主 2020-09-28 23:06:45 |
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> 月( >53 )
……楽しいとか、楽しくないとか、そういうことじゃない。そうじゃなくて、ただ…… ( 彼女の言葉に、ぴたりと動きが止まる。張り付いていた笑みは剥がれ、いつだってよく回る口も、今は何も言えずにいた。やっと吐き出した言葉は、自分でも驚くほど頼りなくて、『ただ』に続く言葉を探すように視線が地面を彷徨う。──「そうしないといけなかったから」。ぽつり、と、気付けばほぼ無意識にその一言が漏れていた。そこで初めて、自分でも知らなかった自分の気持ちを悟る。そうだ、騙さなければいけなかった。周りのことも、兄さんのことも、あの人のことも。笑っていなければいけなかった。それがどうしてなのかは、もう忘れてしまったけれど。努めて明るく、あるいは諭すように、名前を問う彼女の声に視線を上げる。おれは、その声に短く「……來」とだけ答えた。今は、自分の気持ちを整理することに精一杯で、他のことは何も考えられなかった。今なら何を聞かれても素直に答えてしまいそうだ、という危機感を覚えながら、それでも心の中は凪いだように静かだ。重ねて問い掛けられた質問にも、余計な思案をすることなく、頭に浮かんだ風景をそのまま口に出す。 )
丘の上。……少し遠いけど、行ってみる?
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