると、良い意味でも悪い意味でも周りが気にならなくなって、目の前に相手がいるという意識が抜け落ちてしまいがちになるのだろうか。しかし、今日のやり取りで、後に残るのが『年寄りの話は長い』という印象だけになってしまっては困る。上辺を撫でるような言葉の交わし合いはやや退屈ではあるが、まずは親交を深め、彼の人となりを知るところから始めなければ、私の目的は叶わない。足掛かりとして、こちらからも何でもない質問を投げることに決める。 )
楸さんは、よく料理なんかをされるので?
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